べったり白亜
「カニにエビがいっぱいなのだ!」
「キュウキュウ!」
キャロットと白亜が尻尾を振りながら大きなため池を見つめ、中でうごめくエビやカニを確認する。
「これだけ広く養殖池を作ったからね~ここで繁殖させていつでも美味しいカニやエビが食べられるよ~」
「はい、海から海水が入り流れるように致しましたので成功すると思われます。島々を繋いだ岩礁の安全も確認できました。お手伝い頂いたビスチェさまやアイリーンさまに感謝ですね」
「そうだね~毒を持つクラゲの殆どはビスチェが精霊魔法で退治してくれたし、幻惑の魔法を使うイソギンチャクの魔物や海水の刃を使い襲って来るウミウシの魔物はアイリーンが細切れにしてくれたね~素晴らしい戦いっぷりだったよ~」
褐色エルフとエルファーレが賛辞を贈ると腕を組み無言でドヤ顔を決めるビスチェ。アイリーンは幼いフェンリルと母親フェンリルを優しく撫でながら≪いえいえ~楽しかったです≫と文字を飛ばす。
「私も頑張ったのだ!」
「キュウキュウ!」
エルフェリーンが新しく魔術で作ったため池から振り返る一人と一匹。実際にキャロットは魔化した腕で襲って来る魔物を倒したのだが、その影響で岩礁に大穴を開けたり、ブレスでウミヘビの魔物を迎撃した勢いで砂浜の一部をガラス状にしたり、完全に魔化した姿で巨大なタコと戦い褐色エルフ数名を巻き込み怪我をさせたりしたのだ。
アイリーンが素早く回復させたのだが、褐色のエルフたちがキャロットに恐怖心を覚えたのは仕方のない事だろう。
「白亜ちゃんはフェンリルたちと打ち解けてくれて良かったよ~」
「キュウ! キュウキュウ! キュウキュ……」
「仲良くなったけど舐められるのは嫌だと言っているのだ! ベトベトすると言っているのだ! あと、クロがいないと寂しいと言っているのだ!」
振っていた尻尾が止まり地面を見つめる白亜の鳴き声を訳すキャロット。
≪確かにクロ先輩たちは遅いですね~サキュバニア帝国へ行って国交を結んだら獣王国へ送り、こっちに戻って来ると言っていましたが……≫
「ふんっ! どうせクロの事だから獣王国の料理に興味を持って覚えてから帰る心算なのよ! 遅れた罰として何をやらせようかしら……」
腕組みをしながら怒っている態度を見せるビスチェに、アイリーンは口に手を当てて笑いを堪える。
ビスチェさんは随分と寂しそうですね。やっぱりクロ先輩やエルフェリーンさまがいないと……私もそうですが、いつもいる仲間が減ると調子が出ませんね……
「ワオォォォォォォォォォォォォォン!」
大きな遠吠えが響き幼いフェンリルが腕から飛び降りるとアイリーンの裾を甘噛みして引っ張り、母親フェンリルも尻尾を振りながらアイリーンへ小さく吠え顔を竹藪の方へと向ける。
「どうやらエルフェリーンたちが帰って来たみたいだね~」
「キュウ!」
エルファーレの言葉に白亜が翼をピンと張り飛び上がり、キャロットも同じように飛び上がる。ビスチェは精霊魔法を使い飛び上がり、アイリーンは幼いフェンリルを抱き上げ母親フェンリルの頭を撫でると糸を飛ばして空を駆ける。
「どなたも空を行くことができるとは……」
「それだけ早く会いたいのかもしれないね~私たちも迎えに行こうか」
「ワフン!」
母親フェンリルが尻尾を振りながら走り出しエルファーレと褐色エルフたちが足を速めながら進むと予想通りにエルフェリーンたちの姿があり、クロは白亜に抱き着かれ額を擦り、ビスチェは眉間に皺を寄せながらクロを睨み、キャロットとは仁王立ちで尻尾を振りながら何故かドヤ顔を決めている。
「やあ、数日遅れたけど迎えに来たぜ~色々と忙しくてね~」
「いやいや、師匠がお酒を昼から飲むから……はぁ……遅れてごめんな白亜……」
「キュウ……キュウ……」
