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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第八章 南国のハイエルフ
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サキュバニア帝国へ



「エルフェリーンさま! お久しぶりというほどではありませんが、お元気なようで嬉しく思いますわ」


 準備を終えたクロたちはエルフェリーンの転移魔法でサキュバニア帝国に転移したのだが、転移した場所は以前クロが大量の魔鉄を運び入れた王城の裏でありそこには大きな胸を揺らしながらサキュバスの兵士たちに稽古を付けている女帝カリフェルの姿があった。


「うんうん、カリフェルも元気でよかったよ~これから君に会わせたい人を連れてくるから待っててね!」


 笑顔でそう言い残すとゲートへと姿を消し、訓練をしていたサキュバスの兵士たちは急に現れ消えたエルフェリーンに驚きながらも集まり、カリフェルは頭を傾げながら合わせたい人を思案する。


「合わせたい人……誰かしら?」


 ゲートから姿を現したのは狐耳と狐尻尾が愛らしい第二王女ルスティール。その後を船長のニャロンブースが続き、獣王国の文官や船員たち。最後にクロにシャロンとメルフェルン。

ちなみにビスチェとアイリーンは島に残り幼いフェンリルたちと狩りに出かけている。


「サキュバニア帝国の皇帝陛下、私は獣王国第二王女ルスティールと申します。この度は謁見して頂き感謝致しますわ」


 やや上ずった声で頭を下げカーテシーを取る第二王女ルスティールに、汗を拭いていたカリフェルは微笑みを浮かべつつ後ろに控えているシャロンとメルフェルンを視界に入れクロへと視線を飛ばす。


「そう、獣王国とは遠い所からよく来たわね。それに色々と聞きたい事もあるし、落ち着いて話したいから中へ入りましょうか。誰か、準備をするように伝えて頂戴」


「はっ!」


 数名の兵士が動き城内のメイドへと知らせに走り、カリフェルはシャロンへ視線を向けるとあからさまに顔を逸らすシャロン。メルフェルンは頭を下げ続け、どう説明したものかと思案するクロ。


「どうぞ貴賓室でお寛ぎ下さい」


 数名のメイドが現れ第二王女ルスティールは微笑みながら足を進め、船長のニャロンブースが続き獣王国の文官たちが後を追い、船員たちも戸惑いながら足を進める。


「エルフェリーンさま、少し宜しいでしょうか?」


 エルフェリーンが足を進めようとした所で呼び止められ女帝カリフェルへと振り向く一行。そこには笑顔でありながらも目の奥が笑っておらず既に何らかを察しているのだろう。


「そこのシャロンとメルフェルンの性別が違う事について聞きたいのですが宜しいでしょうか?」


「あはははは、流石カリフェルだね! 性別を変えたぐらいじゃ驚かないか!」


 腰を曲げエルフェリーンと視線を合わせるカリフェルは目を吊り上げて口を開く。


「まさかエルフェリーンさまの薬品実験でこうなったとか言いませんよね? 私の可愛い息子が可愛い娘に変わるとかどういう心算ですか!! 性別がこうも見事に入れ替わるとかどんな薬を、」


「母さん! あの、その……」


 エルフェリーンに詰め寄っていたカリフェルの声を遮り口を開いたシャロンはクロの腕を掴みながら更に言葉を紡ぐ。


「これには事情があって……人助けの為に……魔力暴走を食い止める為に……一時的に性別が変わったそうです……」


「魔力暴走?」


「はい、クロさんが魔力暴走を起こしそうになり僕とメルフェルンが協力してドレインを使い魔力を吸い出した影響です……」


 シャロンの言葉に顔を上げ顎に手を当て考える素振りを見せるカリフェル。


「僕の見立てじゃあと五日もすれば元の性別に戻ると思うよ」


「あら、それならそうと早く言って頂ければ……ふふふふ、シャロンちゃんのドレスを用意する機会ができたと思えば楽しくなるわね!」


 拳を平手に打ち名案を口にするカリフェル。


「えっ………………そ、そんなの困るよ! 僕はこのワンピースだって抵抗があったのに……」


 ビスチェから借りた緑のワンピースの裾を握り頬を染めるシャロン。


「大丈夫です! シャロさまはどんなドレスでもお似合いになるはずです! 私も男装しているのですからシャロンさまもするべきです! これは神が与えたチャンス! いえ、試練だと思って楽しむべきです! むふぅ~」


