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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第八章 南国のハイエルフ
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助かった商船の者たち



 遠浅な海岸の続くため商船は錨を下ろし小舟で島へと上陸する乗客たち。その殆どは商人や役人で中には獣王国第二王女もおり、用意された仮設の広場で丁寧に頭を下げる。


「この度は救って頂きありがとうございます。私は獣王国第二王女のルスティール・フォン・キュービラと申します。以後お見知りおきを……」


 深く頭を下げる女王に軽く手を上げるエルフェリーンとエルファーレ。ビスチェとキャロットに褐色エルフたちは軽く会釈し、アイリーンとシャロンにメルフェルンは丁寧に頭を下げる。


「私はアーレイ・ルーグ。第二王女殿下の騎士である」


 やや丸みのある耳と細い尻尾を持つ上等な皮鎧を着た獣人の女性騎士が自己紹介と頭を軽く下げ席に付き、ルスティール王女が口を開く。


「あの、サキュバス族の方々ですか? 我々はサキュバニア帝国へ行く所だったのですがこちらの島国との交流があるのですか?」


 シャロンとメルフェルンへ瞳を向けるルスティール王女。アーレイ・ルーグと名乗った騎士も瞳を向け、船長であるケットシーも気になっていたのか尻尾を揺らし興味深げに二人へと視線を移す。


「えっと……」


「二人は僕の弟子だぜ~サキュバニア帝国の、」


「飲み物を持ってきましたが、どうかしましたか?」


 クロがよく冷やしたオレンジジュースを褐色エルフたちと配り始め会話が途切れ、アーレイがジュースの味見をして表情を緩ませ、他の者たちもそのリアクションに口を付け始める。


「おお、これは濃くて美味い!」


「それに冷たいわ! このようなおもてなしを受けるとは思いませんでしたわ」


「僕的にはお酒を振舞いたいけど船の修理もあるのだろう?」


 同席する商人たちや第二王女に船員たちがジュースを口にして表情を和らげる中、船長のケットシーは深く頭を下げる。


「そうにゃのにゃ~オークの国から上陸してサキュバニア帝国を目指すのにゃ~ただ、炎の魔法が着弾した後部の破損が心配にゃ~亀裂が入っている所もあるのにゃ……いっそ国に戻れたら……」


 眉間に皺を寄せた船長の言葉に騎士アーレイが立ち上がり声を荒げる。


「それは困るぞ! この度の航海はサキュバニア帝国との重要な交渉を任されているのだ! 必ず交渉し国へ吉報を持ち帰らねば!」


「アーレイ! ニャロンブース船長の判断は絶対です! 幽霊船との戦闘で船体に致命傷を受けていればこれから先の航海で沈む可能性だってあるのですよ……」


「も、申し訳ありません……ですが、サキュバニア帝国との友好条約が結ぶことが出来れば……」


「そうですね……ふぅ、幽霊船に襲われたのは予想外でしたが生きているのです。生きてさえいれば次があります」


≪航海で後悔したくないですよね~≫


 アイリーンの文字がクロへと飛び苦笑いを浮かべ文字を握り潰し四散する文字。


「船の修理は無理なのかい?」


「ここはヤシの木と竹が多いから好きに使って構わないけど」


 エルフェリーンとエルファーレからの発言にニャロンブース船長が神妙な表情で口を開く。


「亀裂は深いのにゃ……それを取り換えるとにゃると同じようにゃマホガニーを使わないと一体感がでにゃいのにゃ~最悪は修繕した場所から崩れ沈むのにゃ。応急処置で渡るにはこの先の海は危険にゃのにゃ……」


「この先の海は海流同士がぶつかるからね~いくつもの船が沈み、ここへ流れつく船も少なくはないが、生きて辿り着いた幸運な者も二百年ぶりだからね~」


 エルファーレの言葉に顔を青ざめる第二王女と騎士に商人たち。


「酷い時はアンデットに変わり果てた姿で辿り着きますから、厄介なものです……」


「積み荷も腐り、只々迷惑を掛ける船が多いですね……」


 褐色エルフたちが愚痴を漏らし下手したら自分たちが同じようにアンデットへと変わっていたと思い自身の体を強く抱き締め震える第二王女ルスティール。


「他の航路はないのですか?」


「サキュバニア帝国は北の海に面していますが、あちらはこちらよりも危険で海竜が多く船を出すのは自殺行為です。砂漠を越える方法もありますがそちらも危険でして……こちらの海路の方が遥かに安全なのです……」


