ハイエルフ二人に怒るクロと起きたバブリーン
「ふぅ、朝から魚介類のBBQは美味しいし楽しかったよ~ただ、お酒禁止はどうなのかな? あんなに美味しい貝の直火焼きにはお酒が絶対に合うと思うのに……」
「僕も同じ意見だぜ~プルンとした蒸したカキにポン酢をかけて食べるのは美味しかったけど、どうしてワインもどぶろくも日本酒も禁止なのかなぁ~ウイスキーだって禁止にするのは酷いと思う! 僕は断固抗議するよ!」
朝食を食べ終えたエルファーレとエルフェリーンから抗議の声を受けるクロ。二人は朝食で用意されたBBQで酒が出ない事に腹を立てていた。そして、その様子を青い顔をして見つめる第二王女ルスティールと船長のニャロンブースにその配下たち。
「本来だったら昨日のうちにサキュバニア帝国へ行く予定でしたよね」
腕を組んで頬を膨らますエルファーレと同じく腕を組み眉間に皺を寄せるエルフェリーンに、クロが優しく問いかける。
「そ、それは……」
「クロがお酒に合う料理を作るから、ちょっと飲み過ぎただけだよ……ちょっとだよ……」
クロの言葉に言い訳を考えるエルファーレ。エルフェリーンは素直に飲み過ぎた事を謝罪するが、クロの料理に責任を押し付けこの場を逃れようとする。
「転移魔法は高等な魔術と自慢げに語っていましたよね。それなのにお酒を入れて転移魔法を使ったらどこへ行くかわかったものじゃないですよ……これが急ぎの用事もなく家に帰るとかならいいですけ、国と国との国交を結ぶという重要な案件なのに酔った勢いで転移するとかいいと思いますか?」
正論を口にするクロにエルファーレの戦意はもうないらしくシュンとして背を丸め俯き、エルフェリーンは口を尖らせへそを曲げたのかクロと目を合わせようとはしない。
「ですから、朝食でお酒を出す事は俺がお願いして出さないように指示をしました。恨むなら自分を恨んでくれて結構です。それに、昨日だって昼から飲み始め寝るまで飲んでいたじゃないですか」
「そ、それは……」
「僕はエルファーレと久しぶりに一緒にいて嬉しいから美味しいお酒を飲んだんだよ」
「それでもです。お酒の飲み過ぎは体に悪いのは薬師としても高名な師匠ならわかりますよね?」
「ううう、そうだけど……」
「そうだけどじゃないですよ……はぁ……師匠の錬金術と薬師としての腕を必要としている人は多いのですからね。俺だって師匠にまだまだ色々と教わりたいですし、ちゃんとしたポーションの作り方だって、これから本格的に教えると言ってくれたじゃないですか……」
「うん、ごめん……お酒の飲む量は……少しだけ控えるよ……」
師匠という立場でこれだけ叱られるのは珍しいだろう。それに褐色のエルフや獣王国の者たちはこの光景を瞳に入れ驚きの表情を浮かべている。
世界に七人しかいないとされるハイエルフの二名へ説教をする人族の青年。しかも、喧嘩になるのではなく相手を反省させる言葉まで引き出しているのだ。
「クロが珍しく怒っているわね」
「昨日の午後にはサキュバニア帝国へ第二王女ルスティールさまを送る予定でしたから……」
「船と貿易品にこちらからのお土産も収納済みでしたから思う所がったのだと思いますが、エルファーレさまやエルフェリーンさまに説教をするというのは凄いです……私も神殿長としてご指摘はできてもあまり心には響いていませんでしたから……」
ビスチェにメルフェルンと褐色エルフの神殿長が小声で話し合い三人の様子を見つめていると、エルファーレの瞳からポロリと涙が流れ落ちる。
「ごめん、ごめんよ~クロがそんなに怒るとは思ってなかったよ~それに私たちの体を気遣ってくれて嬉しいよ~」
「そうだね……ごめん……クロが私の妹まで気遣ってくれていて僕は嬉しいよ」
泣きながら謝罪するエルファーレと仄かに光る目元を太陽光に乱反射させたエルフェリーンにクロは後頭部を掻きながら泣くほどじゃないだろと思う。それに視界に視界の隅に映るキャロットが大きな欠伸をして、白亜も欠伸がうつったのか大きく口を開ける。
「わかっていただけたのなら良かったです。それでは師匠は歯磨きをして服を着替えましょうね」
