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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第二章 預かりモノと復讐者
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クロと白



「さて、一度戻るか?」


「キューキュー」


 腕に納まる白亜に声をかけると実をつける木々に腕を向け、まだまだ食べ足りないと話しているようで、クロは足元に白亜を離すと青いグレープフルーツをもぎ取り地面へと置き収穫作業を再開する。


「痛っ!? 脛を叩くとはどういう事だ! 痛たた」


 しゃがみ込み脛を摩ると目の前の白亜は下からしゃくり上げるようにギラギラとした瞳を向け、グレープフルーツを剥けと立ち上がり両手に持ってクロの頬へとグリグリと押しつける。


「お前なぁ……ビスチェだって自分で剥くんだからな……はぁ……」


 白亜から受け取るとナイフを取り出し切れ目を入れる所を目の前で見せる。


「いいか、こうやって縦に切り込みを入れると簡単に剥けるからな。今度からはお前の立派な爪でやるんだぞ」


「キューキュー」


 切り込みを入れたグレープフルーツを渡すと嬉しそうに鳴き声を上げ、小さな指をねじ込んで皮を剥こうとする姿にほのぼのしながら見取れていると、鋭い爪が白い薄皮を貫通し果汁が飛び出し白亜の大きな瞳を捉えると、目を押さえその場でゴロゴロと転がり情けない叫びを上げる。


「ははは、柑橘系の果汁は目潰しの効果が異世界でもあるのだよ。水を出すからな」


 アイテムボックスから桶と陶器製の水差しを取り出すと水を注ぎ白亜の前に置く。


「キュウ……」


 弱々しい声で桶に顔を突っ込んで目を洗う白亜の姿に笑い出すクロだったが、タオルを取り出し濡れた顔から上半身を拭いてやると「キュキュキュ」と甘えた声を出す白亜。


「今度からはもっと気を付けないとな」


「キュウ……」


「何事も練習だからな。指の腹を使って固い皮を剥がす様にするんだな」


 途中まで剥いたグレープフルーツはアイテムボックスに入れ、新しいグレープフルーツを白亜に持たせるクロ。


「キュ!」


 クロから受け取り改めてグレープフルーツとの再戦に気合を入れ慎重に指を入れる白亜。


「そうそう、切り込みを入れてから慎重に指を入れて爪に気をつけて皮を剥がす……よし、そうだ! 慎重に、慎重に、手が小さいから手の平を使って皮を剥がす……」


「キュウキュウ」


 白亜からの言葉は通じないが集中してグレープフルーツの皮を剥く姿を素直に応援するクロ。


「キューーーー」


 皮を綺麗に剥き取ると勝利の雄叫びを上げる白亜に、クロは頭を優しく撫で「よくやった!」と一緒に抱き合って喜びを分かち合う。


「やればできるな! 白亜は頑張れるいい子だな!」


「キュー」


 二人で抱き合いクロが褒めていると聞き慣れない高音の叫び声が耳に入り、反射的に上空を見上げると巨大な影が頭上を駆け抜け慌ててシールドを頭上と四方に張るクロ。白亜はガタガタと震え、その振動がクロにも伝わり「任せろ! 必ず守るからな!」と声に出す。


「この辺りにも魔物避けの強力な結界を張ってくれたらいいのになっ!」


 果樹が密集するこの辺りでは受粉の関係もあり魔物避けの結界は控えめな効果しかなく、時折頭上を飛び回る魔物が空からやって来る事があるのだ。


 気合を入れシールドの強度を上げるクロ。頭上には翼を広げ鋭い脚の爪で襲いかかろうとしているワイバーンの姿があり、白亜から手を離すと両手を上げてシールド魔法に専念するクロ。落下した白亜はクロの足にしがみ付きガタガタと震える。