 顔を上げ饒舌に語ったメルフェルンにシャロンが苦笑いを浮かべクロとエルフェリーンは笑い出し、カリフェルは深く頷く。


「そうかもしれないわね! メルフェルンにもインキュバスとしてのスーツを着せるチャンスよね!」


「へっ………………………………」


「私のコレクションから素晴らしいスーツを貸してあげるわぁ~うふふふ、シャロンのドレス姿とメルフェルンのスーツ姿を楽しめるなんて楽しみで堪らないわ!」


 歓喜する女帝カリフェルの姿にやっぱり魔王ってこういう人の事だとクロ。背中にぴったりと付き震えるシャロンにどう助け舟を出したらいいかと思案しながらも、目の前の魔王が逃げようとしたメルフェルンの初動を抑え抱き上げると、下卑た笑い声を上げ去って行く。


「おーほっほっほっほっほ! どのスーツを着替えさせようかしら~」


 その姿はまるで女魔王に誘拐される王子様といった感じで、顔を引き攣らせるクロ。シャロンはクロの背中で震え続けるのだった。










「こちらが我が獣王国からの貿易商品になります」


 謁見の間ではクロがアイテムボックスから木箱を積み上げ文官たちが中から商品を取り出し並べ始める。


「まあ、綺麗な布ね。絨毯なのかしら?」


「はい、獣王国では良質なウールの産地でそれを紡ぎ絨毯にしております。こちらは獣王国の金貨で数百枚はする品々であります。他にも金や銀に宝石などを多く産出しておりますので、加工したアクセサリーなどもお持ちしております」


「獣王国は二度ほどエルフェリーンさまと一緒に行きましたが、自然が多く素晴らしい所でしたわ。お酒も凄く強かったと記憶しております」


「蒸留酒ですわね。喉が焼けるほど強く果実を絞ったものを加えて飲みます。こちらのサボッテンを使い作るお酒ですわ」


 木箱から一本の琥珀色した瓶を取り出しメイドに預けるとメイドはそれを女帝カリフェルの元へと届ける。


「今晩が楽しみですわ。お酒ならこの国でも作っていますが……クロ、あなたのブランデーよりも美味しいお酒には出会った事がないわ。ルスティールさまは飲まれましたか?」


「はい、あのお酒はとても強いながらも香りと甘みが素晴らしいものでした……あれと比べられてはこのお酒たちも可哀想というしか……」


 悔しそうに顔を顰める第二王女ルスティール。


「ごめんなさいね。比べる心算ではなかったのだけど、ブランデーにウイスキーといった酒はある意味特別だとしか言えないわね。この国でもあれを越える事は難しいと思うわ」


「あはははは、クロのお酒は特別だからね~日本酒にどぶろくも僕は好きだぜ~また倒れられたら困るから多くは譲れないけど、少量ならクロにお願いしてもいいからね~」


 エルフェリーンの言葉に女帝カリフェルと第二王女ルスティールの目が輝き、他にもサキュバスの文官たちからも視線を集めるクロ。やや顔を引き攣らせながらもアイテムボックスから木箱を取り出し続ける。


「お待たせいたしました。皇女さま方とメルフェルンさまをお連れ致しました」


 メイドからの言葉に謁見の間へと視線が降り注ぎ、現れる四姉妹とメルフェルン。


 紫のスーツに身を包み腰には白銀に宝石をあしらったショートソードが装備され、シャロンをエスコートするメルフェルン。その後に続き第一王女から第三王女までが姿を現しその美貌に目を奪われる船乗りたち。

 クロも例外ではなくシャロンのドレス姿に目を奪われ木箱を危うく落とす所であったが、エルフェリーンが魔術で落下を阻止すると「もう、危ないから気を付けないとダメだぜ~」と微笑みながら木箱をゆっくりと床へ降ろす。クロはエルフェリーンに軽く頭下げ作業を続けるのであった。





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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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