国交記念パーティー
第二王女ルスティールは文官を連れ第一皇女キャスリーンと宰相は国交を結ぶべく別室へ移動する。
「こちらの壺はコボルトたちの作った特別にゃ染料を使っているのにゃ」
ふっくらとした壺は緋色と藍色のグラデーションが美しく夜明けの空を思わせる。
「ふわぁ~綺麗です」
「そうだね。色合いがとても美しいよ」
「花を活けるというよりも壺だけ飾った方が良いのでしょうか?」
「にゃ~壺は飽くまでも壺にゃのにゃ~鼻を活けても酒を入れても小銭を貯めてもいいのにゃ~好きに使ってほしいのにゃ~」
国宝級の美しさを誇る壺に小銭を貯めるのはどうかと思う一同。ただ第三皇女のキョルシーは目をキラキラさせながら壺を見つめており「お小遣いを貯めます!」と言い出しそうな雰囲気がありシャロンは背中を押して別の箱へと興味を向けさせる。
「ほらほら、この絨毯も綺麗だよ。とても細かい刺繍だね」
「ふわぁ~綺麗ですね。色がいっぱいで鳥さんに蛇さんにいっぱいです!」
「頭が多くあるのはドラゴンかしら?」
「ヒドラにゃのにゃ~獣王国でも多く見られる種ですにゃ~再生能力が高く首を切り落としても生えてくるのにゃ~」
「核となる頭を潰さない限り再生を繰り返すのよね。できるだけ早く止めを刺さないと肉くと皮が傷んで美味しくないし商品価値が下がるのよね」
「うんうん、懐かしいね~ドランが本気で口説いていたよね~愛を囁いても知能が低いのか噛みつかれていたよ~」
「………………ドランさん………………」
「愛を囁いて………………」
女帝カリフェルとエルフェリーンが笑いながらドランとの思い出を話し、クロはその姿を思い浮かべ、シャロンは愛を囁いてという言葉に反応して頬を染める。
「むっ! シャロンは渡さないからね!」
そう叫びながらクロを睨み抱き寄せようとした第二皇女キュアーゼだったが、メルフェルンが素早く動きシャロンとの接触を避けるべく壁になる。
「なっ!? メルフェルンは邪魔しな…………」
「キュアーゼさま、落ち着いて下さい。シャロンさまの女性アレルギーですので、接触は控えていただかないと……」
目の前のメルフェルンに一瞬思考が鈍ったのか呆ける第二皇女キュアーゼ。急に頬を染め男装姿のメルフェルンに言葉にコクリと頷く。
キュアーゼを含め箱入り娘の皇女たちは異性と触れ合う事はほぼなく、あったとしても女性恐怖症のシャロンだけであった。インキュバスの数は非常に少なく産まれても囲い込むことでその姿を見る者は少なく、王族や貴族であっても生涯インキュバスと出会わずに終える者も少なくない。ただ、今の王家にはシャロンが産まれた事もありインキュバスと接する機会もあるのだが、やはり肉親ではないという事実とメルフェルンの容姿が一人のサキュバスをときめかせたのだろう。
頬を軽く染め呆ける第二皇女キュアーゼに女帝カリフェルは大きなため息を吐く。メルフェルンが数日で女性へと戻る事は伝えていたし、まさか恋に落ちるなど思ってもみなかったのだ。
「これは拗れる前に早く元に戻ってもらった方がいいかもね……」
小さく呟く女帝カリフェル。隣にいた事もあり小さく頷くクロは視線を向けて頬を染めるシャロンにどうしたものかと思うのだった。
交渉は驚くほどスムーズに進み一時間ほどで互いの交易品を決まると国交が樹立した。互いに握手を交わし微笑む第一皇女キャスリーンと第二王女ルスティール。それをサキュバニア帝国の貴族たちと獣王国の文官にクロたちが拍手で称え、立会人にはハイエルフのエルフェリーンが務め嬉しそうに笑顔を浮かべる。
「こうした国交が広がれば世界が平和になると僕は信じているぜ~互いに努力し足りない所を補いながら切磋琢磨する事を期待するよ~」
「はい、この度の国交はエルフェリーンさまや多くの方々に支えられ樹立しました。皆様に感謝を……うぐっ……」
国交を任されていた第二王女ルスティールが涙をホロリと流すと第一皇女キャスリーンは優しく肩に触れ抱き締める。