「ここは俺が引き付けているから逃げられるか?」


 ピッケルの様な爪がシールドを引っ掻く力に負けないよう魔力を強めるクロは足元で震える白亜に声をかけ下を見るが、顔を横に振る白亜。


「参ったな……シールドに魔力を使い過ぎてるからな。攻撃手段が……」


 魔法にはそのものが出せる限界出力というものがあり、クロで言えばシールドなら十枚ほどを一度に出す事ができる。が、今は十枚のシールドを重ねて使っている様なもので攻撃に使える魔力がほぼなく、それに加え身体強化を使っている事もあり限界が近づいていた。


「キューキューキュー」


 クロの窮地に白亜は大きな叫びを上げ、その叫びはまるで先ほど別れた母である白夜を呼んでいるかのようであった。


「やばっ、ヒビが入った……」


 クロのシールドにヒビが入り所々には亀裂が入り、ワイバーンからは更に体重を掛けた鋭い爪が襲い来る。


「風よ! あのワイバーンの首を刎ねなさい!」


 聞きなれた力ある声が果樹の間を抜けると頭上からプテラノドンに似たワイバーンの首が落ち、シールドには赤い雨が降り注ぐと力尽きたワイバーンはシールドを滑る様に後ろに倒れ地面を揺らした。


「た、助かった……」


「キュウ……」


 クロが地面に腰を降ろし、同じ様に白亜も尻餅をつくと、一人と一匹は生き残った実感を得ながら顔を見合わせる。


「キュウ……」


 尻餅をついていた白亜はクロへと抱きつき甘える様に鳩尾みぞおちへ頭を擦り付け、染みに痛いクロだったが両手で抱き上げると「助かったな」と笑いながら声を掛け、「キュー」と大声で叫ぶ白亜だったが、クロが気を抜いた事もありシールドが解除され降り注ぐ赤い雨。


「クロ! 遅い!」


 ビスチェが目を吊り上げ辺りを警戒しながら向かって来る姿に苦笑いを浮かべ、


「ワイバーンの血が……これは落ちないかも……」


 降り掛かったワイバーンの血液にげんなりと肩を落とすクロ。


 白亜は自身の体に付いた大量の血に驚くもそれも一瞬で、両手に付いた血が面白いらしくまるで初めてクレヨンを貰った子供の様に、其処彼処にペタペタと自身の手形を量産し、グレープフルーツに手形を押してまわる。


「何でシールドを解除してるのよ……怪我はない?」


「ああ、助かった……」


「そう……見た目は手遅れだけどね。それよりあのドラゴンぽいのは?」


「確かに手遅れだけど……あれは白亜だ。師匠に預けると白夜さんから預かった」


「白夜? 誰それ?」


「解らん! でも師匠の知り合いだろ。娘を預けるって言ってたし、ドでかいドラゴンだった……」


 頭を傾げたビスチェはドでかいドラゴンという単語に反応し目を見開く。


「それって古龍と呼ばれる七大竜王……」


「七つ集めると願いが叶いそうだな」


「馬鹿ね! 世界が滅ぶわよ……それよりも七大竜王の娘?」


 白亜を指差すビスチェに頷くクロと「キュ!」と声を上げて胸を張る白亜。


「はぁ……クロはワイバーンを片付けたらお風呂ね。白亜ちゃんは私が洗って上げるわ」


 そう言いながら白亜を抱き上げようと近づくと、逃げる様にクロの後ろに隠れる白亜。


「えっ、逃げられた……」


「残念だったな。白亜は俺が洗ってやるからな」


「キュー」


 クロに抱き上げられ嬉しそうに叫ぶ白亜にショックを受けたビスチェは肩を落とし先に屋敷へと戻り、それを見送るクロと白亜。


「何だあいつ……ショック受けてそうだけど……」


「キューウ?」


 クロと同じように首を傾げる白亜はお互い血まみれで赤く染まる姿に、クロが笑い出し白亜も笑い出す。


「あれを入れたら一緒にお風呂だからな」


「キュー」


 一人と一匹はワイバーンをアイテムボックスへ保管すると屋敷へと急ぐのだった。





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 お読み頂きありがとうございます。


 

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