異世界海水浴 4
アマイカを解体し褐色エルフたちに分けて貰った貝などを使い海鮮焼きそばを振舞ったクロは、満足気なアイリーンに鉄板などの食器や調理器具を浄化してもらい収納するとワカメを塩水で洗いザルに広げる。
「こっちの世界のワカメは緑が濃いな」
≪限りなく黒いですよね~≫
「茹でたら綺麗な緑になるらしいけど……ん? 白亜はバブリーンさまと何をやっているのかな?」
≪竜の淑女としての教育をすると言っていましたよ~ドラゴンマナー教室?≫
海竜であるバブリーンが幼い白亜に何やら身振り手振りで教えコクコクと頷き真似て同じ仕草をする。その様子を見つめながらもワカメを塩水で洗いながらザルにあけ夕食の準備を進める。
「このヒラヒラが本当に美味しくなるか疑問だけど、クロが言うのなら美味しいのだろうね」
「好みもあると思いますが美味しいですよ。他にも白身魚や豆腐に香味野菜も入れますから楽しめると思いますよ」
「鍋料理とは違うのかしら?」
ワカメを持ち興味深げに見つめるエルファーレとビスチェ。
「しゃぶしゃぶは鍋料理の一種だな。前に焼き肉はやっただろ」
「自分でお肉を育てる料理ね!」
「自分でお肉を育てる?」
「テーブルに肉を焼く網を用意して自分で肉を焼きながら食べる方法と言えばいいのかな。自分好みの焼き加減で食べることができますね。その焼肉と同じようにしゃぶしゃぶも目の前に鍋を用意して生の肉をこう泳がすように火を入れて食べます。それをしゃぶしゃぶと呼んでいますね」
クロも身振り手振りでしゃぶしゃぶを表現しエルファーレは目を輝かせる。
「それをこの海藻ですると……」
「はい、白身魚は色が変われば食べ頃ですし、ワカメも鮮やかな緑に変わると思います。最後には〆の雑炊も用意しますから楽しみにして下さい」
「雑炊ってあのフワフワの雑炊よね! あれはスープに溶け込んだ具材の美味しさを残さず食べられる最高の料理だわ! 特に最後に入れる玉子がトロトロで熱々で真冬にはピッタリね!」
ビスチェの言葉にルビーやアイリーンにシャロンも無言で頷き、真冬の錬金工房『草原の若葉』ではよく振舞われている。
「鍋の〆は米でも麺でも美味しくいただけて、鍋の味が変われば〆の味も変わる面白い料理です」
メルフェルンがイケメンスマイルを浮かべながら口にすると褐色エルフたちの目が輝く。
「それは楽しみだな!」
「しゃぶしゃぶは〆も楽しめる!」
「この地でもきっと流行るだろう!」
焼きそばを食べそれなりにまだ満腹感がありながらも、クロたちの言葉にワカメしゃぶしゃぶが楽しみな褐色エルフたち。口のまわりにはソースを付けている者もいるが整った容姿を持つ褐色エルフには油の輝きも色気に見えから不思議である。
「アイリーンは適当に魚を出すから薄切りにしてくれ。こっちで出汁を取るから頼むな」
≪任せて下さい! 今こそ白薔薇の庭園の出番ですね!≫
クロがアイテムボックスから白身魚を取り出すと白薔薇の庭園を使い三枚に下ろし薄切りにするアイリーン。タイに似た魚や振りに似た魚などを薄く切り皿に並べてゆく。クロは鰹節と昆布で出汁を取り長ネギや豆腐なども切り、大根おろしはシャロンが受け持ちメルフェルンは生姜を摩り下ろす。
「キュウキュウ!」
「そうだ、そうやって威厳を保つとよい!」
白亜は二本足で立ち尻尾を振りながらゆらゆらと体を揺らし、それを褒めるバブリーン。どこに威厳があるのか理解できないが本人たちは楽しくやっているので無粋な事は言わずに視線を逸らすクロ。
アイリーンの足元には幼いフェンリルが「寂しいよ」とでも言っているのか頬を足に擦り付ける。
≪もう、本当に可愛いですね。浄化の光よ~これで触っても生臭くないですよ~≫
白薔薇の庭園と自身に浄化をかけると幼いフェンリルを抱き上げるアイリーン。腕に収まり尻尾を揺らす幼いフェンリルは安心したのか、ゆっくりと目を閉じ眠りに落ちる。
≪眠かったのですね~キョルシーさまもおねむですし、もう夜だったりするのですかね?≫
「ダンジョン内はずっと昼間の明るさだからね~気を付けないと体力の限界まで遊んでしまうから注意だね~」
「ダンジョン内で体調を崩す原因は魔物との戦いではなく疲労だぜ~どんなに肉体的、精神的に強くても疲労は溜まるから注意だぜ~美味しいものを食べてちゃんと寝ないとダメだぜ~」
ハイエルフ二人の言葉に一同が頷き、褐色エルフの一人がダンジョン入口へと走り太陽の位置を確認する。
