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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第八章 南国のハイエルフ
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幽霊船



 横を向き咆哮を上げる獅子の影に二本の斧が踊る紋章旗が燃え上がる船上。


 ケタケタと笑い声を上げ、槍を振り下ろすスケルトン。


 声にならない悍ましく暗い叫びにより燃え上がる火球が放たれ船尾に広がる炎。


「にゃんでこんにゃ事ににゃったのにゃ! チィッ!」


 この商戦の船長であるケットシーは船員たちと手を合わせてダガーを振るいスケルトンを屠る。が、バラバラになったスケルトンはすぐに重力に逆らうように元へと戻り槍を握る。


「船長! こいつらは海に落とした方が早そうだ!」


「にゃっ! それなら一気に魔法で落とすのにゃ!」


 船員の中にも魔法が使える者がいるのか杖を掲げて詠唱へ入り、それを守り盾になり戦う船員たち。


「後方から火球が二つ!」


「にゃっっっ!? 家事を左に切るのにゃ!」


「ダメだ! 間に合わない!」


 幽霊船に追われる商船に二つの火球が降り注ぎ船上は火の海へと変わり、魔法を使おうとしていた船員を守って炎に巻かれた船員は本能的に海に飛び込む。


「水を撒くのにゃ! げほっ! 船を守るのにゃ!」


 船長の言葉に貴重な真水の入った樽を割り焦げ始めた甲板を守る船員たち。その服は焦げ所々に火傷の跡があるが、ここで船を沈められれば死ぬのと同義であり自分たちの家であるこの船を守るべくできる事をしようと動き出す。

 幸運にも槍を持ったスケルトンは先ほどの火球により海へと落ち、一体残ったスケルトンは船員が撒いた水で足を滑らせ手すりの間に頭が挟まり身動きが取れないでいた。


「チャンスにゃ! 今のうちに距離を取るのにゃ!」


「後方から火球が二つ! ちくしょうっ! これじゃ持たないぞ!」


 チャンスかと思われたが燃える帆を見上げる者と後ろから迫る火球を見つめる者に分かれ、誰もが絶望の二文字が頭に浮かぶ。


 その時だった。


 迫る火球に体当たりする存在を目にし、直後に爆炎を上げ商船は難を逃れる。


「にゃ、にゃにがあったのにゃ……」


 呆気に取られる船長と船員たち。


 次の瞬間には温かな光が降り注ぎ火傷や切り傷が嘘のように癒え始めたのだ。


「奇跡にゃのにゃ……」


 黒煙が風に流され、後ろから追って来る幽霊船では魔術士のスケルトンが杖を構え火球がまた二つ浮き上がるが巨大なシールドだと思われる半透明なドームに覆われ、それを制御しているだろう黒髪の男が目に入る。


「一瞬にして結界を張っただと……」


 幽霊船と商船の間に不自然に立つ黒髪の男の背を見つめた船長は大声で指示を出す。


「燃える帆の消化を急ぐのにゃ! 誰だか知らにゃいがこのチャンスを絶対に生かすのにゃ!」


「おおおおおおおおおおおおおおお!」


 船員たちの声が響き燻るマストを登り始めると海に落下した船員たちが不自然に宙に現れ、ゆっくりと降下し甲板へと下ろされる。


「にゃにが起こっているのにゃ! あれだけの火だるまににゃったのに傷が癒えているのにゃ……にゃっ!? にゃ~の火傷も……」


 今更ながら自身の傷が癒えている事に気が付いた船長は辺りを見渡しひとつの発見をする。白い髪の少女だと思われる存在が空高くに浮いているのだ。


「にゃんにゃのにゃ……」


「船長! 呆けてないで退いてくれ! 帆を下ろすぞ!」


 慌てて船長がその場を離れると半分燃えている帆が取り外され下へと落ち、慌てて火を消そうと水へと走るがキラキラとした光が燃えている帆を撫でると火は消え、瞬きを繰り返す船長。


「予備に変えるぞ! 下から運び出せ!」


「おおおおおおおおおおお」


 副船長が叫び船員たちが動き帆を付け替えていると巨大な淡い光が視界に飛び込む。それは女神ベステルが描かれた肖像画なのか遠くに見える半透明のそれに船員たちも目を奪われ、船内から運び出した予備の帆を運ぶことも忘れ立ち尽くす。


