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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第八章 南国のハイエルフ
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意識を失う騎士とエルフェリーンの提案



 クロが動き始めると褐色のエルフが手伝いを申し出一緒に料理を進めてゆく。


 アイテムボックスから出したテーブルにまな板を置くと褐色エルフが野菜をカットし、クロはギガアリゲーターの肉を一口大にカットしたものを炒め始める。


「肉の焼ける香りがするのだ!」


「キュウキュウ~」


 嬉しそうに声を上げるキャロットと白亜に、騎士アーレイは微笑みを浮かべ第二王女ルスティールも微笑みながら口を開く。


「可愛らしい小竜ですね」


「そうなのだ! 白亜さまは可愛いのだ!」


「この子は白亜といって、七大竜王の白夜の娘だよ。それだけいえば解ると思うけど変なちょっかいを掛けて怒らせないでくれよ~」


「七大竜王………………」


 エルフェリーンの説明に絶句する騎士アーレイに商人たち。第二王女ルスティールはその名を呟いて目を開けたまま固まる。


「誘拐したり虐めたりしなければ大丈夫だよ~ここにいるフェンリルたちも変に刺激したりしなければ噛みついたりしないからね~」


 エルファーレの言葉にグギギと首を動かし視線を向ける一同。開けば場所を取り囲むようにフェンリルが姿を現している事に気が付いた第二王女ルスティールが顔を引き攣らせる。


「七大竜王のお子様にフェンリルとは……助けられたのに生きた心地がしにゃいのにゃ……」


 船長であるニャロンブースの言葉に頷く商人や役人の獣人たち。


「あら、それなら撫でてみるといいわ。私も撫でさせてもらったけどサラサラで撫で心地は良かったわよ」


「少し長い白い毛は指を滑るようでしたね」


 ビスチェとシャロンの言葉を受けた騎士アーレイは目を輝かせる。


「私も撫でて構わないだろうか!」


「それは構わないけど優しく撫でてくれよ」


 パッと表情を明るくし立ち上がる騎士アーレイはアイリーンが抱く幼いフェンリルの元へと走り、警戒する母親フェンリルは尻尾を立てるがアイリーンが優しく頭を撫でると尻尾を横へ揺らす。


「わ、私も撫でさせてもらえないだろうか……」


「キャン!」


 アイリーンに抱かれている幼いフェンリルに話し掛けると尻尾を振りながら元気よく答え、アイリーンの腕から飛び出し慌てて受け止める騎士アーレイ。


「こ、これは……何と愛らしく……危険だ……うぐっ」


 受け止めた幼いフェンリルを抱き締めながらゆっくりと膝を付く騎士アーレイ。その表情は恍惚としたもので優しく抱き上げ頬を舐められる女騎士はあっさりと幼いフェンリルに敗北する。


「まったく近衛騎士としてだらしない姿を……はぁ……」


 そう言いながらため息を吐く第二王女ルスティールは先ほどの青かった表情が嘘のように明るく変わり、敗北した騎士アーレイも無駄死にではないのだろう。他の商人や役人たちもその様子を眺め、恐怖よりも幼いフェンリルの可愛らしさや女騎士が敗北する姿に笑い声を上げる。


「それじゃあ話の続きだけど、今日はゆっくりと休んで明日の午後にでもサキュバニア帝国に送っていくよ」


 エルフェリーンの言葉に船長であるニャロンブースは眉に深い皺を作る。


「それはどういう意味でしょうかにゃ?」


「僕が転移魔法でサキュバニア帝国に送るぜ~」


 転移魔法という単語に目を見開く役人の獣人。商人たちも伝説の中に登場する転移魔法という単語に目を細める。


「そ、それはどういう……」


「僕はこれでも世界に七人しかいないハイエルフの一人だからね~横にいるのは同じくハイエルフのエルファーレだ。僕が姉で妹がエルファーレだからね~」


「なっ!? 卑怯だぞ! 私の方お姉ちゃんに見えるし、包容力があるからね~どう考えても私の方が姉だよ!」


 言い争う姉妹にあんぐりと口を開け固まる第二王女ルスティールと船長のニャロンブース。サキュバニア帝国と国交を結ぶべく教育を受けている第二王女ルスティールと、この度の重要な航海を任されている船長は要注意人物のハイエルフの事を耳にしていたのだろう。顔を引き攣らせ立ち上がると「宜しくお願いしますにゃ!」と声を上げ、第二王女ルスティールは姿勢を正してカーテシーをしながら深く頭を下げる。