「私はまだまだ見習いだがよろしく頼む。これからの両国は良き関係に……長い旅をして疲れただろうから我が国の料理と酒で英気を養ってくれ」
「はい……」
大きな拍手が鳴り響く大ホールでは国交樹立のパーティーが開かれワインや獣王国から持ち込まれた蒸留酒を口にするサキュバニア帝国の貴族たち。
クロたちは二段に分かれたパーティー会場の上部におり、下の段目には多くの貴族と船乗りたちが立食形式で飲食をしている。上の段位は女帝カリフェルと第二王女ルスティールを含めた者たちが飲食をし、王族の暗殺に気を配っているのだ。
「クロ! 僕はウイスキーが飲みたいよ!」
「私はブランデーをお願いね!」
「チョコのお兄ちゃん! チョコが食べたいです!」
「えっと、ウイスキーにブランデーにチョコですね。出しますけど、獣王国のお酒やこちらの料理も食べて下さいね」
テーブルには前菜が並び、クロがアイテムボックスのスキルを使いリクエストに応えていると、涙していた第二王女ルスティールを連れた第一皇女キャスリーンが席に付く。
「クロさま、本当にありがとうございます……」
「私からも礼を言わせてくれ。獣王国とは海を挟んでいる事もあってか噂ぐらいしか聞かないからな。その国と国交が結ぶことができ、これからのサキュバニア帝国がどれほど発展するか楽しみでならないよ」
涙を拭いながら頭を下げる第二王女ルスティールと妖艶な微笑みを浮かべる第一皇女キャスリーン。
「いえ、師匠のお陰ですから……それよりも料理が運ばれてきましたよ」
「急なパーティーで調理長が大忙しだったと耳に入れたがクロコダイルの良い肉が手に入ったと言っていたからな。味は期待してくれ」
「クロコダイル……ワニ料理ですか、それは楽しみですね」
「ワニ料理ならクロも最近よく作ってくれたよね~ギガアリゲーターという馬鹿みたいに大きなワニを仕留めたんだぜ~」
「あら、それって前に料理していただいたものよね?」
「そうですね。裏庭を借りて唐揚げにして振舞いましたね」
「あの時のカリカリとした料理ですわね!」
「ケーキも一緒と一緒に出してくれたのです! 白くてふわふわで甘かったです!」
魔鉄を運び込み料理を振舞った事を思い出す第一皇女キャスリーンと第三皇女キョルシー。キョルシーは両手で頬を抑え提供したケーキの味を思い出しているのかキラキラとした瞳をクロへと向けて来る。
「えっと、まずはこちらの料理を頂いた後にでもこっそり出しますから、今は」
「本当ですか!? それは楽しみです!」
「キョル、あまり大きな声を出してはダメですよ。他の皆さんが驚いてしまいますからね」
「うん! シャロンお姉ちゃん!」
シャロンに注意されるがケーキが余程嬉しいのかテンションを上げながら答えるキョルシー。まだ幼い事もあり向日葵のような笑顔を向けるキョルシーにシャロンも微笑みながら優しく頭を撫でる。
「こうして見るとシャロンも立派なお姉ちゃんだな」
「ふふ、ありがとう……でも、この姿は一時的なものだから………………」
「僕だってお姉ちゃんなんだぜ~うぐぐん、ぷはぁ~エルファーレと比べればどちらがお姉ちゃん度が高いか丸解りだろ~」
「師匠は飲み過ぎないで下さいよ……また二日酔いで転移したくないとか、お姉ちゃんは言いませんからね……」
「わかっているさ~それよりも、明日の午後には獣王国に転移するとして、カリフェルも付いて来るのかな?」
「はい、できればシャロンとメルフェルンを連れ挨拶にだけ向かいたいですわね。使者という訳ではありませんが、どうせなら観光をして」
「ハイハイ、母様! 私も行きたいです!」
元気に手を上げるキョルシーに女帝カリフェルは「なら一緒に行きましょうね」と優しく微笑むのであった。
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