獣王国の首都へ
「何だか色々とありすぎて疲れましたね……」
シャロンの言葉に頷いたクロは獣王国の首都にたどり着いていた。獣王国の首都は商船の修理に立ち寄った街からそう離れておらず、砂漠に囲まれているが緑が多く水の湧く地域であり大きな農園や砂を固めて作った家が並び、大国という表現がしっくりとくる街並みが広がる。
「馬車に使っていた魔物も初めて見るね~」
「あれは太陽蜥蜴と呼ばれるもので乾燥地や熱に強く、大農園の植物や虫型の魔物を好んで食します。背中のヒレで余分な熱を逃がし模様が魔法陣になり砂を霧状にして逃げますから砂漠に住むものたちの足として長年飼育されております」
クロたちは獣王国の首都へと入り第二王女ルスティールの案内で王城へと向かい貴賓室に通された。馬車は馬の代わりに太陽蜥蜴が引き、背中には屏風のような大きなヒレがあり独特の模様が魔法陣の代わりになっている。第二王女ルスティールが説明し興味を持ったエルフェリーンは窓から太陽蜥蜴たちを見下ろしていた。
「砂を霧状にして逃げるとは面白いね~」
「イカやタコみたいですね」
「足元の砂を使って目くらましにする発想が凄いね~砂なら余りあるほどあるから無駄がなく、環境を上手く使って逃げるのは面白いよ」
「あまり美味しくはないのが欠点ですが、砂漠を早く安全に渡す手段としては優秀です。それにしても半年の予定での旅でしたが一ヶ月もせずに交渉を終え帰って来られるとは思いませんでした……これもエルフェリーンさまやカリフェルさまのお陰です」
丁寧に頭を下げる第二王女ルスティール。
「そこは君たちの運が良かったんだよ~」
「そうね。エルフェリーンさまやクロがいたお陰ね。あれだけの商船をアイテムボックスに入れられるクロの功績は本当に凄い事よ。まあ、他の魅力もあるけどね」
「確かにクロさまの料理やお酒は他に類を見ない味ですわ。甘味も色々と御馳走して頂き感謝に耐えません」
「いえいえ、自分も師匠や皆さんに良くしてもらっているので、少しでも助けになれたのなら良かったですよ」
そんな話をしているとノックの音が響き中へと入って来る狐耳の男女。一人はヒゲを蓄えた細マッチョの貫禄のある男と、それに相応しい美しさを持つ狐耳の女性。
「獣王国によくぞ参った」
「幽霊船退治に転移で救って頂いたそうで感謝致しますわ」
深々と頭を下げる狐耳の女性。男の方は何度も頷き見定めるように一人一人に目を通して行く。
「陛下、こちらがサキュバニア帝国の皇帝陛下のカリフェルさまです。」
第二王女ルスティールの言葉に深々と頭を下げる獣王国の国王。尻尾がピンと立ち緊張したのが窺え、隣の女王も同じく尻尾をピンと立てる。
「これはこれは、遥々足を運んで頂き感謝する。末娘が外交に参加した事に心配していたが国交を結び、名高い女帝カリフェル殿を連れてくるとは驚いたぞ」
「それは先も説明した通りですわ。高名な錬金術師であるエルフェリーンさまやクロさまのお陰です。幽霊船に襲われた時は本当に生きた心地がしませんでした。それに伝説と言われる転移魔法を体験した事やクロさまのアイテムボックスの容量に、私の常識が崩壊したしました……」
「疑うわけではないがあれほど大きな船をアイテムボックスに入れたのだったな……彼一人がいれば戦争や開拓の物資補給にどれほどの助けになるか……もし、困った事があれば我が国に来るといい。特別待遇で採用しよう」
尻尾を揺らし声にする獣王国の国王にクロは苦笑いをしながらも「ありがとうございます」と口にして頭を下げる。
「あっ! 可愛い子!」
第三皇女キョルシーが声を上げるとドアの隙間からこっちを眺めていた少年が顔を隠すが、狐尻尾がフリフリと見え笑いを堪えるクロとシャロン。
「ほら、こっちに来なさい。どうせなら挨拶をするがいい」
国王の言葉に尻尾をピンと立てた少年が顔を出し緊張しているのかカチコチな動きで歩き頭を下げる。
