第一王子ルイジアナ
「かぁー、このお酒は強くて喉が焼けるようだよ」
歓迎の食事会が始まりエルフェリーンが飲んだのはサボテンから作る酒であり獣王国で好んで飲まれている。蒸留酒に柑橘系の果実を絞り飲むのだが度数が高く、酒が弱い者なら一杯も飲み干せる代物ではないだろう。
「獣王国の酒はドワーフをも酔わすからな。ドワーフの国ともこの酒のお陰で取引が続いているぞ」
「ここから砂漠を南に越えた所にドワーフの国がありますの。砂漠を越えて買い付けに来て下さいます」
国王と王妃が微笑みながら話し、二人は輸入しているワインを食前酒に選び口にする。
「このワインも美味しいけど……クロのワインが飲みたくなるわね。それにブランデーもかしら」
「それをいうならウイスキーだよ~いや、ハイボールも飲みたいぜ~」
エルフェリーンと女帝カリフェルからの声にクロはウイスキーと炭酸水にブランデーをアイテムボックスから取り出し席を立つ。
「これでいいですか? ああ、でも、歓迎されているのに自分たちが持って来た酒を飲むのはどうなのですか?」
「いや、構わんだろ。寧ろ我はその美しい瓶に入った酒が気になるぞ」
「琥珀のように美しいお酒ですし、瓶の完成度の高さに驚きますわ」
腰を浮かせクロの持つウイスキーの瓶を見つめる国王と王妃に、クロはアイテムボックスから追加のウイスキーとブランデーを取り出す。
「それではこちらをお納め下さい。どちらも強いお酒なので少量ずつ飲むか水で割って下さい」
「おお、これは嬉しいな。見た事のない酒だよ」
「ええ、とても高価なものなのでしょう?」
「高価なのは間違いないわね。私が値を付けるのなら金貨数枚は出せるわ」
「僕はクロにお願いすれば飲み放題だぜ~おっとと、こうやってウイスキーを炭酸水で割って飲むのがハイボールなんだぜ~グビグビ……ぷはぁ~」
魔術で氷を生成し、自身でハイボールを作り飲むエルフェリーン。女帝カリフェルはしれっとエルフェリーンが作り出した氷をグラスに入れブランデーを注ぎ口に含む。
「見事な氷の魔術だな……この辺りに住むものは氷の魔法の適性が少ないから羨ましいぞ。どれ、」
「お待ちください! せめて毒見をしてから」
控えていた近衛騎士が声を掛けるが国王は「よいよい」と口にすると封を開け自身のグラスに注ぎ入れ口に含む。
「おお、これは香り高いな。酒の強さもそれなりにあるのも嬉しいぞ。我も氷を頂いても構いませんかな?」
「それならもう少し量を増やそうか」
エルフェリーンが杖も使わずバスケットボールサイズの氷の塊を出現させ、クロは慌ててアイテムボックスから大きなボウルを用意し受け止める。
「見事なものだな……」
「杖なしの無詠唱……ハイエルフさまは素晴らしい魔術をお使いになられますね……」
「クロ、それを持ってこっちに来なさい」
妖艶な笑みを浮かべる女帝カリフェルにクロは嫌な予感を覚えるが足を進める。
「しっかりと持っていなさいよ」
そう口にした次の瞬間には女帝カリフェルのデコピンが炸裂しボウルの中の氷にひびが走り崩れ落ちる。
「ほう、見事な身体強化」
「サキュバスは肉弾戦が得意と聞きますがこれほどなのですね」
「ええ、これでも近距離なら負けない自信があるわね」
微笑みながらドヤ顔をする女帝カリフェルの姿を拍手で称える第三皇女キョルシーと第二王子ルージス。シャロンは母親の行いを恥ずかしく思ったのか額に手を添え、メルフェルンは何度も頷きながら冷たいお茶を口にする。
「氷を入れウイスキーを注ぎ入れればいいのだな」
「私はこちらを頂くわ。ブランデーといったかしらね?」
氷で割ったウイスキーとブランデーを口に入れると料理が運び込まれ、前菜なのか見た事のない料理が並びコック長と思われる男が料理の説明を始める。
「こちらは鱗サボテンのソテーになります。シンプルな鱗サボテンの味をお楽しみ下さい」
「サボテンからお酒を作ると聞いたけど焼いても食べるのね」