胸に額を擦り付け甘えた鳴き声を上げる白亜を抱き締めながら優しく撫でるクロの姿にエルファーレや褐色エルフたちはホッと胸を撫で下ろす。
「白亜ちゃんはクロがいなくて寂しがっていたんだよ。昨日は夜泣きをしていたし、安心して眠れなかったみたいだよ」
≪私もキャロットさんと協力して眠らせようとしましたが寝てくれなくて……大変だったんですからね~これは貸しひとつです!≫
「夜中に泣く白亜のせいで寝不足なの! 今度からは白亜を縛ってでも連れて歩きなさい! ゴリゴリ係兼白亜の父親係よ!」
「私が母親係なのだ!」
キャロットの言葉は華麗にスルーされたが、クロへと人差し指をビシッと決めるビスチェに、クロは苦笑いを浮かべながら立ち上がり「そうするよ……迷惑を掛けたようですまなかったな」と素直に口にする。
「迷惑は掛かってないよ~寧ろビスチェちゃんやアイリーンちゃんが危険な魔物を退治してくれたからね~キャロットちゃんは失敗したけど助かったのは本当だよ~これは無事に帰還してくれた宴会でも開いた方がいいかな~」
「すぐに準備に取り掛かります!」
「恩人の帰還だ! 張り切ってやるぞ!」
「カニにエビを使った料理を振舞うぞ!」
エルファーレの言葉に褐色エルフたちが叫び動き出す姿にクロは思う。ダンジョン探索が遠のくと……
事実、この日はみんなで騒ぎ酒を飲み、染まる夕日を眺めて暮れて行き、白亜はクロの背中から離れずビスチェの愚痴を延々と聞かされながら料理をして、その姿を見ながらアイリーンは仲間の存在の大きさを改めて知り、キャロットはクロに張り付く白亜の姿に嫉妬の炎を燃やしながらも牡蠣を使ったパスタやカニを使ったパスタをモリモリと口に入れる。
「エルフェリーンの仲間も素晴らしいねぇ~」
「あはははは、そりゃそうだよ~僕が素晴らしいからだぜ~カリフェルもそう思うだろ~」
「そうですね……エルフェリーンさまは素晴らしいですし、エルファーレさまも素晴らしいですわ。でも、フェンリルを恐れもしないで抱き着き撫でるうちの娘も素晴らしいです! クロのブレンデーも素晴らしいですわね……いつの時代も仲間を思い行動する姿を見ると多くの国を旅して歩いた頃を思い出しますわ……」
年齢高めのテーブルで話すエルフェリーンとエルファーレと女帝カリフェル。経験を重ねた彼女たちは仲間の素晴らしさを集り合い、寿命や病気で今はもう他界した仲間を思い出し涙し笑い合い語り合う。酒が入っている事もあり涙脆くなりながらも言葉を重ね分かち合う。
そんなテーブルとは違いアイリーンとキョルシーにシャロンはフェンリルたちに囲まれモフモフを味わい、メルフェルンとメリリは給仕をこなし、クロの傍で怖がりながらもルビーはウイスキーを嗜みながら酒臭い吐息を吐き出す。
「やっぱり付いてきて正解でした。こんなにも美味しい料理が食べられるとは思いませんでしたよ! フェンリルさんたちは怖いですがこの貝料理は絶品です!」
「確かにこの牡蠣やカニを使った料理は素晴らしいですね~留守番をしようか迷いましたが、うふふふ、あむあむ……口の中に海が広がるようです~」
留守番をしていたルビーとメリリも加わり、二匹のグリフォンと少数の妖精もこの度に参加している。グリフォンの主であるシャロンが宥め落ち着かせ紹介するとフェンリルたちと仲を深めたのか互いに頬を擦り付け合い威嚇行動などがなくなり、妖精を紹介すると真っ先に興味を持ったエルファーレが笑顔を見せ、褐色エルフの子供たちと仲良くなり共に食事をして親交を深めた。
「ふぅ……明日こそはダンジョンへ行きましょうね」
「そうね……安全な所だけ回る予定だけど注意するのよ!」
≪最近出番のない白薔薇の庭園も使いたいですね~≫
明日のダンジョン探索に向け英気を養うのであった。
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