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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第八章 南国のハイエルフ
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生食の危険性とダンジョンへの道



 準備を整えた一行は数頭のフェンリルと褐色のエルフを数名連れ、近くにあるというダンジョンを目指す。


「ここいらの島は遠浅で引き潮の時は歩いて渡れるんだ。今日はもう水が引き始めているから歩いて渡れるね~」


 エルファーレの後に続き海岸へたどり着いた一行が目にしたのは海水の引いた場所であり、所々に竹の檻の様なものが設置され手に銛を持った褐色のエルフたちが貝や逃げ遅れた魚などを獲っている。


「ああやって竹の檻を作っておくと魚が獲れるんだぜ~海水が引いた所で生け捕りにして島の内部に作ってある養殖池に種類ごとに分けて、いつでも食べられるようにしているんだ」


「昨日、頂いたガジラという魚もそうなのですか?」


「あれは特別に大きいから養殖は無理だよ~船で出て水精霊の声を聴き釣り上げるんだ。大きな魚だから特別に作った糸と針を使って釣るんだけど、すぐ暴れて危険だからね~後は水魔法を使って海流を操って魚を浅瀬に誘導する方法もあるけど、アレは疲れるんだ」


「何かに干渉する魔法はどれも魔力を多く使うからね~僕も硬化石を地中から見つけ引き上げるのに魔力を多く使って疲れたぜ~あの時もクロが抱っこで家に連れ帰ってくれたからね~」


 自慢げに話すエルフェリーンにエルファーレは左手で横を歩くフェンリルの背を撫でながら歩みを進める。


「クロ! 多くのイカが獲れたぞ!」


「干して持って行くからな!」


 漁をする褐色エルフたちから大声をかけられ手を振るクロにアイリーンが文字を飛ばす。


≪干さずにイカそうめんやイカリングにイカ飯で食べたいですね~≫


「イカそうめん? イカリング? イカめし?」


 浮かぶ文字に食いついたのはビスチェであり口に出すと、他の物たちも頭を傾ける。


「イカを使った料理名かな?」


「そうですね。イカそうめんはイカを細長く切って麺料理のように食べるお刺身です。イカリングはイカのフライで、イカ飯は内臓を取り除いたイカに炊く前の米を詰めて煮て作る料理ですね」


「イカそうめん以外は美味しそうだね……魚もイカも生で食べるのは危険だよ……」


 エルファーレが眉に深い皺を作りながら口にし、褐色エルフたちもそうだそうだとあたまを縦に振る。


「えっと、自分の故郷ではイカも魚も生で食べる習慣があって、寄生虫だけを殺す方法もあるのですがそれでも食中毒になる事はありましたね」


≪アニサキスですよね~お腹や腸に食いついてすごく痛いとか……≫


「そうだな。それでも生食をやめないのはそれだけ美味しいという事かもしれませんね」


 クロとアイリーンの言葉に眉を顰めていたエルファーレは、笑顔で話を聞くエルフェリーンに視線を向ける。


「クロはああ言ってるけど……本当に美味しいものなのかい?」


「ふっふっふ、僕は生の魚もイカも食べたぜ~クロの特別なスキルを使った方法で生み出した寿司と呼ばれる料理……あれは料理の最終地点かもしれないぜ~あれは本当に美味しかったし、神々が神託を下し奉納させるほどだ。天界では多くの神たちがだらしない顔で寿司と日本酒を食したほどだよ」


「神たちがだって!? 料理の神ソルティーラもかい?」


「ああ、嬉しそうに食べていたぜ~他の神たちも長い列を作り寿司を希望していたね~神が人にお礼を言い料理を受け取る姿は、どっちが神か解らないよね~まあ、それだけ生魚を料理した寿司が美味かったという事だね」


