ポン、チー、ロン
クロが目を覚ますと目の前には白く固いものが額にのっており、やや不快に思いつつそれをどけベッドから起き上がると寝息を立てる白亜の姿があり、夜中にでも侵入したのかと思いながら着替えると朝食の支度へ向かう。
いつものように朝食の支度をしているとリビングに創造魔法で作りだした段ボールが視界に入り、昨晩は嬉しそうにその中でキューキュー鳴いていた白亜の姿を思い出しクロのベッドに侵入していた事を考える。
寝る時は俺ひとりだったよな……俺が寝てからベッドに侵入して来たのか? 昨日はビスチェを怒らせ大変だったが、一緒に戦ったから懐いたのか?
う~ん……まだまだ子供で母親の白夜さんが恋しいとか? ドラゴンの気持ちとか良くわからんな……果物が好物っぽいけど肉や魚は食べるだろうし、野菜も柔らかく煮たら食べられるよな?
久しぶりに豚汁が食べたくなって勢いで作ったが、食べられない物とかあるのかねぇ~
「ドラゴンは基本的には魔素を食べて過ごすとされているよ。白亜は果物が好きな様だけど白夜の影響じゃないかな~」
後ろから聞こえた声に振り返るとエルフェリーンの姿があり、朝からニコニコと笑顔を向けてくる。
「師匠、おはようございます」
「うん、おはよう。いい香りがしたから起きちゃったよ。はわぁ~」
大きな欠伸を手で隠すエルフェリーンはダイニングのテーブルへと腰を降ろし、クロは瓶から黒い粉を木製のカップへと入れ、竈で湧いているヤカンの湯を注ぐと香ばしい匂いが部屋へと広がる。
「コーヒー飲みますよね?」
「うん、砂糖とミルクは多く入れてくれよ~」
砂糖とミルクを入れかき混ぜるとコーヒーをエルフェリーンの手元へと置き、自身のコーヒーを用意する。これらのコーヒーや砂糖にミルクはクロの創造魔法によって生み出された物であり、クロの朝のルーティーンでもある。
エルフェリーン曰く、これに似た飲み物は南の大陸にあるというが、それも千年以上前に一度飲んだ記憶との事なので今もあるか解らず、下手したら進化し同じものがあるか解らないとの言葉を貰った。
「う~ん、これを飲むとシャッキリするねぇ~異世界は泥水を進んで飲むのかと思ったけど、たまに飲みたくなるよね~」
「コーヒーですよ。ビスチェは今でも泥水を飲んでいるのかと思っているみたいですけど、あっちではこれが普通でしたから……カフェインは興奮作用があり目が覚めるそうですよ」
ブラックコーヒーを冷ましながら飲んでいるとドタドタと暴れ回る音と声が耳に入り、それが落ち着くと階段を下りる音が聞こえてくる。
「ちょっと! クロ! 何であんたの飼いドラゴンが私のベッドに入って来るのよ! それに私の美しい胸に顔を押し付け挟むとは飛んだエロドラゴンだわ! クロと同じね! どうしてくれようかしらっ!!」
白亜を頭をガッチリと掴み降りてくるビスチェに、エロドラゴンという単語が頭に引っ掛かるクロ。
「もう首輪を付けて庭で飼うべきだわ!」
「昭和の飼い犬じゃないし、それは可哀想だろ」
「昭和? それよりもこのエロドラゴンを確り躾けなさいよ! 目が覚めたら胸の間に顔を挟むとか冷たくてビックリしたじゃない!」
「キュゥゥゥゥゥゥ」
後頭部を持たれぐったりとする白亜の悲しげな叫びに、クロが両手で引き取ると母親に抱きつく子供の様にギュッと服を掴む。
「これは白亜が悪いからな。今朝は俺のベッドにも潜り込んだだろ。あれは驚くし、意外とその尻尾は冷たい。ひと肌程度なら驚かないけ、」
「そう冷たいのよ! ビックリするわ! それに胸の谷間に顔を入れるとかエロよ! エロすぎるわ! このエロドラゴン!」
「ああやって怒られるからビスチェのベッドに入るのはやめておけ、死ぬぞ……谷間というよりは平原だがな……」
後半になるにつれ、ほぼ声を出さずに注意するクロ。
「死ぬぞって、そこまでしないわよ! クロなら確実に殺すけど……」
そういって頬を染めるビスチェにエルフェリーンは口を開く。
