商船の収容と釣り
「グルルルルルルルルルルルルル」
(何これ! 絡まった! 何これ! 人が浮いてる!? 何これ! 鼻痛い!)
水面から顔を上げたのは首から上を青い鱗に覆われ、白い角とエラを持ち、巨大な口か耳まで裂け、鋭い瞳からは涙が零れ落ち、やや鼻水の垂れる鼻には釣り針が刺さり……
「か、海竜にゃぁーーーーーーーーーーーーーーーーー」
船長のニャロンブースが大きく仰け反った事で手に持つ釣り竿が引かれ、更に大きく叫びを上げる海竜。
(痛い! 鼻! 痛い! 鼻! 痛い! 鼻!)
「えっと、船長! 落ち着いて下さい。釣り針が鼻に刺さっています。手をゆっくり緩めて下さい」
「にゃ!? 本当にゃ! すぐに放すから命だけは助けて欲しいのにゃ!」
以外にも冷静なクロの言葉に張り詰めた糸を緩める船長のニャロンブース。アイリーンが糸使い近づき≪今から針を抜きますね~≫と声を掛けると(お願い! 痛い! 鼻血! 助けて!)と頭に響く単語たち。
「釣り針が取れたら回復もな」
隣で焦る人がいると不思議と冷静になれるのか……そんな事を考えながらアイリーンに指示を出すクロ。
≪それこそ任せて下さいね! エクスヒール!≫
(光、温かい、痛い!? グリグリ!? やめて!!! 温かい……取れた? 取れた!!)
アイリーンの手に釣り針が見えホッとするクロと船長のニャロンブース。アイリーンは回復魔法を掛け続け強引に鼻から釣り針を引き抜いたのだ。
「にゃ~ごめんにゃのにゃ~お願いだから食べにゃいで欲しいのにゃ~」
弱々しい声で謝罪する船長のニャロンブースに海竜は頭を傾げる。
(待って、人化、お礼)
念話が届き次の瞬間には光に覆われる海竜だったが、ドボンと水飛沫をあげ下に落ちる少女。
「えへへへ~助かったよ~今そっちに行くからね~」
水面から顔を出した少女は手を振り水飛沫を上げてイルカのジャンプのように飛び上がるとクロのシールドに着地をする海竜少女。青く透き通った髪は美しく、瞳はマリンブルーの輝きを放ち、鼻を摩りながら笑顔を見せる少女の頭には白く鋭い二本の角が確認できる。
「ごめんにゃのにゃ~」
深く頭を下げる船長のニャロンブースに少女は手を振りながら「いいよ、いいよ~それよりも回復魔法をありがとう!」と明るくお礼を口にしてアイリーンを見つめる。
≪いえいえ、困った時はお互い様ですから~それよりも海竜さんと呼べばいいですか?≫
「ん? 私はこの辺りの海を縄張りにしている海竜のバルリーン! 気軽にバルリンと呼んでよ~鼻の穴に針が入った時は死ぬほど痛かったけど……あれあれ? 腕の古傷まで治ってるよ~白い子の回復魔法のお陰かな? ありがとう!」
アイリーンを見上げキラキラとした青い瞳を向けるバブリーン。アイリーンは魔糸で文字を生成し≪いえいえ~≫と浮かべると興味深げにそれを見つめる。
「空間に糸? で固定されたね……凄いよ! さっきから浮いているけど糸を空間に引っ掛けているのだね! 凄い魔術師だよ! 黒髪の君も大きな船をアイテムボックスへ収納しているのだろ? それにシールドを足場にして浮いているのも簡単にできる芸当じゃないね~うんうん、この二人は逸材だね~って! そうじゃない! 面白い二人に会えて忘れそうになったけどエルファーレはいるかな?」
二人から視線を外して声を荒げたバブリーンは島を見つめ、あんぐりを口を上げ固まる。
「エルファーレさまは師匠と話をしていると思いますけど……」
「おいおい……何だいあれ……島と島が……繋がって……あの津波はやっぱりエルファーレのババアがやったのかよ……」
固まりながらも声を漏らすバブリーンは拳を握り締めフルフルと怒りのボルテージをあげているのか、体から陽炎のように立ち昇る魔力。
≪あれは確かに凄かったですね……私も言われてから気が付きましたが、島と島の間の海底に干渉して魔力で強引に隆起させたそうですよ……≫
「そ、そんな事をするから私が徹夜で波を消す作業をする羽目になったのだ! 今日はその調査と文句を言いに来たんだ! やるなら事前に相談してくれれば対応も簡単にできたのに……むぐぐぐぐ、あのババアは思い付きで行動するから、」