 エルフェリーンが足を止めドヤ顔で語り、エルファーレは視線をクロへと変えると「私も食べたい!」と声を上げ、褐色エルフたちからもキラキラとした瞳を向けられる。


「えっと、それは構いませんが魔力が持つかな……天界ではウィキールさまとフウリンさまが魔力を補助して頂き大量に魔力創造で作り出しましたが、こっちだと魔力回復役を飲んだとしても……ああ、いけるかも! アレがあったな……」


 アイテムボックスのスキルを使い一本の一升瓶を取り出すクロ。それに視線が集まりエルファーレは目を見開く。


「ソーマ……ソーマだよ!? 伝説とされる神が作りし酒だよ!? どうしてこんな物を持っているの!!!」


 叫ぶエルファーレにクロは一歩引きながら「えっと、お礼?」と口にする。


「どうだい! これで生魚の美味しさが理解できたかい? 神が人にソーマを送ってでも食べたくなる料理なんだぜ~その価値があるという事さ!」


 エルフェリーンがドヤ顔で説明するがそれは曲解し過ぎじゃあと思うクロ。しかし、自慢されたエルファーレは悔しいのか歯を食いしばりながら「ぐぐぐ」と籠った唸りを上げる。


「母さんたちが言うのなら確かにそうかもしれないね……ぐぐぐ……ん? それじゃあクロは安全に魚を生で食べる方法を知っているのかい? 前に少し聞いた気もするけど教えてくれよ! 私が出せる報酬なら何でも出すから教えてくれよ!」


「うわっ!?」


 抱き着き声を荒げるエルファーレにクロは驚くが、魔力創造で一冊の本を創造し手渡す。


「ん? これは……凄い! こんなに綺麗な本は初めて見るよ! 文字が理解できないけど魚の捌き方や肉の処理方法が描かれているね……ふむふむ……絵だけでも理解できそうだね!」


「これは魚や肉の捌き方や保存方法などが書かれている書物です。後で魚の生食方法の所を翻訳しますので詳しくはそれを見て下さい」


 熱心にページを捲るエルファーレにクロの言葉が耳に入っているか微妙だが、アニサキスによる被害や他の寄生虫の情報や生食の危険性に、その解決法などが図解で書かれており理解さえできれば安全に生食する事が可能になるだろう。


「あくまでも自分の故郷の魚や肉の食仕方ですので、この地にいる魚に適用されるか解りませんが……」


「それでも助かるぞ! こちらでもその情報を鵜呑みにはせず実験し確かめるから安心しろ」


「それよりもクロの作る寿司というものに興味がある! 可能なら今度御馳走してくれ!」


「俺の飛び切りの真珠をお礼に送るぞ!」


 この地の褐色のエルフたちは金銭を使い貿易をすることがあまりなく、あったとしても物々交換が基本であり真珠や魔石に毛皮といった物を差し出して商人と交渉している。エルフの一人が言ったように真珠はこの地で多く獲れるが、大粒の物は婚約時に送られ女性を美しくする宝石としての価値が高い。


「お礼とかは気にしなくてもいいよ。それよりもアレってここの船か? 煙を上げているが……」


 海岸から遠く見える帆船からは黒煙が上がり、後ろをもう一台の帆船が追い掛けているのか目に魔力を集中させ強化するクロ。


「何あれ……げっ!? 幽霊船!」


 ビスチェが真っ先に声を上げクロの視界にも武器を持ったスケルトンや炎の魔術を使うスケルトンが目に入りエルフェリーンへと声を掛ける。


「師匠!」


「うん、助けに行くよ! あれは獣王国の商業船だからお礼に砂糖をいっぱい貰おうね!」


「獣王国……」


 メルフェルンが表情を曇らせ呟くがその声を拾う者はおらず、ビスチェは精霊に声を掛ける。


「クロをあの幽霊船に飛ばして!」

 

「おいっ!? ちょっと、待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇ」


 風の精霊に背中を押されたクロは叫び声を上げなら幽霊船へと一直線に吹き飛ばされるのであった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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