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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第二章 預かりモノと復讐者
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親公認の家出と目潰し



「それにしても白夜が子供を預けに来るとは……それはそうと、古龍種は普通のドラゴンと違い素材がワンランクもトゥーランクも上だからねぇ……」


 屋敷へ戻ったクロは白亜を抱き上げエルフェリーンに経緯を説明しお風呂へと直行。先に戻ったビスチェが魔術でお風呂を沸かしてくれていたのかお湯は温かく、ゴシゴシと白亜を擦りながら汚れを落とすと白銀の様な鱗が輝きを取り戻す。クロも自身を洗うと湯に浸かり白亜との混浴を済ませた。


「師匠……本人を前にそういう冗談はやめて下さいよ……」


 クロに抱かれたまま震える白亜にエルフェリーンは「冗談だよ~ただ、脱皮する時は教えて欲しいな~」と笑顔を向ける。


「脱皮といえばアイリーンは大丈夫でしょうか。もう二週間になりますよ」


「脱皮というか進化だろうね。魔物の種類によっては上位種へ進化するものも多いよ。特に昆虫型の魔物だと芋虫から蝶になったりするからね。動物型の魔物も進化する時は無防備になるから気配を消して穴倉に籠るだろうし、アイリーンは自身の家があるからそこで体を作り変えているのだろう。とても興味深いよね!」


 いい笑顔を向けるエルフェリーンに研究対象なのかと思いため息を吐くクロ。他人事ではない白亜はクロに抱かれたまま隠れる様に顔を脇へと入れる。


「それにしても懐いているね。今日会ったばかりだろ?」


「まだ会ってから二時間も経ってないですね。二人で死の淵に立ったからかな? 生きている事を二人で喜びましたし」


 ワイバーンからの攻撃をシールド魔法で受け続け極限状態を一人と一匹で過ごした事と、その結果、命を守られたという実感が白亜にはありクロを信頼したのだろう。


「ワイバーンは魔石が魅力的だね。あとは翼の膜に耐水性があって色々と使えるし、太腿のお肉が美味しいね。鶏冠は薬に使え、体内に卵があれば育てると懐くからエルフの里ではペットにする者もいたね」


「そういやビスチェが白亜を抱こうとして逃げられ凹んでたな」


「そんな事があったのかい? そりゃまだ引きずっているのか……」


 腕組みをして神妙な顔つきに変わったエルフェリーンに、過去に何かあったのだろうと推測するクロ。


「ビスチェも昔はペットを飼っていてね。目の前で魔物に襲われた事があったんだよ。そこからは殻に閉じこもった様に家から出なくなってね……そんな事もあり家族に相談されてここに来たんだ。今ではすっかり明るくなったから大丈夫だと思ってたけど……」


「キュウ?」


 エルフェリーンの言葉に反応して顔を出した白亜はじっとクロを見つめ、クロも白亜の瞳を見つめ静かに頷くと理解したのか近くに合った椅子に座らせる。


「白亜がそのトラウマを乗り越える力を貸してくれるのか?」


「キュウー」


「ははは、果物を寄こせだってさ」


 白亜の言葉が解るのかエルフェリーンは笑いながら言葉を訳し、クロは気まずくなりながらもアイテムボックスからビワを取り出すと、白亜に見せ付けるよう目の前に差し出す。


「これはビスチェと仲良くなったら上げるからな」


「キュウ……」


 目の前にぶら下がったビワを前に悲しそうな声を上げる白亜。


「根は優しいから大丈夫だよ。それに飼っていたのはマンドラゴラだけどね」


「それって植物じゃ……」


「一応は魔物に分類される植物系の魔物だよ。とても小さな魔石があるし、毎日水やりをして育てていたけどユニコーンに食べられちゃったそうだよ」


「何というかファンタジーの押し売りみたいな出来事だな……」


「ユニコーンは魔法を使うからね。マンドラゴラは引き抜かれたり衝撃を受けたら防衛する為に大声を上げるが、サイレントの魔法を使うユニコーンの前には無力だからねぇ。そのユニコーンはビスチェのお父さんが飼っていたから大変だったんだよ……」


「それは父親が嫌われそうだな……」


「パパなんて大嫌いと何度も言われてげっそりしながら、ここで預かってほしいと頼まれたからね」


「何か心配して損した気がする……」


 今度はクロが肩を落とし、その隙にビワを口に入れる白亜。


「僕にもビワをおくれよ! そもそも僕が頼んだんだよ!」


「そうですね……はぁ……」


 アイテムボックスからビワとグレープフルーツをテーブルに置くと目を輝かせビワを口に入れるエルフェリーン。白亜もグレープフルーツを教わった方法で爪を入れ剥きはじめる。