「あの、すみませんでした!」
拳を握り締めるバブリーンの言葉を遮り頭を下げ声に出すクロ。その様子にバブリーンはクロへと視線を向けながら頭を傾ける。
「ん? あれはエルファーレが悪いんだろ?」
「いえ、それには深い事情があって……」
クロが昨日の事を詳しく説明すると、頭をポリポリと掻きながら話を聞き複雑な表情をするバブリーン。
「なるほど……君の魔力過多に対してサキュバス二人を使い魔力を吸い上げ、エルファーレのババアがその魔力を使って島の海底に干渉したのか……それにしても君自身が錬金釜の役割を果たすとは面白い事もあるものだね……」
「はい……師匠も驚いていました。ですので、悪いのは自分かと……」
「元を質せば確かに君かもしれないけどさ、島の海底を持ち上げたのはエルファーレのババアだ………………けど、話を聞く限り不可抗力だったのは理解できたよ……はぁ……何だかもう怒るのも馬鹿々々しくなっちゃったな……はぁ……」
シールドに腰を下ろし横になるバブリーンはそのまま昼寝でもしそうなテンションである。
「すみませんでした……」
「ああ、それはもういいから収納を続けてくれ……ふわぁぁぁ~」
船体を収納し続けながら話をしていた事もありすべて収納し終えると、クロはアイテムボックスを確かめ問題がない事を確認するとシールドを動かし島へと進める。
「シールドを自由に動かせるのか……面白いね~ふわぁ~」
横になりながら目を擦るバブリーン。アイリーンは糸を使い先に進み、船長のニャロンブースはクロの肩に手を置きバランスを取りながら釣れた魚を入れた魚籠が落ちない様気を付ける。
五分ほどで島に戻って来たクロはニャロンブースが魚籠を持って降りるのを確認すると、寝息を立てはじめたバブリーンを抱え島に降り立つ。
置いては行けないよな……それにしてもあんなに大きかったのに人化すると軽いのは不思議だよな……異世界には質量保存の法則とかはないのかね……
抱っこして足を進め広場に戻ると広場ではエルフェリーンとエルファーレにアイリーンが話をしており、どうやらバブリーンが来たことを伝えているようでクロが広場に到着すると二人は立ち上がりクロの元へ足を進め、シャロンやビスチェも後に続きクロの元へと足を進め、更には第二王女ルスティールと副船長の男も加わり走るようにクロの元へと向かう。
「クロさま! 商船を収納して頂きありがとうございます!」
「あれだけの大きさの船が個人のアイテムボックスに収納できるとは驚いたぞ」
声を掛けて来る二人に申し訳なさそうに「しぃ~」と人差し指を自身の唇に当てるクロ。抱っこしているバブリーンを起こしたくはないのだろう。
「そうですね。配慮が足りませんでした」
「すまん……」
二人も起こすのは無粋だと思ったのか軽く謝罪の言葉を口にし、今度はエルファーレが口を開く。
「寝ているバブバブは可愛いね~起きていると煩いけど寝ていると可愛いね~」
「この子が海竜なのか~立派な白い角だぜ~錬金素材としても優秀で多くの薬に使えるんだぜ~」
「昨日は津波を鎮めるのに多くの体力を使ったそうですので寝かせてあげましょう。自分が原因で津波を沈めて下さったようですから、どこか静かな所へ運ばせて下さい」
「津波……はっ!? もしかして海底を無理やり引き上げたから……」
「そう仰られていました。エルファーレさまやバブリーンさまに迷惑を掛けてすみませんでした」
「いいよ、いいよ~結果として島が繋がったし、バブバブが津波を何とかしてくれたのなら被害もないだろうしさ。私としては島の行き来がしやすくなって便利で嬉しいよ~」
「そう言って頂けると助かります。では、寝かせてきますね」
褐色エルフの一人が案内し、近くのベンチに布を敷きバブリーンをそっとベッドに横たわらせるのであった。
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