忘れていた奉納
獣王家との食事会もお開きになり国王と女王に第三王子ルージスが先に立ち去り、飲み過ぎたエルフェリーンを女帝カリフェルが抱き上げ退出し、その後を追う第三皇女キョルシー。メルフェルンはシャロンと共に席を立ちその姿を第一王子ルイジアナが頭を下げ見送る。
「クロ殿、本当に彼女は一時的に女性の姿をしているのだろうか?」
「はい、自分が調子に乗ったのが原因ですが、色々と魔力を使い過ぎてしまいまして」
「お兄さま、クロさまの言葉は確かなものです。私は男性だったシャロンさまとメルフェルンさまにお会いしております。男性のシャロンさまも大変お美しい方でしたし、メルフェルンさまも凛々しい方でした。それにクロさまが魔力過多になった原因は私たちにもありますし……」
第二王女ルスティールがクロの魔力過多になった原因を掻い摘んで説明すると、目を輝かせる第一王子ルイジアナ。
「それは素晴らしいスキルだな……先ほど頂いたウイスキーやブランデーを作り出す能力とは……それに異世界人だったのだな!」
どうやら異世界人というブランドに興味を持っているのだろう。
「巻き込まれただけですけどね……」
「それでもこの世界に残る選択をしたのだろう。過去にも異世界人が勇者となり魔王とよ呼ばれる存在を討ち平和な世界へと導いてくれたのは事実……この世界のものたちは異世界人を尊敬しているものが多いのだよ。先のオークの魔王が討たれた話も矢のように世界を駆け抜けたからな……そうか、クロ殿は異世界人だったのだな……」
腕組みをしながら満足気に話す第一王子ルイジアナ。隣で少し困った顔をする第二王女ルスティール。
「そうだ! クロ殿さえ良ければルスティールと婚約したらどうグフッ!?」
「お兄さま、酔った勢いで何をほざいているのでしょう。クロさまに失礼ですよ」
右頬へ素早いフックを打ち込んだ第二王女ルスティールは微笑みながら尻尾を揺らし、ガクガクと膝にきているのか立つのがやっとの第一王子ルイジアナ。
「い、いくら妹でも言葉よりも先に手を出すのはどうなのだ……これでも次期王位継承権一位なのだぞ……」
「それとこれとは別の話ですわ。クロさまはハイエルフであるエルフェリーンさまに気に入られた存在です。私の様な一国の王女風情と婚約するなどありえない御方だと理解して下さいませ」
「そうだとしてもだな、口で言ってから殴って欲しいのだが……クロ殿、すまない事をした」
一人のメイドが震える第一王子ルイジアナを支えクロへと頭を下げ、クロはドヤ顔を浮かべ私が粛清しましたと言わんばかりの表情をする第二王女ルスティールに引いていた。
「いえ、こちらこそ、何かすみません……」
「いや、いいのだ。私が何も知らないのに婚姻を進めたのが原因だからな……伝説のハイエルフさまに気に入られているとは知らなかったが……そうそう、ソーマという酒の味はどうだったのだ?」
魔力過多になった説明で登場した神々が作りし酒ソーマを思い出し口にする第一王子ルイジアナ。
「味は水に癖のないアルコールが入ったようで香りもなく美味しいとはいえない物でしたね………………やば!? 忘れてた!」
「どうかしたのか?」
「サキュバニア帝国に何か忘れものでも致しましたか?」
「えっと、神さまたちへ奉納するのを忘れていて……師匠は一日二日ぐらい問題ないといいますけど、本来なら昨日だったのかな? 最近は色々あって、すっかり忘れてしまい」
「そうであればこの城にある教会へ向かうといい。私ももう歩けるからな、支えはもう大丈夫だ」
「はっ!」
メイドが離れると「こちらだ。案内しよう」と声に出し歩き始める第一王子ルイジアナ。その後を第二王女ルスティールが続きクロも足を進める。長い回廊を進み十五分ほど歩き辿り着いた一室には愛の女神フウリンの石造があり、多くサボテンと造花が供えられている。他にも神を模した石造が数体あり見た事のない神様だなと思うクロ。
