海のダンジョンへ
「クロはずるいのだ! ずっと白亜さまと一緒でずるいのだ! 少しは代わってほしいのだ!」
翌日、海のダンジョンに向け歩き出したのだが、横を歩くキャロットからのクレームに「俺もそうしたいよ」と言葉を返すクロ。その背中には白亜がしがみ付き「キュウ~キュウ~」と甘えた鳴き声を上げる。
「白亜ちゃんは甘えん坊だね~」
「キュッ!」
エルフェリーンの指摘に尻尾を振りながら、そうだと言わんばかりにクロの背中にグリグリと頬を擦り付ける白亜。数日とはいえクロのいない日常が寂しかったのだろう。
「ここまでべったりとされると少し羨ましいですね……」
シャロンから漏れた言葉にニタリと口角を上げるアイリーン。
≪シャロンさんも抱き着いちゃえばいいんですよ~今なら大きなお胸でクロ先輩を堕とせるかもしれませんよ~≫
アイリーンの浮かぶ文字に頬を赤くし俯きがちに歩を進め、メルフェルンは眉間に深い皺を作り浮いていた文字を掴むと手で丸め明後日の方へ投げ飛ばす。
「アイリーンさま、シャロンさまを唆すのは止めて下さい。シャロンさまはとてもピュアで純情で慈愛に満ちた方なのです。それを自分の好奇心と楽観的な考えで唆すのはクズがする事です! シャロンさまのお気持ちを思っての事だとしても、適当に当たって砕けろというのは………………シャロンさま!?」
執事姿のメルフェルンが大声を上げ、それ以上に驚いたのはクロであった。
「クロさん、僕も一緒に採取の手伝いをしますね!」
クロの左側に抱き着き話し掛けるシャロン。異性に対しては兵器となりえる大きな胸を押し付けているのだ。
「あの、シャロンさん……もう少し離れませんか?」
「は、はい………………」
顔を赤くしたクロの言葉にシャロンも真っ赤に染まり少しだけ離れ隣を歩く。
「私も! クロの横! えへへへ」
第三皇女キョルシーが女帝カリフェルから離れクロの横に並び歩き、クロの左手を掴むと笑顔を咲かせる。
「今日はクロから離れません。お母さまから言われました」
「うふふ、そうだったわね。クロはシールドが得意だからキョルシーを守ってくれるわね」
第三皇女キョルシーがダンジョンへ入る許可として、クロと一緒にいるという条件を素直に行動に移し、クロは赤かった顔色が元へと戻りキョルシーへと笑顔を向けて口を開く。
「シールドは得意だけど近くにいないと守れないからな。キョルシーさまは離れないで下さいね」
「うん! ずっとクロと一緒だよ! えへへへ」
満面の笑みを浮かべるキョルシーに対して頬を膨らませるシャロン。その少しだけ膨れたシャロンの横に付き複雑そうな表情で困った顔をするメルフェルン。
はぁ……シャロンさまが男性に抱き着くとか……このような事はまったくなかったのに……いやいや、そもそもシャロンさまは男性で男性に抱き着くという方がおかしなことで……それもこれもアイリーンさまが夜な夜な語られるBL文化というものが……
それにキョルシーさままであのように懐かれてはサキュバニア帝国の皇族が軽く見られ……
「見えたわ! あそこが海のダンジョンね!」
ビスチェが叫び視線が集まった先には岩が連なりぽっかりと口を開ける闇が見える。まわりは砂浜なのだが多くの岩が集まり違和感のある風景に見えたのだ。
「なんだか不思議ですね……まわりが砂なのに岩が集まり中へ入れるようになっているなんて……」
「波の浸食を全く受けていないのも気になりますね。貝のひとつでも付いていれば違和感がないと思うのですが……」
シャロンとメルフェルンの指摘通りに海水に触れている岩には貝や苔などはなく、洗ったかのような岩が連なっているのだ。
「入口も真っ暗なのだ……」
「キュウキュウ……」
≪王都近くのダンジョンは明確な入口があったのに……≫