「崩壊してゆくのにゃ……幽霊船が崩壊してゆくのにゃ……」


 巨大な女神の肖像画が幽霊船へと降下して行き、触れた場所から光の粒子へと変わり崩壊して行く様子に誰もが立ち尽くす。逃げ隠れて乗客たちも戦闘音がなくなり甲板へと姿を見せ、その様子を目にしながら口々に「奇跡だ……」「女神ベステルさま……」と手を合わせて祈りを捧げる。


「姫! まだ外は危険です!」


「外から聞こえる声に耳を傾けなさい。もう安全なようですよ。それに今はお忍びですのでその呼び方は控えて下さい」


 「はっ!」


 狐耳をしたひとりの少女が甲板へと現れ消えゆく幽霊船を見つめ膝を付き手を合わせ、お付きの物だろう騎士も同じ姿勢になり手を合わせ頭を下げる。


「このような奇跡を目にできるとは……」


 小さく呟く声が風にかき消され、甲板には二人の幼女とエルフが降り立ち、更に降り立ったドラゴニュートの女性は濡れる甲板に足を滑らせ抱いていた白い小竜と共に盛大にすっ転ぶのであった。






≪クロ先輩はアンデットに対して無敵ですね!≫


 空から降りて来たアイリーンが文字を浮かべクロの横に立つ。立つといってもクロが乗っているシールドには乗らず自身で出した魔糸を空間に固定しぶら下がっている。


「女神シールドが効いて良かったよ……はぁ……怖かったな……」


 完全に幽霊船が消えた事を確認するとクロは向き直りこちらを拝む人たちに苦笑いを浮かべながらも、手のひらサイズの女神シールドを作り海で藻掻くスケルトンの戦士に向け飛ばす。


≪おお、上手いものですね。ばっちりストライクですよ~≫


「アイリーンにも似たようなことが出来るだろうに……はぁ……あと一体手すりに嵌っているが、おお、師匠が倒したな」


 天魔の杖を掲げたエルフェリーンの聖魔法により崩壊するスケルトンを遠目に見ながらシールドを出して空中を歩くクロ。アイリーンも魔糸を出して空間に固定しながら進み商戦へと舞い降りると多くの歓声に包み込まれる。


「この度は幽霊船から我が商船を守っていただき感謝するのにゃ」


 猫耳をピクピクと動かし頭を下げる船長だと思われるケットシーの男にアイリーンとクロも頭を下げ、エルフェリーンとビスチェはうんうんと頷きながら満足気に微笑む。


≪濡れていて危ないので甲板を浄化しますね~浄化の光よ~≫


 頭を上げた船長が目の前に浮かぶ文字に驚いていると浄化の光が降り注ぎ濡れていた甲板が瞬時に乾き、数日間お風呂に入れずにいた者たちからも汚れが浄化される。


「神の光だ!」


「一瞬にして床が渇き、汚れが消えたぞ!」


「見て見て、この服なんて新品みたいに綺麗になったわ!」


 浄化の光が治まると更に歓声を強める乗客と船員たちに、ビスチェは更にドヤ顔を浮かべる。


「ほらほら、僕たちの事よりも船の安全確認はしたのかい? 後方は酷く燃えていたようだけど怪我した者がいれば名乗り出てくれ。アイリーンが癒してくれるぜ~」


「それなら私も協力しよう! ケットシーの商船は前にもここに寄ったからね~あの時は砂糖を分けて貰えたし、珍しい地図や服を物々交換したからね~」


「にゃにゃ!? それは本当ですかにゃ!? 交流があるのにゃら、にゃ~たちとも交流を持ってほしいのにゃ! 途中で休める所があればより安全な航路になるのにゃ!」


 船長が顔を上げ、副船長は船員と共に後方へと船の確認に走る。


「定期的に来てくれると嬉しいけど、前に来てくれたのは二百年も前の事だからね~」


「そ、そんにゃに前の事……ですが、交流を持っていただけるのにゃら必要な物を取り揃えるのにゃ!」


 凛々しい表情をする船長に微笑みを浮かべたエルファーレは「それならお願いするよ~」と声にするのだった。







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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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