「獣王国は聖王国が近い事もあってか教会とも付き合いが多くてな。この祭壇なら神々への奉納もできるだろう」
「ありがとうございます。この祭壇なら問題なくお届けできると思いますが、フウリンさまを信仰しているのですね」
「ああ、獣王国は双子や三つ子が多いからな。愛の女神フウリンさまは安産の女神さまでもあるからな、その恩恵を受けたいのだよ」
「出産は命がけですからね」
王族二人が女神フウリンの石造に一礼し、クロはアイテムボックスから奉納用に用意していた物を祭壇に並べ始める。
「日本酒に梅酒にカクテル系の缶とウイスキーにどぶろくと、ガジラを使ったフライにキーウィの唐揚げとパパイヤのサラダもあったな。他は……ポテチやチョコも供えておくか」
口に出しながら多くの酒とおつまみを奉納し瞬時に消えて行く光景に目を見開く王族の二人と付いてきたメイドたち。
「女神フウリンさまのお告げが、お告げが、」
ドアが開き入って来た狐耳のシスターにメイドたちが臨戦態勢を取るが見知った仲なのだろう。すぐに頭を下げ迎い入れる。
「そこの御方はクロさまでしょうか?」
供え終わった事もあり振り向くと息を切らせたシスターに「はい、クロですが何かありましたか?」と口にする。
「女神フウリンさまからのお告げがあり、遅れたのでカクテル系というものを増やすようにと……カクテル系というものが何かは解りませんがお告げを享けまして……そのようにして頂けると……」
息を整えたシスターの言葉にクロは苦笑いを浮かべながら「確かに遅れましたけど……
はぁ……そうですね。そうします」と口にしてアイテムボックスから更にカクテル系の缶を追加して奉納する。
「こ、これは……こんなにも瞬時に消える奉納を見たのは初めてです……」
「私もだよ。女神フウリンさまが本当にクロの酒を欲しておられるのだな……」
「その様ですね……少し前になりますがクロさま充てのお告げがあったのですが、そのクロさまというのも」
「はい、自分宛てだと思います……あの時はお告げが聞こえる方々に片っ端からお告げを出して教会へ行くようにしたので……その節は申し訳ありませんでした」
追加の奉納を終えシスターに向き直ったクロが頭を下げる。
「いえ、そのような謝罪は不要です。クロさまが使徒さまである事には変わらないのですから……」
微笑みながらクロの事を使徒だと決めつけたシスターに頬を引くつかせるクロ。
「使徒ではないのですが……はぁ……これは今度天界へ行った時にでも本気で使徒ではないとお告げしてもらった方がいいかもな……ん?」
愚痴の様なクロ言葉に反応したのか祭壇の前に輝き浮かび上がる魔法陣。クロ以外の者たちがその場で片膝を付き目を閉じて祈りを捧げる。
「えっと、これは俺が一人で向うべきなのか? でも、これも一生の思い出になるだろうから……う~ん、どうすべきか……」
「クロ! クロいたよ!」
「クロいるの? チョコのクロいるの?」
教会のドアから顔を出す二人の幼い王子と皇女の姿を視界に入れたクロは手招きをする。
「二人とも今から天界へ行くけど一緒に行くかな? あと、王子様方やメイドさんにシスターさんも行きませんか?」
走って来た幼い王子と皇女のタックルを受け止めると祈っていた者たちが顔を上げ口をポカンと開けフリーズするなか、第一王子ルイジアナと第二王女ルスティールは立ち上がり「是非!」と声を合わせ、固まり続けるメイドやシスターに「お前たちもだ!」と大き目な声を出し正気に戻す第一王子ルイジアナ。
クロは頼もしいなと思いながら魔法陣の上へ子供たちを連れ向かうのだった。
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