「ああ、それよりもビスチェのパジャマがエロエロだねぇ~最近はそういうパジャマが流行っているのかい?」
ビスチェの視線がいま着ているスケスケのネグリジェへ向かい慌てて走り去り、ため息を吐くクロとキューキューと甘えた声を上げる白亜。
「白亜は何でも食べられるか?」
その言葉に顔を上げ視線を合わせる白亜は、嬉しそうにキューと鳴くのであった。
朝食を済ませたクロたちは錬金の作業へと入り、クロはいつものように外にすりこぎを出すと薬草を地面に獣の皮を敷きゴリゴリと潰して行く。隣には白亜の姿があり興味があるのかグルグルとまわるすりこぎ棒を見つめ長い首を合わせて動かす。
「三発もなぐられたけどさ、その後に綺麗さっぱり回復させるのはコンプライアンス的にはありなのかねぇ~」
「キュウキュウ」
「そうだよな~俺が悪い訳じゃないよな~」
「キューキュー」
「そうだな~白亜が悪いよな」
「キュー」
話が噛み合っていないのか尻尾でペシペシと太腿を叩く白亜。
「こらこら、すり鉢に当たったら陶器製だし割れる。おとなしく見学しててくれ」
「キューキュー」
コクコクと頷くと、またすりこぎ棒に合わせて頭を動かす白亜はやがて速度が付いて行けなくなると、ゆっくりと目を閉じその場で船を漕ぎ始める。
「こういう所は可愛いな……」
「へぇ~ドラゴンの子供にも欲情する変態なのね~」
後ろから聞こえた声に振り返るとビスチェの姿があり、見慣れない薬草を入れた籠を手にして肩眉を上げていた。
「この赤黒いのが血中草で、肉厚で赤い方が軟膏草よ。血中草は血液を増やす薬に、軟膏草はそのまま軟膏になるわ。これもゴリゴリしてね」
「へいへい、ゴリゴリ係ですからね」
「素直で宜しい! でも、返事はハイよ」
「ハイハイ、って、今アイリーン小屋が動かなかったか?」
「そうかしら、あっ、動いたわね……進化が終わるのかしら……」
二人は屋敷の隣に建つ木々を糸で固定したアイリーンハウスを見つめる。
「どんな姿になるか気になるが、もっと大きくなったりしないよな?」
「どうかしらね……意外と産卵してたりして……」
「産卵?」
「そう産卵……ドアを開けた瞬間に多くの子蜘蛛がわらわらと……」
ぞくりと背中に冷たいものが走り身を振るわせるクロ。
「たのもー」
「きゃっ!?」
急な大声に驚いたビスチェが短い悲鳴を上げ、クロがすりこぎ棒を手から滑らせ、そのすりこぎ棒を頭に受け目を覚ました白亜は顔を上げキョロキョロと辺りを探る。
「何だ、ビックリさせないでよ……」
「お客さんだな。白亜悪い、不可抗力だ」
「ギュル」
短い声を上げた白亜はクロの背中をよじよじと登り、頭をガジガジと甘噛みする。その痛みに耐えながらも立ち上がりやって来る三名の顔見知りに手を振ると、あちらも手を振り敷地の中へ足を踏み入れる。
「ポンチーロンよく来たな! もう二カ月経つか」
「ああ、村々ではエルフェリーンさまの薬やポーションを必要としているからな」
そう応えたのはコボルトと呼ばれる亜人であり、青い犬耳と尻尾が特徴的な種族である。背は百五十センチとやや低いが足が早く集団戦に特化した亜人である。
リーダーのポンニルは長女で槍を使う名人であり、力も強く使い込んだ大きなリュックを背負っている。
二女のチーランダは二女でダガーと呼ばれるナイフより少し長い武器を二本使い、接近戦をメインにしている。
最後はロンダル。末っ子の弟で弓を持ち援護射撃をメインに活動しているが、冒険者としてはまだまだ新人扱いの少年である。
そんな三人が錬金工房『草原の若葉』へとやって来るのは二カ月ぶりであり、ここで作った薬品やポーションを村々に配る活動をメインにし、エルフェリーンから指名依頼を受け活動しているCランク冒険者である。
「クロ兄ちゃん大変なんだ!」
末っ子のロンダルが叫ぶが、それ以上にクロの頭は白亜からガジガジとされており視線を集め、ロンダルは両手を広げわたわたとするのであった。
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