筆記用具と魔力過多
ビスチェや褐色エルフがカレーと米を炊き上げる裏で、クロは商人たちにカレールーを売り捌いていた。
「おおおお、これで母国に帰ってもこの味が再現できる!」
「これがたった銅貨二枚とは……」
「クロ殿! 感謝しますぞ!」
「お湯で溶くだけでもそれなりに美味しいと思いますよ。入れ過ぎたり少なかったりすると、トロミがつかなかったり固まったりしますから匙加減を覚えて下さい。パンに付けても美味しいですよ。作り方は裏面に図解してありますが、今作っているのでメモを取って覚えるといいですかね?」
手を動かし大量のカレーを作るビスチェや褐色エルフたちに視線を送ると頷いてくれ、商人たちは素早くインクを用意し羽ペンで板に書き込んでゆく。
「なるほど、肉を炒め野菜を炒め、煮込むのだな」
「よかったらこれを使いますか?」
そう言いながらアイテムボックスから取り出したのは鉛筆とメモ用紙である。
「ムムム……これは何とも上質な紙……」
「この黒い部分がインク? おお、スムーズに書けるぞ!!」
「しかし、文字が太くなるな……」
「そういう時はナイフで先を削って頂ければ、ほら好きな太さに変わりますよ」
火起こしの魔剣を取り出しナイフ代わりに鉛筆を削るクロ。多少不格好ではあるが鉛筆の先が尖り驚く商人たち。
「クロ殿! それを売って頂けないだろうか?」
声を掛けたのは獣王国の文官の者で、インクを使わずに素早く書ける事にその価値を見出して声を掛けたのである。
「鉛筆とメモ用紙ですか? 別に構いませんが……う~ん……」
急に黙り込み顎に手を当て考えこむクロ。
「あの、何か不都合でも?」
「いえ、そうじゃなくて、鉛筆の値段とか覚えてないし、ノートは二百円ぐらいだっけ?」
悩みながらアイリーンに向け視線を飛ばすが先ほどまでの場所にアイリーンはおらず、視界を探すと広場の端で白い塊ができておりいつの間にか子供のフェンリルに囲まれ毛だまりを作り上げている。
「値段を聞こうと思ったがあれじゃあな……う~ん、合わせて銅貨四枚でどうですか?」
「金貨ではなく銅貨ですか?」
「はい、銅貨四枚。そうだ! これもおまけで付けますよ!」
そう言いながら魔力創造で小学校の時に使っていた携帯型の小さな鉛筆削りを創造し、試しに新品を削って見せるクロ。
「おおおおお、削れている! 削れていますよ!」
「鉛筆削りですから……」
テンションを上げる文官とは違い冷静に答えるクロに、文官も冷静さを取り戻し口を開く。
「可能な限り多く売って頂きたいのですが……」
そう交渉しながら腰を低くし手を揉む姿に、異世界でもお願いする時はそういう姿勢になるのかと思うクロ。
「他に欲しい方がいますか?」
バッと音を揃えて手を上げる商人たちともう一人の文官。褐色エルフも話を聞いていたのか料理をしながら手を上げる。
「それなら一人十セットぐらいで大丈夫ですか?」
口にしながら魔力創造で新品の鉛筆を創造するクロ。
そのひと箱を渡すと文官は声を上げる。
「あのっ! 十二本入っているのですが……」
「ああ、鉛筆は何故かダースという単位で売られているんですよね。輸入品の名残だと思うのですが……それと鉛筆は衝撃に弱く落とすと中の芯が割れて、削っても削っても芯がポロポロと落ちる事がありますから落としたりしないようにして下さい」
「芯……この中心の黒い部分ですね……」
「それがインク代わりです。芯の作り方が解れば誰かに広めて欲しいですけど……」
「それでしたらその大役を獣王国にお任せ下さい! 必ず再現して見せましょう!」
ずっと様子を窺っていた第二王女ルスティールは胸を張り宣言すると、文官たちがテンションを上げ喜び商人たちも新たな貿易品が増える事に目を光らせる。
「それにこの上質な紙も素晴らしいです! これらの紙も再現できたら……」
大量に魔力創造されたノートを見つめる第二王女ルスティール。この時、創造魔法で作り出したノートは某有名文具メーカーの物で表紙には大きく蝶が印刷されており、後に獣王国で売り出される時には蝶白紙とトンボペンと呼ばれる事となる。
「カレーができたわよ! みんなを呼んでって、クロの顔色が酷いことになっているわ!」
