船の修理依頼
翌日、女帝カリフェルと第三皇女キョルシーを加えた一行は獣王国の港町に到着していた。
「一足先に話を通してくるのにゃ~」
転移した先は真夏の日差しが眩しい荒野ですぐ先には壮大な砂漠が広がっており、逆を向けば広大な青い海と大きな港町が見え、数名の部下を連れた船長のニャロンブースは港町へ走る。
「日差しの割に風があって気持ちがいいわ」
「うんうん、何だか色々思い出すよ~昔はこんなに大きな町じゃなかったけど……多くの船が漁業をしているよ!」
「この日差しはすぐに日焼けしそうですね。師匠は日傘とか使いますか?」
「うん? そうだね。日焼けは魔法で治るけど日傘を使った方がいいかもしれないね」
クロは魔力創造で白い花柄の日傘を創造すると女性たちに配り始める。
「こうやって留め具を外して押しながら開きます。これを手に持って日差しを避けて下さい」
「日陰を自分で作り出すことができるのですね」
「コンパクトに収納されていたのに、これほど大きくなるのは便利ですわ」
「本来なら貴族が使う日傘は大きく使用人が持つが、これほど小さく作りながらも折りたためるとは……」
手にした日傘の使い方を教えるとシャロンとカリフェルに騎士アーレイが驚き、第三皇女キョルシーは嬉しそうに日傘を手にしてクルクルと回す。
「チョコのクロは凄いのです!」
「確かに凄いですが、チョコのクロと呼ぶのは……キョルはチョコが好きなのかな?」
「はい! チョコもケーキもクロも大好きです! シャロンお姉ちゃんもお母さんも大好きです!」
キラキラした瞳を向ける第三皇女キョルシーは歩き出しクロの横に並ぶ。
「チョコのクロ! ありがと!」
「いえいえ、気に入ってもらったのなら良かったです。日傘を持っている時は傘に注意して下さいね。ぶつかると危険ですからね」
「うん! 気を付けます」
ゆっくりと歩きながら町を目指すと数名の冒険者や商人と思われる獣人たちとすれ違うが、日傘を差す集団を怪しいと思ったのか話し掛けて来る者はおらずスムーズに町の入り口まで足を進める。
「身分を証明できるものを提示してくれ」
屈強な狐耳の警備たちに声を掛けられ第二王女ルスティールと騎士アーレイは懐から貴族章を取り出すと顔を引き攣らせ、町の方からは馬車が到着し叫び声を上げる船長のニャロンブースと大商人と思われる狸耳をした恰幅の良い男が声を上げる。
「迎えに来たのにゃ!」
「王女殿下! それに女帝殿下様方をお迎えに上がりました!」
叫び声にざわつく民衆たち。門番の男たちは顔を青くしながらもまわりに目を走らせ怪しい者がいないか注意し、エルフェリーンと女帝カリフェルは第三皇女キョルシーの手を繋ぎ馬車へと足を進める。
「この馬車に乗るのにゃ~この方々の身分はにゃ~が証明するのにゃ!」
「ささ、第二王女さま方も御乗り下さい。迎えが遅くなり申し訳ありません」
大きな馬車に乗り込むながら頭を下げる門番に礼を返すクロ。中は涼しく氷の魔石を使ったエアコンの様なものが広い馬車内を冷やしているのだろう。
「この人がアクオス造船商会のアーグスにゃのにゃ。造船業の偉い人にゃのにゃ」
「ニャロンブース様、この第二王女殿下や他国の皇女さま方を前に偉い人と紹介するのは勘弁して下さい。造船業の生業にしている者です。以後お見知りおきを……」
馬車内で頭を下げるアーグスにクロも頭を下げ他の者たちは微笑みで応える。
「クロのアイテムボックスに商船が入っているのにゃ~クロは船の修理場に商船を出して欲しいのにゃ」
「商船をアイテムボックスに入れるとは素晴らしい容量をお持ちですね。もし、クロ殿が我が社へ就職してくれたのなら船を運び陸路を渡り、どこにでも船を運ぶことができますな」
「チョコのクロは舟屋さんになるのですか?」