「うん、任せてくれよ~あの船もアイテムボックスに入れて持ち帰るから安心してくれていいぜ~」


「はっ!?」


「えっ!?」


「まさかっ!?」


 船長に第二王女に商人たちから驚きの声が上がり、なぜか腕を組みドヤ顔をするビスチェ。


「クロに任せれば多分入ると思うぜ~僕の弟子は優秀だからね~」


「クロさんなら確かに可能かもしれませんね……あの大量の魔鉄を運んでいましたし……」


「そ、それは本当にゃのにゃ!? それにゃらサキュバニア帝国で修理が可能ににゃるのにゃ! やったにゃ!」


「うおおおおおおおお、俺たちの船が復活するぞ!」


「俺は副船長たちに知らせてきます!」


「し、信じられませんわ……あれほどの大きさの船をアイテムボックスへと収める事ができるなんて……」


「信じられないかもしれませんが、クロさんは凄い人ですから安心して下さい」


「は、はい……伝説のハイエルフさまのお弟子さんでしたら、それも可能なのかもしれないですね……」


 シャロンの言葉に納得をした第二王女ルスティールの表情は晴れやかなものとなり、安心感からかお腹の虫が鳴き頬を染める。


 そんな弟子は自身への評価など気にしていないのか炒めた肉と野菜を合わせると水お入れ煮込み始め、大きな鍋を大量に用意し米を炊いて行く。


「最初はやや強火で、沸騰したら弱火に変えてじっくり待って下さい。蓋から溢れるようなら石で重しにしてできるだけ密閉するようにして下さい」


 クロの指示に褐色エルフたちは興味深げに頷き米を炊き火力を調整する。クロも大きな鍋を複数用意して肉と野菜を煮込み野菜が柔らかくなったところで火力を落とし市販のカレールーをアイテムボックスから取り出し入れ、混ぜながら隠し味となるケチャップとオイスターソースを少量入れて混ぜ続ける。


「何やら良い香りがしますね」


「カレーなのだ!」


「キュウキュウ~」


 第二王女が鼻をスンスンと動かし金色の尻尾を揺らし、キャロットと白亜が叫び嬉しそうに席を立つとクロの元へと向かう。


「はっ!? 私はいったい……」


 カレーの香りで正気を取り戻した騎士アーレイは顔を左右に動かし何があったのかを理解しようとするが、アイリーンが抱き締めている幼いフェンリルが視界に入ると、その身を落雷にでもあったかのように頭の先から足の先へと身を震わせる。


「な、何だ……この感覚は……これは……恋!」


≪違うと思いますよ~この子に舐められて気を失っていましたから≫


「なっ!? 私がこんな幼い小動物に気を失う訳がないだろう! だが、可愛らしいな……」


「キャンキャン!」


 またもやアイリーンの腕から逃れ騎士アーレイに飛びつく幼いフェンリル。それを慌てて抱き受けると頬をペロペロと舐め、またもや表情を溶かしガクリと崩れ落ちる騎士アーレイ。


≪この子は小悪魔の才能があるかもしれませんね~≫


 崩れ落ちた騎士アーレイから幼いフェンリルを抱き上げるアイリーンの文字が浮かび、それを苦笑いしながら見つめる第二王女ルスティールは倒れた近衛騎士よりも鼻に届く香りに興味があるのか視線を移す。


「もう少しでできるからな~白亜もキャロットも涎が入りそうだから少し下がろうな~」


「キュウキュウ!」


「わかったのだ!」


 元気に返事をする一人と一匹の姿に微笑みを浮かべる第二王女ルスティールと船長のニャロンブース。特にニャロンブースは妻と幼い子供たちを残して航海に出ており、子供たちを思い出して薄っすらと涙を浮かべ、商人や役人たちにもそういった者は多く微笑みながらも涙を浮かべる。


「これはまた変わった料理だな。昨日の甘酢料理もそうだがクロ殿は本当に多くの料理が得意なのだな」


 そう声を掛けて来る鳥料理担当の褐色エルフは捌いたギーウィの肉や野菜を届けに来たのか、後ろにも多くの褐色エルフが現れカレーの香りに鼻をスンスンと動かす。


「皆さんも食べて行きますか?」


「可能ならそうしたいが……これは商船の者たち分だろう……」


「カレーの材料は今持って来て頂いたものでも作れますから、あとは確りと蓋ができる大きな鍋が必要なぐらいで」


「それなら大丈夫だ。マジックボックスに入れてあるぞ」


 ギーウィの肉をテーブルに置くと大きな鍋を複数取り出しニッカリと笑う鳥料理担当の褐色エルフに、クロは米を研ぎ新たなカレーを作り始めるのだった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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