「この岩も普通の岩ではないという事ですね。何か特別な成分や魔力を持っているのでしょうか?」
近づきダンジョンの入り口や岩を確認しているとエルファーレが口を開く。
「ここは海のダンジョンだからね。一階には魔物が出ないけど二階からは海クラゲやサーベルフィッシュに岩カニが出るから注意だよ。入口は暗いけど中に入れば海岸が続くから足を取られないようにね」
「この中にも海岸があるのですか?」
「そう、不思議だろ。それがダンジョンだ! ダンジョンの中は危険がいっぱいだからね~と、いっても入れるのは三回までだからそこまで緊張しなくてもいいからね。四階からは海の内部になり肺呼吸をする者には危険すぎるからね~人魚やマーマンなどの特別な呼吸法ができなければ探索もできないからね~」
「それだとダンジョンとしては失敗なんじゃ……」
「あははは、そうかもしれないね~もう少し北へ行けばマーマンたちもいるけど南下してまでダンジョンで攻略するような種族じゃないからね~」
≪それなら今度マーマンさんたちにお願いしてみます?≫
アイリーンは以前、ギガアリゲーターに襲われたマーマンたちを思い出し口にするがエルフェリーンは顔を横に振る。
「危険だからやめようか。アイリーンが話を持って行けば喜んでダンジョン攻略に挑むだろうけど、恩人であるアイリーンの言葉に応えようと無理をするのが想像できるだろ?」
≪そうですね……適当な言葉で危険なダンジョンへ送り込むのは申し訳ないです……≫
エルフェリーンの助言を受けこの事は胸にしまっておこうと思うアイリーン。
「さっきから私の事を忘れてない? 私はこれでも海竜だからね。海の中だろうとダンジョンの中だろうと問題なく移動できるけど……」
背が小さい事もあり大人のフェンリルたちに囲まれその姿が見えなく忘れ去られていた海竜のバブリーンが声を上げる。
「バブバブ! そうだね! バブバブがいたね! これはもうバブバブがひとりでダンジョンを攻略すべきだよ!」
エルファーレが走りバブリーンに抱き着くとフェンリルは尻尾を振り二人のまわり駆け回る。
「おいおい、ひとりで攻略って……できなくはないけど……私だって暇じゃないからな。私がいなくなったら近海の海の縄張りが変わり、もっと困った事になるぞ」
「そ、それは困る……獣王国の船が寄ってくれなくなるよ……」
「それにクロの料理をもっと堪能したいからな。昨日の料理も美味かったが他の料理も食べて見たい!」
「クロの料理は美味しいよね!」
手を繋ぐキョルシーの言葉に何度も頷くエルファーレと海竜のバブリーン。
「それならダンジョン探索が終わったら料理しないとだな……ワカメでも取れたらしゃぶしゃぶとかもいいかもな……」
≪ワカメでしゃぶしゃぶですか?≫
「ワカメのしゃぶしゃぶはお湯に生ワカメを入れると色が変わって楽しいし美味しいからな。ワカメ以外にもブリとかでも美味しいし、最後に出汁が出た汁でうどんでも雑炊でも好きな方が食べられてお勧めだが……あの、そんなに凝視して来られると恐怖を感じるのですが……」
「だって、話を聞いているだけで美味しいのがわかるよ!」
「ふむ、ワカメというのは海藻なのだろう。それなら私が色々な海藻を集めてくるから食べて見たいのだが……」
「ブリという魚の特徴がわかれば我々も探します! 最悪は代用できる魚を見つけてきます!」
ワカメしゃぶしゃぶがどうしても食べたいのかエルファーレに海竜のバブリーンと褐色エルフたちから期待した瞳と素材集めを任せてくれという宣言に、夕食がワカメしゃぶしゃぶに決定するのであった。
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