隣に座った第三皇女キョルシーの言葉に首を横に振るクロ。
「自分は錬金術師を目指していますし、師匠たちとの暮らしが好きなので他の職に就くことはないですね」
「うんうん、そうだよね~クロは僕と一緒に錬金術を学び楽しく暮らすんだぜ~カリフェルが羨ましがったってあげないぜ~」
「あら、それを選ぶのはクロ自身よね。まあ、クロを引き留める手段がないのだけれど……」
エルフェリーンがカリフェルに向けドヤ顔をし、カリフェルは特に気にしていないのか表情を変えず手段がない事を口にする。
「それはそれは、もし、我が社へ就職して頂けるのなら月に金三百枚をご用意しますが如何でしょうか?」
「申し訳ありません。これは金額ではないので……」
「そうですか……その気持ちを大事になさって下さいね。ライバルの造船業へ渡らなければ私と致しましても助かります」
ゆっくりと頭を下げるアーグスにクロも頭を下げ停止する馬車。運がに面した造船所は巨大で多くの獣人たちが木材を運び入れている所が目に入る。
「クロ殿は私と船長の後に、他の皆様は待合室がございますので、そちらでお待ち下さい」
「それなら先にお茶請けを渡しておきますね」
商船を入れた時の事を思い出し一時間ほど掛かると思ったクロはアイテムボックスから冷たいジュースやスナック菓子にチョコを取り出すとメルフェルンに手渡す。
「チョコです! クロのチョコがいっぱいです!」
「お酒は出してくれないのかしら?」
「僕も一杯飲みながら待ちたいけどな~」
「この後は第二王女さまを獣王国の首都に送る手筈ですよね? ジュースで我慢して下さい」
「ちぇっ、クロのそういう所はもっと緩くなってほしいよ~」
唇を尖らせるエルフェリーンとあからさまに残念そうな表情を浮かべる女帝カリフェル。馬車を降りたクロはアーグスと船長の後に続き船を作る作業場へと姿を消す。
「第二王女さま方、こちらへどうぞ」
狐耳をした造船所の職員に案内され足を進め応接室に到着すると、馬車内と同じようにエアコンで温度設定されているかのように涼しく革張りのソファーに腰を下ろす一行。
「いま、お茶をお出し致しますね」
その言葉に待ったをかけたエルフェリーンはメルフェルンが持つ荷物を広げる。
「お茶とお菓子はこっちで持って来たからゆっくりさせてもらうよ。君も良かったらいっしょに食べないかい?」
「よ、宜しいのですか?」
「ああ、足りなくなったら僕が秘蔵するお菓子を出すぜ~エビを使ったパリパリとしたお菓子やイカを干した珍味もあるぜ~」
「あら、それは食べた事がないわね」
「それでは御相伴に預からせて頂きます」
「母様、先に自己紹介をなさいませんと」
「あら、そうね。私はアーグスの妻でアクオスと申します。こっちは娘のアクリルですわ」
丁寧に頭を下げる親子。チョコを見て目を輝かせたキョルシーが声を上げる。
「チョコです! クロのチョコはとっても美味しいのですよ!」
「キョルはクロさんのチョコが本当に大好きだね。僕も好きだけど……」
「シャロンはクロさんが好きなのよね~」
「うぐっ!? きゅ、急に何を……好きというよりも慕っているだけで……今は異性だけど元に戻れば……」
次第にボリュームを下げるシャロンの言葉に興味がないのかキラキラした瞳でチョコを口に入れるキョルシー。
「あはははは、クロはモテモテだね~ほら、君たちも食べなよ。片っ端から食べて好きなものを食べるといいよ~飲み物は甘いものとお茶があるからね~」
エルフェリーンの言葉に恐る恐る手を出し口にするアクオスとアクリルは口にした途端にフリーズし、初めて食べる異世界のスナック菓子に身を震わせるのであった。
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