異世界海水浴 2
≪じゃじゃ~ん、クロ先輩の為に作った水着ですよ~≫
白スクミズ姿で幼いフェンリルを抱き締めるアイリーンから文字が飛ばされ、視線を空からアイリーンに向けるクロは大声でツッコム。
「おいこら! 何でそんなにキワドイ水着なのか説明してもらおうか。大体後ろがTで前がブーメランとか、マッチョが着ているイメージしかねーよ!」
≪おおお、キレてる~クロ先輩キレてるよ~≫
「そのキレてるは意味が違うがな……はぁ、というかさ、自分の水着は下に履いているからな。俺にはその水着はレベルが高すぎる……」
そう言いながら普段使いのズボンを脱ぎ上着を脱ぎアイテムボックスへ入れハーフパンツ姿の水着になり事前に魔力創造で作っていたビニールサンダルを履くクロ。
「あら? それがクロの水着なの? そっか………………もし忘れたら困ると思って私も用意していたけど無駄になったわね……」
ビスチェが気を利かせ水着を用意していたと口にし、アイリーンがニヤニヤしながら文字を浮かせる。
≪ちなみにどんな水着を用意したのかな?≫
「えっとね、これよ! エルフに伝わる男性用水着ね!」
ビスチェのアイテムボックスから登場した自称水着は、亀の甲羅を模して造られ三本の革製の紐が伸びていた。
「ぶふっ!? ほ、本当にこれがエルフ伝統の水着なのかよ……」
≪防御力は高そうですが……≫
「甲羅を模して造られているのはカミツキガメやすっぽんに食いちぎられない様にする為ね。獰猛な魚とかも齧り付いてくるらしいから丈夫な木で作っているのよ!」
ビスチェの説明に思わず股間を抑えるクロ。大爆笑のアイリーン。ドヤ顔のビスチェ。
「何かしら?」
「亀さんの背中です!!」
女帝カリフェルと第三皇女キョルシーがビスチェの持つ自称男性用水着に興味を持ち再度説明すると、
「ふふ、面白いデザインだけど弱点を守るのだからいいじゃない」
「クロはビスチェの水着を付けないのです?」
笑いながら話す女帝カリフェルと折角用意してくれたビスチェが可愛そうと目で訴えるキョルシーにクロは戸惑いながらも口を開く。
「ほら、ダンジョンの第一階層は魔物が出なくて安全だからから。そうだ! 可愛いキョルシーさまにはこれをプレゼントだ」
魔力創造で大きなビニール製のシャチを作り出すと目を輝かせるキョルシー。女帝カリフェルやビスチェも興味を持ち海に浮かぶそれを凝視する。
「ここに乗ることができるからな」
「ふわぁ~クロは凄いです! 大きな魚をプレゼントしてくれました!」
「北の海に似た魚がいたけど……浮いているわね……」
≪それは浮き輪と同じで中に空気が入っているから水に浮くのです。クロ先輩、この子にもビート版を一枚お願いします!≫
「ビート版で大丈夫なのか? 落ちたら危ないから子供用の腕につけるヤツも出せるぞ」
≪ではそれをお願いします。左右につければ沈まないですね≫
魔力創造で幼児用のアームリングと呼ばれる腕と胴体に浮力のある物を魔力創造するとアイリーンが素早く幼いフェンリル用に改造する。
「キャンキャン!」
それを付けた幼いフェンリルはお礼を言っているのか尻尾を振りながらクロへ叫びアイリーンと共に海へと入り沈まないことを確認すると、キョルシーの乗ったシャチと共に出発する。シャチの両脇には女帝カリフェルとクロが控え、いつ落下しても受け止められるよう備え万全の準備で進み始める。
「僕も行こうかな……」
「私もお供いたします」
その様子を後ろから眺めていたシャロンとメルフェルンも海へと入るのだが、絶世の美女であるシャロンと美男子のメルフェルンの腰にはクロが魔力創造で作り出した浮き輪が装備されやや滑稽な姿である。
「キャハハハハ、クロがプレゼントしてくれたお魚さんは凄いです! お舟みたいです! 本物のお魚さんにも乗ってみたいです!」
初めての航海が嬉しいのかキャッキャと喜ぶキョルシーに母親であるカリフェルの表情も明るく、クロは咄嗟に話題を逸らしたがプレゼントして良かったと思う。ただ、亀の水着をそっとアイテムボックスに入れるビスチェの悲しそうな顔が脳裏にこびり付き多少の罪悪感が残っていた。
「キョル~クロ~待って~」
「シャロンさま、そのように急いでは危ないですよ!」
足が付かない事もあり浮き輪にギュッと力を入れるシャロン。初めて海に入る恐怖とクロに離されて行く事が怖く足をバタつかせ一生懸命追うが、その距離は開く一方であった。
「ん? そろそろ戻りましょうか」
「そうね。私はそれなりに泳げるけど、これ以上深くなると危ないわね」
キョルシーの乗るシャチにしがみ付きながら進んできたこともありUターンすると、こちらに向かい叫ぶ声が確りと聞こえ手を振るクロ。シャロンも手を振りホッとしながらシャチが近づくのを二人で待ち合流する。
「クロ! そんなに遠くに行かないでよ! 僕に泳ぎを教えてくれる約束もあるのに!」
「お、おう……それなら戻ったら泳ぎの練習をするか」
「うん! これのお陰で溺れないけど、ここまで来るのは怖かったから泳げるようになりたいんだ」
尖らせていた唇を戻し微笑みながら浮き輪を優しく撫でるシャロン。その横を華麗なクロールが通り過ぎ、魚雷の様なメイドも水中を駆け抜ける。
「キャロットさまとメリリさまの泳ぎは素晴らしいですね……」
「あそこまで泳げるように教えるのは無理だからな……」
「はい……あれだけ泳げるようになるとは思っていませんので……」
「人魚はもっと速く泳ぐわよ。マーマンと同じぐらいかしらね」
女帝カリフェルの言葉に人魚はもっと早いのかと驚く一同。錬金工房『草原の若葉』の近くの池に住む人魚が全力で泳ぐ姿を見たことはないクロは今度見せて貰おうと心に刻む。
「クロ、これがワカメか?」
「これこそワカメだろう?」
「いや、このフサフサしたものこそがワカメなはず!」
褐色エルフたちが海藻を手に海面に現れワカメ探しを終え海底に生えていた海藻をクロへと手渡し、それをアイテムボックスに入れ確認する。
「おお、これは天草! 寒天が作れますね! こっちは昆布で、アカトサカ? ああ、刺身や海藻サラダに入っている赤いヤツか……どれもワカメじゃないですけど食べられる海藻ですね」
採ってきた海藻をアイテムボックスの機能を使い調べクロが答えるとがっかりしながらも再度海へ潜る褐色エルフたち。入れ替わりにバブリーンが現れ海藻を山ほど渡すとドヤ顔を浮かべる。
「これだけあればどれかがワカメだろうね~」
「調べますね。えっと……海ブドウに昆布にメカブにキングヒジキ? 天草とモズクにアカモク……ワカメじゃないですが食べられるものが多いですよ」
ドヤ顔が曇り顔を引くつかせるバブリーン。すると文字がクロの前で急停止し、空から降って来るワカメも急停止する。
「おお、これはワカメだな。驚くからお化け屋敷のノリでワカメを吊り下げるなよ」
空に向け声を上げるクロの視界にはドヤ顔をするアイリーンの姿があり、夕食はワカメしゃぶしゃぶが可能となるのであった。
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