「だ、第二王子のルージスです。ルスティール姉さま、お帰りなさい! ご無事で良かったです!」
頭をしっかりと下げ顔を上げると第二王女ルスティールへと走り抱き着くルージスに「まったくこの子は」と言いながら優しく抱き締め頭を撫でる。
「うんうん、仲が良い事は素晴らしいね~そういえばルビーとメリリが心配だし早く戻らないとだね~」
「メリリさんはしっかりしていますが抜けている所もたまに見ますから、帰ったらゴミ屋敷になっていたりして……」
エルフェリーンが数日逢っていない弟子たちを心配し、クロも頷きながら二人の事を思い出す。
「風は治ったようですが飲み過ぎて倒れているとか……流石にそこまで飲みませんよね?」
シャロンの言葉にエルフェリーンが腕組みをしながら考え、クロは「それはあるかも……」と顔を引き攣らせながら口にする。
「クロがお酒を大量に置いてきたのならありえそうだけど……置いてきたのかしら?」
無言で頷くクロに女帝カリフェルは優しい笑みを浮かべる。
「すまんが、急に帰られてしまうのだろうか? できれば国交樹立の宴や感謝を込めた食事会などを開きたいのだが……」
「ルスティールの命の恩人である貴方たちを何の御持て成しもせず返しては王家の恥になります。どうか、少しでも構いませんので宴を開かせていただけないでしょうか?」
国王と女王からの言葉に第二王女ルスティールも頭を下げ、抱き締められていた第三王子ルージスも空気を読んでか頭を下げる。
「そうだね。折角の宴なら参加しないと悪い気がするよ。あの二人なら大丈夫だと信じようじゃないか!」
「私も日帰りよりはゆっくりと飲んで休んで行きたいわね。この子の思い出になる様な事も何かしたいし、シャロンも色々考えているんでしょ?」
「えっ!? 僕は………………いえ、あの、特には……」
女帝カリフェルは第三皇女キョルシーの頭を撫でながら話し、クロをチラチラと見ながら頬を染めるシャロンは言い淀みそれをニヤニヤと見つめる女帝カリフェル。
「クロ、クロ、お願い! チョコあげたい。ダメですか?」
撫でられていた第三皇女キョルシーが何か思いついたのかクロへと走り上着を引っ張りながら瞳を向け、クロはアイテムボックスからチョコを取り出すとパッと表情を明るくし第三王子ルージスへと走る。
「これ、クロのチョコ! 美味しいよ!」
「………………チョコ?」
「クロさまがくれるチョコは美味しいですよ。私も頂きましたがこの世にこんなにも美味しいものがあるのかと驚きました」
第二王女ルスティールの言葉に笑顔の第三皇女キョルシーが差し出すチョコを受け取った第三王子ルージスは開け方を教わりながら口にする。
「ううううう、甘くて苦くて美味しい……」
金色の尻尾を揺らしながら表情を緩める姿に獣王国の王家やメイドたちも表情を緩め、第三皇女キョルシーは嬉しかったのかこの場にいる者たちにチョコを配り始める。
「あら、私までいいのかしら」
「小さなプリンセスからの贈り物は嬉しいものだな」
「わ、私の様なメイドにまでありがとうございます」
王家やメイドにまで配り全員がチョコを食べていると新たなメイドが姿を現し「会食の準備ができました」と声を掛け、小走りでチョコを配る第三皇女キョルシー。
「あの、えっと、その……」
「貰って差し上げなさい。とても美味しいのよ」
王妃の言葉にメイドが頭を下げながら受け取るとニコニコの第三皇女キョルシーはクロの元へと走り抱き着き「みんな喜んでくれました! クロのチョコは凄いです!」と笑顔を咲かせ、クロは優しく頭を撫でると横にいたシャロンは何か言いたげな表情をしていたが、会食の為に移動し始めるとクロの横に付き足を進める。
「僕も………………」
「ん? 何か言ったか?」
「いえ、何でもないです……」
俯きながら足を進めるのであった。
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