「あっ!? 何で私がいないのに食べ始めるのよ! ずるいわ! ずる過ぎるわよ!」


 凹んでいたビスチェも加わりフルーツ食べ放題と化したダイニングテーブル。ビスチェもビワを口に入れると凹んでいたのが嘘のように表情を溶かす。


「この時期はビワが一番ね!」


「僕もビワが好きだよ!」


「キューキューキュー」


 一瞬でも凹んだビスチェに悩んだ事を後悔したクロは、表情を溶かすビスチェの前に座り口を開く。


「なあ、さっきは凹んでた様に見えたが、あれは何だったんだ?」


「ん? ああ、そりゃ凹むわよ! 七大竜王の白夜さまのお子さんに拒否されたら信仰している信者からしたら凹むに決まっているでしょ! 白夜さまの名を出されてすぐに思いだせなかった私も悪いけど、普段は白竜さまと呼び拝んでいるから解らなかったのよ! 

 でも、白亜ちゃんの好物が果実だと解った私には、今後嫌われる事はないと言っても過言ではないわ! これからは白亜ちゃんの好きな果実の香りがする香水やドライフルーツを作ってご機嫌を窺うわ!」 


「何だよそれ……心配して損したな……」


 そう言いながらビワを口に含むと、水気のある甘味と酸味が広がる。


「損したとは何よ! 私だってワイバーンに襲われていたから助けたのに……」


「それはありがとうございます。命の恩人です」


 テーブルに頭を擦りつける様に下げるクロを見て満足げな笑みを浮かべるビスチェ。白亜も剥いていたグレープフルーツを置いて頭を下げると慌てるビスチェ。


「は、白亜ちゃんはいいのよ! 白亜ちゃんは世界の宝! 守るのは当然ね! クロはついでよ! ついで!」


「キュー?」


 顔を上げる白亜は頭を傾げるとグレープフルーツの皮むきを再開し、綺麗に剥き終わるとひとつを指で摘まみクロへと向ける。


「キュウキュウ」


「あはは、守ってくれたお礼だってさ」


「そりゃ、ありがとなって、何でビスチェが食べるんだよ!」


「そりゃ、お礼だからでしょ! 私が助けました!」


 立ち上がり胸を張るビスチェだったが、白亜からグレープフルーツを皮を投げ付けられ顔で受けると、眉が九十度急上昇し眉間には深い皺が現れる。


「は、白亜ちゃんは白夜さまのお子様……白亜ちゃんは世界の宝……白亜ちゃんはいわば神……」


 冷静さを保とうと呟くビスチェだったが、堪えていない態度に二度目のグレープフルーツを皮が飛び今度は果汁も付いていたのか、ノー防御で受けたビスチェの瞳に入り悲鳴に近い叫び声を上げる。


「ウギャァァァァァ!? このクソチビがっ! 目はなしよ! 目を狙うのは最後の手段よ! クソがっ!?」


 床を転がり目を擦りながら果汁の激痛に涙するビスチェ。白亜はダメージが通った事に納得したのかクロへと剥いたグレープフルーツを渡そうとする。


「この高級素材がっ!」


 ゆらりと立ち上がった赤い目をするビスチェの言葉にガクガクと震える白亜。先ほどのエルフェリーンの言葉もあってか自身の事を素材として見てくるビスチェに慌ててクロの後ろへと隠れ、クロもシールドを発動させる。


「落ち着け! ひとまず落ち着け! お前が横取りしたのが悪い……はず……」


「キューキュー」


 シールドを前に落ち着くように促すクロと抗議の声を上げる白亜。


「あら、二度目は何かしら? それに果汁を染み込ませた皮を投げるのは反則だと思うの……」


 そう言いながらビスチェの両手で握り潰されるグレープフルーツ。


「話し合おう。本当にそれはシャレにならないから話し合おう」


「キューキュー」


「話し合い……そうね……話合って解決できるのは素晴らしい事だわ……そんな時期はとうに過ぎたけどねっ!」


 シールドを前に走り出すビスチェにクロは後ろへと下がるが、足に抱きついていた白亜に足を取られ腰から後ろに倒れ、その隙を見逃すはずもなくビスチェはシールドを避けながら中へとまわり込み、ゼロ距離で右の拳がクロの腹部を捉え撃沈し、クロの足に潰されていた白亜と目が合うと悲鳴を上げるが、頭へと左の拳が振り下ろされ流れ落ちる果汁。


 この日、幼いドラゴンは何があっても怒らせてはならない存在がいると知るのだった。





 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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