 クロの質問に丁寧に答える第二王女ルスティールは狐耳をペタンと伏せ悲しげな表情をする。


「くぅ~ん」


 そんな沈んだ空気の中、更に悲しそうな声で鳴いたのは遠くで母親フェンリルに咥えられている幼いフェンリルである。エルファーレから「大事な話があるから近づいてはダメだよ」と言われ母親フェンリルに咥えられ広場を後にしたのだ。


≪私が相手をしてきますね~≫


 文字だけを残し歩き去るアイリーン。それを目で追う騎士アーレイ。幼いフェンリルに興味があるのか視線を向け多少だらしない表情へと変わる。


「おっほん! そういう訳でヤシや竹といった木材ではこの先には進めないのですね?」


「そうにゃるのにゃ……色々と用意し獣王国の威信をかけた航海にゃのに申し訳にゃいのにゃ~」


「いえ、威信で皆様の命を無駄にすることはありません……それよりも、サキュバスの方々はこの地へは船で来られたのですか? それとも泳いで?」


 褐色エルフに混じりオレンジジュースを飲むシャロンとメルフェルンへ視線を向けた第二王女ルスティールは不思議そうに首を傾げながら聞き、シャロンはクロへ助けと視線を送り、メルフェルンはメイド服を着ている事もあり席に付いてはいないが微笑みを浮かべ笑って誤魔化す。


「ああ、えっと……俺たちは師匠の魔術でここに来たんだよ。フェンリルの子供の病気の治療と、海のダンジョンと呼ばれる場所での薬草採取だな。助けたのも海のダンジョンへ行く途中で偶然目に入って……飛ばされたからな……」


 ビスチェへと視線を送るといい笑顔を浮かべる。


「私がクロを飛ばしたから助かったのよ! 感謝するといいわ! アレが最善策だし、アンデットにはクロが一番よ!」


 自信満々にドヤ顔で口にするビスチェに第二王女ルスティールは頭を下げ、船長は助けられた時に高速で火球へと体当たりをした存在がクロだったのかと認識し、深く頭を下げる。


「クロ殿が火球から助けてくれたのにゃ~本当に助かったのにゃ~感謝するのにゃ~部下と姫さま方を助けて頂き感謝するのにゃ~」


 何度も頭を下げる船長のニャロンブースにクロは「いえいえ」と答えながらも目の前に下げられたヒゲの生えたおじさんの頭に付く猫耳に違和感を覚えていた。

 ケットシーという種族は猫耳に猫尻尾をしており、それは赤ちゃんから老人まで平等である。目の前で頭を下げるヒゲ付きのおじさんもまた猫耳に語尾を「にゃ~」と付け、日本生まれのクロからしたら中年男性が猫耳を付け「感謝するのにゃ~」と真面目に言ってきたら日本人なら誰もが違和感を持つだろう。


「それでも感謝にゃのにゃ! 助けられた時に見た魔法は不思議な魔法だったのにゃ~」


「女神さまの肖像画のような魔法でした!」


「あれは神が降臨なされたかと思ったぞ!」


「アンデットが光の粒子へ変わる様は聖属性の魔法なのだろうが、初めて見たな!」


 商人や王女に褐色のエルフたちから女神シールドに対する感想が口々に上がり、これ以上はむず痒くなるなと思ったクロは話題を逸らすために口を開く。


「そういえば、お腹が空きませんか?」


 クロの言葉にぐるるるると胃が動き出す音が響き顔を赤くする騎士アーレイ。


「なら、何か作りましょうか」と提案したクロは素早く立ち上がり、ヤシの木を切り倒し広場を広げている褐色エルフたちとは反対の方へ足を向け、BBQ用のコンロを用意するのであった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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