ご機嫌のビスチェと商船の収納
「おっいし~~~~~い! 何だいこれは! フワフワとしながらもまわりはサクッとして、バターとハチミツのハーモニーが最高だよ! こっちのチョコと白いのをかけたものは最強だよ! 甘さの中に苦みとコクがあって、それでいて甘くて香り高い! カカワトルに似ているけど雲泥の差だね!」
二種類のパンケーキを口にして叫ぶエルファーレの姿にクロは微笑み、料理を手伝う褐色のエルフたちはハイタッチで嬉しさを表現する。
「でしょ! 私がパンケーキにしてとクロにお願いしたの! パンケーキはバターの香りに蜂蜜の甘さがあって元気が出るわ! ほら、あなた達も食べて見るといいわ!」
笑顔でパンケーキを進めるビスチェ。褐色エルフたちも一口頬張ると表情を蕩けさせる。
「うまっ!?」
「何これ~何これ~何これ~」
「クロの料理には驚いてばかりだけど、今日のは凄い! 勝手にライバル心を抱いた昨日の自分を殴りたい!」
支給をする褐色エルフたちにもパンケーキを配るビスチェ。いつもならドヤ顔で腰に手を当て仁王立ちをするが、今日は笑顔でパンケーキを勧める。
「ビスチェさんが元気になって良かったです」
「昨晩までは元気がなさそうでしたものね」
シャロンとメルフェルンが焼き上がったパンケーキを口にしながらクロへと微笑み、昨晩の事を思い出す。
一緒に色々と話したからか、今はもうスッキリとしたかな。昨晩は罪悪感に潰されそうになっていたからな……いつも肩に乗せている風の精霊もご機嫌だし、好きなパンケーキが食べられ普及できて嬉しいのかもな……
≪おやおや、何かあったのですか?≫
口に手を当て下世話な瞳を向けて来るアイリーンに、クロは菩薩の様な表情を浮かべる。
「元気が出て良かったよ~ビスチェの元気がないようならサキュバス帝国に行く日を遅らせる所だったぜ~」
「それでは今日、向かって頂けるのですか?」
頬に生クリームとチョコを付けた第二王女ルスティールが表情を明るくさせ、船長のニャロンブースも立ち上がり叫ぶ。
「にゃにゃにゃ! それは助かるのにゃ! 予定よりも早く到着できるのにゃ!」
「そしたら朝食の後に船をアイテムボックスに収納しますから、付き添いをお願いしますね」
「もちろんにゃ! ですがにゃ、体調は大丈夫にゃのかにゃ?」
「はい、もう大丈夫です。二日も寝たから元気ですよ」
首を傾げ聞いてくる船長のニャロンブースにクロが答えると船員たちも立ち上がり歓声を上げる。
「本当に大丈夫なのですか? 無理はしてないですか?」
シャロンは食事の手を止めクロを凝視し、隣に座るメルフェルンも眉間に皺を寄せ見つめる。
「クロは丈夫なのだ! いっぱい寝て元気になったのだ! あむあむ」
「キュウキュウ~」
パンケーキを大きな口で食べ鼻の頭にクリームを付けるキャロットに、エルファーレとエルフェリーンが笑い声を上げ何とも楽しげな朝食の風景にビスチェも笑顔を咲かせる。
「ササッと行って明日にはダンジョン探索よ!」
「そうだぜ~海のダンジョンは色々と貴重な薬草や海藻が採れるぜ~」
「ああ、その前にシャロンとメルフェルンさんは同行しますか?」
クロの言葉に第二王女ルスティールは両手を合わせ口を開く。
「サキュバスのお二人に案内して案内して頂けるのなら交渉もスムーズに行くかもしれませんね! お願いできませんか?」
狐耳をピコピコと動かす第二王女ルスティールにシャロンはクロへと視線を向け頷き、メルフェルンはシャロンを見てからクロへと視線を向け頷く。
「まぁ! それは何と頼もしい! 何かしらの報酬を考えなくてはですね!」
「転移で運んでもらえるだけでも破格にゃのに、感謝しますにゃ」
「いえ、僕もサキュバニア帝国と獣王国が同盟を結べば砂糖の輸入などが入りますし、道中にあるオークの国にもその恩恵が渡れば復興の役に立つと思います」
「先の戦争は残念でしたが……そうですね。少しでも復興の力になるべくこちらでも何か考えたいと思います」
「はい、そうして頂ければ母さん肩の荷も少しは降りると思います」
