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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第八章 南国のハイエルフ
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カレーの大行列



「ご飯が炊けました!」


「炊けたら火から下ろして蒸らしてくれ!」


「こっちのカレーもルーが混ざりました!」


「味見をして大丈夫そうなら火から下ろしてくれ!」


「白亜さまが早く食べたいと言っているのだ!」


「商船の人たちが先だからな~昨晩からずっと逃げて疲れているらしいから、白亜もわかるよな~」


「キュウキュウ~」


 褐色のエルフたちに指示を出しながらカレーを作る。その数、七十品前。それに加え鳥料理担当の褐色エルフたちと『草原の若葉』たち。合計で百人前近くのカレーライスを用意するクロ。


「アイリーンとビスチェでカレーを盛ってくれ!」


≪任せて下さい!≫


「私が米を担当するわね!」


 二人は動き出し皿を持った船長のニャロンブースに第二王女ルスティールが先頭に並び皿を渡すと、艶々に炊けたライスをビスチェが盛りアイリーンがカレーを注ぎ入れる。


「これがカレーというものですか……茶色いですね……」


「内臓の煮込みのようにゃ料理にゃのにゃ~」


 二人が受け取り席に戻るとシャロンがカップに入れられたスプーンを勧め受け取る二人。カレーを求める長い列には商船に乗っていた者たちが並び次々にカレーを受け取ると席に付く。


「では、あむ……」


「感謝するのにゃ~」


 二人が食べ始めると席に付いた者たちからカレーを口にする。その様子を視線の隅に入れながらクロは肉と野菜を炒めながら追加のカレーを作り続ける。


「これは……とても香りが素晴らしいです! 煮込まれているお肉も柔らかくツブツブの実とよく合いますね!」


「スパイスがふんだんに使われているのにゃ……これ一杯でどれほどの価格ににゃるか考えるだけで恐ろしいのにゃ……あむあむ……」


「このような料理が世界にはあるとは……入れられている香辛料で複雑な味わいを作り出している……合わせている白いツブツブの不思議な食感もカレーとよく合うな……」


「カレーといいましたか……これは癖にある味ですな。使われているスパイスがまるで解らん……味が複雑すぎて……あむあむ……スプーンが止まらなくなるぞ!」


「甘みの中に辛みがあり次々に口に入れたくなりますな!」


「はっ!? もう食べ終わってしまった……」


 カレーライスは好評なようで五分もしないうちに食べ終わり、スプーンで綺麗にカレーをすくい取る騎士アーレイは絶望したような表情へ変わる。


「おかわりもありますから皿を持って並んで下さい」


 クロが叫ぶと真っ先に立ち上がる騎士アーレイ。船長のニャロンブースも立ち上がり騎士アーレイの後ろに付きカレーライスのおかわりへと走る。行列もなくなり始めた所へ騎士アーレイが到着し「大盛で頼む!」と声を上げると船員や商人たちのスプーンが一気に加速する。


 誰もが思ったのだろう。急がなければおかわりが無くなると……


 そこからは戦場のような忙しさへと変わりカレーのおかわりを用意するアイリーンとビスチェに加え、シャロンとメルフェルンが新たに完成したカレーとライスを配り始め列が分散するが、三度目のおかわりをする騎士アーレイの姿に咳払いをする第二王女ルスティール。しかし、その咳払いもカレーで咽たのだろうと特に気に留めない騎士アーレイ。


「キャロットそろそろ並んでもいいからな~師匠たちと一緒にカレーを食べて昼食にしてくれ」


「任せるのだ!」


「キュウキュウ!」


 二ヵ所のカレーエリアになった事で列がスムーズに進み涎を流しながら待っていたキャロットと白亜は尻尾を振りながら列の最後尾に付け、エルフェリーンとエルファーレも列に並ぶ。


「カレーは美味しいぜ~甘くて少しだけ辛くてスプーンが止まらなくなるぜ~」


「それは楽しみだね! クロの料理はどれも画期的で美味しいのは解ったけどこの強烈で複雑な香りに私のお腹はさっきから悲鳴を上げていたよ!」


 カレーを作り続けるクロは耳に入るおかわりをお願いする声とその評価に作るスピードを上げて行く。褐色のエルフたちも一度作れば作り方をマスターしカレーを手際よく作り米を炊上げてゆく。