「はい、この辺りは砂漠という事もあり葉野菜が育ちにくく、多肉植物と呼ばれるサボテンを多く栽培しております。近くの炭鉱ではヒカリダケやヒカリゴケなどを栽培しておりますが食用には向きません。大農園ではサボテンを中心として育て極少数ではありますが大麦なども育てております」
「うまっ!? これ美味しいよ! ヌルヌルするけどサッパリと食べられ、この白いソースが酸味もあるし美味しいよ!」
「ヨーグルトを使ったソースなのか。これは確かに美味しいですね」
「はい、この地方に多く住む多眼山羊の乳で作ったヨーグルトを使いソースにしております」
「あら、本当に美味しいわね。刺々しい見た目と違って繊細な味なのね」
「サボテンを初めて食べますがとても美味しいです……」
高評価を受けたコック長は笑顔で一礼するとその場を去り、代わりに入って来たのは狐耳に体格の良い黒髪の青年。軍服を着こなし胸には多くの勲章が揺れている。
「会議が長引きまして、遅くなって申し訳ない」
深く一礼する男はゆっくりと席に向かい第三王子ルージスの横に腰を下ろす。
「軍部を任せている第一王子のルイジアナだ。良くしてもらえると助かる」
「皆さま、ようこそ獣王国くくく………………可憐だ……」
第一王子ルイジアナが目を奪われたのはシャロンであり、一方シャロンは軽く会釈を済ませるとサボテンを口に含み幸せそうな表情を浮かべる。
「何と可憐な……サキュバスは美しいものが多いと聞くが、これほどまでに美しい女性を見るのは初めてだ……」
シャロンを見つめたまま言葉を漏らす第一王子ルイジアナ。対してシャロンの耳には届いていないのか微笑みながらサボテンを満喫している。
「あら、シャロンが気に入ったのかしら?」
女帝カリフェルの言葉に何度も首を縦に振る第一王子ルイジアナ。シャロンは自分の名前が出た事で顔を上げ視線がぶつかる二人。
「おおおおおお、何と美しく、砂漠に咲く一輪の花のようではないか……」
そう言葉を漏らした第一王子ルイジアナに対してシャロンは後ろを向き視界に入ったメルフェルンに、確かに凛々しく咲く紫のバラを想像させるなと納得する。
「シャロンさま、わかってないと思うので言いますけど、シャロンさまの事ですからね。褒められているのはシャロンさまですからね」
呆れながら口にするメルフェルンに頭を傾げるシャロン。性別が変わりまだ二日しかたっていない事もあり女性の姿をしているという自覚がないのだろう。
「あっ、そういう……えっと、」
何とか言い訳を探していると第一王子ルイジアナは立ち上がりシャロンの元へと歩みを進めて膝を付く。
「どうか、私の伴侶となっていただけないだろうか」
片膝を付き真直ぐな瞳を向ける第一王子ルイジアナ。尻尾はピンと立ち緊張しているのだろう。
「お断りします。僕は一時的に女性の姿になっているだけで……」
席を立ちそう口にするシャロンは頭を下げると隣に座るクロの後ろへと隠れるように身を寄せる。
「一時的に女性の姿?」
断られたという事実よりも一時的に女性の姿になっているという言葉に引っ掛かりを覚え立ち上がる。
「シャロンは俺の魔力暴走を抑えるために一時的に女性の姿に変わっているんだよ。そこにいるメルフェルンは本来女性で、シャロンは男なんだが……俺たちも不思議現象で困っているがあと三日も経てば戻ると師匠から太鼓判が押されている。これでいいかな?」
クロの言葉に眉間に皺を寄せていた第一王子ルイジアナだったが「そうか、申し訳ない事をした」とだけ言い残し席に戻る。
「ほら、シャロンも席に付いてくれ。次の料理が運ばれて来たぞ」
「はい……何だか悪い事をしたようで……」
「タイミングが悪かったんじゃないか? それにシャロンは俺を助けてくれようとしてそうなった訳だしな……原因があるとしたら俺だから」
「いえ、それこそ……」
何とも微妙な空気の中で運ばれてきたスープやメイン料理を口にするシャロンとクロ。第一王子ルイジアナはまだシャロンが男性だったという事実が呑み込めていないのか時折視線を向けながら食事会を終えるのであった。
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