「もう夕方です! 外は日が落ちかけています! 私はこのまま一度報告へ戻ります!」
数頭のフェンリルを連れ神殿へと報告へ行く褐色エルフを見送り、夕食のタイミングはどうしようかと考えるクロ。まだ焼きそばを食べてから一時間も経過しておらず、このままワカメしゃぶしゃぶを食べても雑炊へ行く前にお腹がいっぱいになると考えたのだ。
「クロ先輩、日も落ちた事ですし……そろそろ……」
ルビーが手揉みしながら声を掛けられ、同じような仕草をするエルフェリーンと女帝カリフェル。エルファーレは首を傾げるがビスチェが口を開く。
「私は白ワインが飲みたいわ!」
「僕はウイスキーだぜ~」
「ブランデーがいいわ~」
仁王立ちで白ワインを所望するビスチェに、両手を上げてウイスキーと叫ぶエルフェリーンに、色気爆発でゆっくり近づこうとするカリフェルに、大きくため息を吐くクロ。
「はぁ……ダンジョン内は一階でも気を抜くなと師匠に教わったのにな……不測の事態があるかもしれませんので飲み過ぎないで下さいよ……はぁ……」
リクエストに応えるべくアイテムボックスから酒瓶を取り出しテーブルに置くと大事そうに抱えて目当ての酒を開封する女性たち。褐色エルフやシャロンたちにも飲みやすい焼酎の缶やビールを取り出すと、エルフェリーンが気を利かせて作り出した氷を砕き桶に入れて缶を冷やすクロ。
「やっぱりウイスキーは氷との相性がいいよ~」
「あら、私はブランデーの香りが楽しめるからそのまま飲む方が好きですわ」
「ぷはぁ~クロの白ワインは最高ね! チーズが欲しくなるわ!」
「喉に来る刺激がまた……最高です! やっぱりクロ先輩と一緒にいた方が楽しいです!」
「………………俺は料理と酒を提供する係か………………はぁ………………」
大きなため息を吐くクロだったが心底幸せそうにグラスを傾ける女性たちの表情に、次第にクロの表情も明るくなり褐色エルフやエルファーレたちもビールの缶を開け口に含み歓声を上げる。
「これは苦いけどシュワシュワして美味しいよ~」
「こっちは果実の味がします!」
「この入れ物が気になるが……鉄をこれほど薄く加工し、筒状にも拘らず文字を書き込むとは……」
「これが異世界の文字と味なのですね!」
「クロさんの料理にお酒は美味しいから大人気ですね」
缶のレモンハイを飲みながらクロの横に並ぶシャロンは少しだけ頬を赤く染め、メルフェルンが上品にカップに移したビールを口にして白いヒゲを付ける。
「この苦みとシュワシュワとした喉ごしが気に入りました。すっきりとしていていくらでも飲めそうです」
イケメンと美女に挟まれながらもクロはワカメしゃぶしゃぶの準備を進め、何気ない話をしながら乾杯の声を耳に入れる。
「ほら、白亜にはジュースな」
「キュウキュウ~」
「バブリーンさまもアルコールを飲みますか?」
「うん、そうだね。甘いものがいいかな」
「それならカクテル系ですかね。これとか、これとか」
適当にカクテルの缶を並べると青い缶を選び口にするバブリーン。その後ろでイビキをかきながら眠るキャロットのお腹にタオルケットをかけるクロ。
「クロは本当に面倒見がいいな。私が子を産んだら育てて欲しいぞ」
「そ、それなら僕もお願いします!」
バブリーンの言葉にシャロンが慌てて口にして耳まで赤くなると、アイリーンがニヤリと口角を上げる。
≪私が赤ちゃん用の衣服や涎掛けを作りますね~水着作りで裁縫の才能もあると気が付きましたよ~腐腐腐、複眼ですなぁ~≫
女性姿のシャロンに対し脳内では本来のインキュバスであるシャロンを想像してBL変換しレベルの高さを見せつける腐女子に、クロは顔を引き攣らせる。
「うふふふ、クロさまがいれば子守りは完璧かもしれませんね~私もお手伝いいたしますが………………私も子供を産んでみたいものですね~」
雲一つない空を見上げながら話すメリリの言葉にサッと目を逸らす女性たち。クロもアイテムボックスからおつまみ用のチーズやサラミを取り出し皿に並べ始める。
「クロ? 抱っこ……」
先ほど眠りに落ちたキョルシーがおつまみを用意するクロへと両手を上げ、クロが抱き上げると白亜が背中を上り始める。
「もう、キョルシーはクロさんに甘えて……羨ましい……」
そんなシャロンの呟きを耳に入れながらも急に輝き出した足元に驚いたクロは、抱っこしているキョルシーと背中に辿り着いた白亜と共に姿が消失するのであった。
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