先の戦争で多くの兵や男を失ったオークの国はサキュバニア帝国や聖王国などからの支援を受けており、イナゴ騒動などもありまだまだ復興中である。獣王国は多くの種族が住みオーク自体も多く、人的支援や技術協力などを持ち掛ければ参加を表明してくれるだろう。
「母さん? シャロンさまのお母さまはオークの国へ復興支援を?」
「ええっと、はい……」
「シャロンさまはサキュバニア帝国の第一王子であらせられます! インキュバスとして生を享け………………今は女性の姿をしておりますが、本来なら私が女でシャロンさまは男です! シャロンさまは『草原の若葉』の皆様の所へ修行中の身で在らせられます!」
メルフェルンが説明しシャロンが薄っすら頬を染める。
「そ、それは失礼を……ですが、とても頼もしく思えます。何卒、宜しくお願い致します」
「はい、口添えというほどの影響力はありませんが、城へ取り次ぐことはできると思いますので……」
互いに頭を下げ合う二人にエルフェリーンがクロへ開いた皿を渡して口を開く。
「ほらほら、折角のパンケーキが冷めてしまうぜ~頭を下げ合ってないで食べないと損しちゃうぜ~」
「そうなのだ! おかわりが無くなるのだ! あむあむ」
「私もおかわりするわ! 蜂蜜たっぷりでお願いね!」
「おう、食べ過ぎて動けなくなるなよ」
笑顔のビスチェに新たなパンケーキを渡すクロは、連呼されるおかわりの声の対応に追われるのであった。
「凄いのにゃ~ゆっくりだけど入って行くのにゃ~」
「この分だと一時間は掛かりそうですね。これだけ海が綺麗だと釣りとかしたら大物が狙えそうですね」
クロと船長のニャロンブースは商船に向かい、クロのシールドの上に乗り船をアイテムボックスへと収納していた。船首からゆっくりと収納される商船を見つめ驚いていた船長のニャロンブースだったが、五分もすると飽きてシールドに座り足をプラプラさせながら海面を眺める。
「にゃ~風が気持ちいいのにゃ~海が綺麗だから魚がチラホラ見えるのにゃ~釣り道具を持ってくれば良かったのにゃ~」
≪それなら私が持っている物を貸しましょうか?≫
魔糸製の文字が現れ、頭上ではアイリーンがおり手には二本の竹製の竿が握られている。
「それは嬉しいのにゃ! 大きな魚を釣ってお昼に丸焼きにゃ~」
「餌は昨日の残りの切り身を使うか? ああ、でも今は出せないか……」
アイテムボックスのスキルで収納中な事もあり収納した物を出せないクロ。
≪問題ありません! 餌は既にエルファーレさんから分けて貰っていますよ≫
アイテムボックスから竹の筒を二本取り出したアイリーンはゆっくりと糸を伸ばし降下すると船長のニャロンブースに手渡す。
「にゃにゃ!? 小さにゃエビがいっぱいにゃ!」
≪それを餌にすると入れ食いだそうですよ。釣った魚はこれに入れて下さい≫
ヤシの木をくり抜いた魚籠をシールドの上に置くアイリーンは釣り針にエビを付け糸を垂らす。船長のニャロンブースも同じように糸を垂らすと十秒もしないうちに引きがあり、十五センチほどのカラフルなアジに似た魚が釣れ喜ぶ二人。
「やったにゃ! 釣れたのにゃ!」
≪私もですよ~どんどん釣り上げてクロ先輩にアジフライを作ってもらいましょう!≫
「アジフニャイ? それはにゃんにゃのにゃ?」
≪アジフライは魚を開いて油で揚げたフライのお姫様です! タルタルソースをかければ何枚でも食べられるフライの王様です!≫
「おいおい、料理を性転換させるなよ……美味しいのは認めるが、って、凄い引いているぞ!」
船長のニャロンブースの竿がしなり大物を予感させ必死に竿を立てる。が、バキリと音が響きひびが入り危機感を覚え「にゃーーーーーーー!?」と叫び、それと同時に下から吹き上がる水飛沫。
「グルルルルルルルルルルルルル」
水飛沫と共に上がってきたものに顔を引き攣らせるクロと船長のニャロンブース。アイリーンは素早く糸を飛ばし、動けないクロも新たなシールドを前面に発生させるのだった。
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