「もう入らにゃいのにゃ~満腹にゃのにゃ~」


「うっぷ……美味しいので食べ過ぎて……うぷっ……」


「確かにこれは気を付けないと食べ過ぎてしまいますね……」


 船長のニャロンブースと騎士アーレイはカレーライス五杯を平らげ腹を摩り、第二王女ルスティールも二杯のカレーを完食し普段よりも多く食べている事実に気を引き締める。


「カレーは美味しいのだ!」


「キュウキュウ~」


「これこれ、この甘さと辛さだよ~」


「うんうん、これは美味しいね! こんなにも複雑な味と香りは初めてだよ~これの作り方も教えて欲しいな!」


 エルファーレの言葉に一斉に顔を向ける商人と商船のコック長。初めて食べるカレーという複雑で香り高い料理の作り方をカレールーなしで再現する事は不可能といっていいだろう。そのレシピが解るかもしれないと思えば香味を引くのは必須である。


≪フェンリルちゃんたちのご飯も用意して上げたいですね~≫


 そんな中、アイリーンから飛んできた文字にお座りをして待つフェンリル親子へと視線を向けるクロ。念話を飛ばすことなくお座りをして待つ姿にこっそりと魔力創造で缶詰のドックフードを用意する。


「アイリーンと誰か代わってくれ!」


 クロが声を上げると褐色のエルフのひとりが動きカレー係を変わり、アイリーンを手招きして缶詰のドックフードを渡すと、パッと表情を明るくして木製の皿へと移し替える。


≪クロ先輩は流石ですね!≫


「文字はいいから涎で溺れる前に届けてやってくれ」


≪はい!≫


 嬉しそうに走るアイリーンが向かうとフェンリル親子は尻尾がシンクロし、(不思議肉! 感謝!)と念話が響くと微笑みながらドックフードを入れた皿を前に置く。


≪よく噛んで食べて下さいね~≫


「キャンキャン!」


 嬉しそうに鳴き声を上げると一心不乱に齧り付き尻尾を揺らすフェンリル親子。


「先ほど頭に響いたのは、もしかして……」


「念話にゃのにゃ?」


「私の頭にも不思議肉と感謝という文字が響き……声とも違う不思議な感じがしましたが……うぷっ……」


「あれはフェンリルのリーダーからの念話だよ。フェンリルは知能が高く一部の者は念話で他種族と意思の疎通ができるからね。念話を飛ばして群れで狩りをする事だってできるんだ」


 第二王女ルスティールたちが頭に流れた念話に驚いていると、エルファーレがドヤ顔をしながらフェンリルについて解説する。


「獣王国にも念話を使用できる神獣がおりますが、お会いできるのは一部の巫女だけなので驚きました」


「それって金獅子かな?」


「何故それを!?」


「やっぱり金獅子かぁ~懐かしいなぁ~震えながらドランの尻尾に噛みついて来た時はどうしようかと思ったけど、念話で語りかけたらすんなり話してくれてさ。骨付き肉を上げたら尻尾を振って喜んでいたよ~仲良くなったからちゃんとした念話の使い方を教えたら、肉が食いたいと口煩く送って来るようになったね~金のように美しい毛並みはモフモフとしていて撫でるとグルグル鳴いて喜ぶんだぜ~獣王国近くの山にいたけど、今も祭られているのだね」


「はい……金獅子さまは獣王国の守り神として……神殿に………………流石、ハイエルフさまです……」


 顔を引き攣らせながら口にする第二王女ルスティールにエルフェリーンは「そっか~今も生きているのなら今度会いに行っても楽しいね~」と笑顔で口にし、最後の一口を食べ終える。


「おかわりなのだ!」


「キュウキュウ!」


 キャロットと白亜の声が響き行列の解消したカレーエリアへと走り、給仕をしていた褐色エルフやビスチェたちも自身のカレーを盛るのだった。







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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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