「え、このままでいいと思うよ?」
「醤油の染みができていますからね。エルファーレさまのお着替えは、」
「私たちが致します」
褐色エルフたちが動き出しエルファーレを抱き上げ神殿へと向かい、クロはビスチェとアイリーンへアイコンタクトを送ると頷き二人はエルフェリーンの手を取ると神殿へと消えて行く。
「クロさま! ありがとうございます。一時はどうなるかと思いましたが、これでサキュバニア帝国へ行くことができます!」
「クロさんはやっぱり凄いですね! エルフェリーンさまやエルファーレさまも叱ることができるなんて……やっぱりクロさんは凄いですよ!」
「我々も見習わなければですね……崇拝するがあまり盲目になる事はエルファーレさまの為になりませんから……」
第二王女ルスティールはホッと胸を撫で下ろしクロへと頭を下げ、シャロンはキラキラとした瞳を向け、エルファーレの傍に付き身の回りの世話をしている褐色エルフは思い当たる事が多いのか自省する。
「ふふふ、耳だけ傾けていたらエルファーレのババアが反省するとはな……面白いものが見られたよ」
むくりとベンチから起き上がり笑いを堪えているのか肩を震わせたのは海竜のバブリーン。
「バブリーンさんも何か食べますか?」
「うん? うん! 変わった香りがするけど何を焼いているのかな?」
「貝に醤油を少量たらして焼いています。他にも魚介を使ったスープに魚をバターで炒めたものや柔らかいパンもありますよ」
「色々とあるのだね~この香ばしい香りが気になるから貰おうかな~」
「はい、少々お待ち下さい」
クロがサザエに似た貝を網に掛け、メルフェルンがスープのカップに注ぎ動き出す。
ベッドから起き上がったバブリーンは興味深げに炭火で焼かれる貝を見つめ、ブクブクと泡が立つとクロが醤油を少量たらし香りが広がる。
「う~ん、いい香りだね~楽しみだよ~」
「先にスープをどうぞ。海藻や魚介を使ったお味噌汁です。お熱いのでお気を付け下さい」
メルフェルンから差し出された椀を凝視する海竜のバブリーンはスプーンを手に取ると口に運び頬を緩ませる。
「不思議な味で美味しいよ~初めて食べるけど……ん? こうした料理を口にするの事態がもう百年以上も前な気がするね~あむあむ」
「口に合ったのならよかった。こっちはまだ熱いので冷めたら串を刺して回転させるように中の貝を取り出して下さい」
「うん、ありがとう。所であの白い竜は?」
「白亜ですね。白夜さんのお子さんで、うちで預かっています」
「白夜さん? え、ええええええええええええっ!? 白夜さまのお子さまだって!?」
目を見開き驚きの声を上げ白亜を凝視する海竜のバブリーン。その叫びに目を覚ましたのか目を擦り辺りをキョロキョロとしてクロを見つけると飛び立ち、クロの胸に収まるとゆっくりと目を閉じ寝息を立てる白亜。
「…………………………寝てしまったが、こんなにも懐いている事に驚くのだけれど……」
「白亜とは一緒にワイバーンと戦った仲ですから……」
「人と幼い竜でワイバーンに太刀打ちできるのか……それは凄い事だけどね……」
寝息を立てる白亜を優しく撫でるクロから視線を外し、バブリーンは冷めたであろうサザエに似た貝に串を刺しグルグルと回して中身を取り出すと湯気を上げ、大きな口を開き咀嚼すると両手で頬を抑える。
「これは絶品だよ~エルファーレのババアが酒を欲した気持ちが理解できたよ~私もお酒が欲しくなるね~どうかな、少しでいいから酒を貰えないだろうか」
「すいません。師匠にも出せなかったので……代わりにサキュバニア帝国へ行く用事が終わった後ならお酒を譲りますよ」
「本当かい! なら、楽しみにしておくから料理もお願いしていいかな?」
「はい、できる限りお酒に合うような料理を作りますね」
「やった! 楽しみだよ~」
嬉しそうに料理を楽しむ海竜のバブリーン。クロは白亜をベンチに寝かせるのであった。
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