「ん? おお、少し調子に乗って魔力創造し過ぎたかも……今、ポーションを飲むからさ」
カレーライスの第三弾が完成し声を上げたビスチェだが、クロの顔色が悪い事に気が付き眉間に皺を寄せるとクロよりも素早く魔力回復ポーションを取り出し開封すると口に突っ込む。
「うぐっう!?」
「ほら、早く飲みなさい! あんたがどうなろうと知らないけど、魔力の使い過ぎで死ぬのは馬鹿がやる事よ!」
腕を組み目線を強めるビスチェにクロは飲みながら頭を軽く下げる。
「ダメだよ! クロ!」
声を荒げるエルフェリーンにクロは驚きながらも最後の一滴まで飲み干すとくろのからだが輝き始める。
それは魔法や魔術やスキルなどで起こる現象であり、魔力反応という魔力に魔力が反応して起こる現象である。これは回復魔法や浄化魔法や身体強化などに起こる現象で錬金術の基礎となったものであり、今のクロの体にはソーマと呼ばれる神の酒とビスチェが飲ませた上級の魔力回復ポーションが体内で錬成された状態である。
結果、今のクロは錬金釜として体内でソーマと上級魔力回復ポーションが組み合わさった状態になり、魔力反応が強く表れ白熱電球のように輝いている。
「これは魔力過多になっているよ! 早く魔力を消化しないとクロの体が爆発しちゃう!」
エルファーレが叫び慌てて逃げ出す商人や文官たち。褐色エルフはすぐにシールドを張り巡らせ、何事かと集まるアイリーンやシャロンにメルフェルン。
「クロ! 急いで何か大量に魔力創造するんだ!」
エルフェリーンが叫び声を上げ、クロは習慣になっている日本酒とウイスキーに白ワインを大量に魔力創造で作り出す。が、輝きは衰える所かさらに光を増し、視認するのもやっとな状態へと変わり始める。
「エルファーレは何か案はあるかい?」
「体内で増える魔力は魔法や魔術にスキルとして放出する方が安全だ。無理魔力を引き抜くにはドレインや吸血といった吸収魔法がいるけど……並みの吸血鬼じゃ吸った傍から爆発しちゃうね……」
「あの、ドレインなら僕が使えます!」
「今の話を聞いていただろ。あの魔力をドレインで吸い取っても……ん? シャロンとメルフェルンはサキュバスだよね……それなら……」
ニヤリと表情を変化させ口角を上げるエルファーレ。
「何かアイディアがあるのかい!?」
「ふふふ、ああ、今思いついた、とびっきりの方法があるよ」
エルフェリーンに笑顔を向けるエルファーレは、アイテムボックスから竹で作られ先には新緑のクリスタルが埋まる杖を取り出す。
「二人は魔力吸収はできるよね?」
「はい! ですが、僕は女性が苦手で吸うよりも出す方が得意で……」
「シャロンさまは女性恐怖症ですから、ドレインの練習で相手を吹き飛ばした事もありますが大丈夫なのですか?」
「それは好都合だよ! メルフェルンがクロから魔力を吸い取り、メルフェルンを経由してシャロンが魔力を私に送ればいい。吸う係と吐き出す係を作り魔力を流し私に送ればその魔力を私が消化しようじゃないか!」
「しかし、シャロンさまは女性恐怖症! 私と手を繋ぐのは……それにエルファーレさまとも手を繋ぐことに……それなら私一人の方が!」
「こんな非常時に無理させるのは忍びないけど、早くしないとクロが大変な事になる! サキュバスは魔力を糧に生きる存在だからね。一人よりも二人の方が魔力を一度に多く送ることが出来る! はずだ!」
自信満々に語るエルファーレは杖を掲げ、エルフェリーンはよろめくクロを支えようと本来の姿である大人のハイエルフへと変わりクロを支える。
「シャロン! お願い! クロを助けて!」
魔力回復ポーションを飲ませ震えていたビスチェは知らなかったとはいえ、自身が飲ませた事によりクロが爆発するかもしれないという事実に震えていたがシャロンにしか頼めない事だと知ると声を上げる。
「はい! 僕にできる事なら。メルフェルンもいいかい?」
「はっ! 命に代えてもクロさまをお救い致しましょう」
二人のサキュバスは光を放ち輝くクロへと視線を向けるのだった。
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