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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第八章 南国のハイエルフ
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日本人の魂



 目が覚めたクロが体を起こしながら昨晩の事を思い出す。


 どちらの派閥も甘酢によって一時的にだが対立という形式から新たに甘酢に合う食材を求めるようになり、クロの知っている甘酢料理を散々作り多くの褐色エルフはその味の虜となった。なったのだが、どれも同じ味でエルフェリーンとエルファーレは早々にその味に飽き、二人は食事を終え飲み直すと言って神殿へと戻ったのだ。他の『草原の若葉』たちもお腹がいっぱいになると神殿へと戻りクロだけが甘酢料理を作り続け褐色エルフたちと親交を深める事となり、父親フェンリルに連れられ神殿へと戻る事には空には月が浮かび、案内された一室では仲間たちがすでに寝息を立てていた。


「一生分の甘酢餡かけ料理を作った気がするな……」


 立ち上がり簡単なベッドメイクを済ませたクロは窓に向け足を進め、そこから見える景色に感嘆の声を漏らす。


「おお、絶景だな……」


 窓からは朝靄の中輝くオレンジの光と波の音に南国リゾート感を強く感じ、テレビで特集されるような絶景が広がっている。


「あっちにいた時は殆ど旅行なんてしなかったし、景色に興味とかなかったな……」


 しみじみと昇る太陽を見つめるクロ。


 同室で寝息を立てているシャロンと一升瓶を抱いて寝るメルフェルンに気を使い、静かに廊下に出ながら伸びをすると朝食を作るべく階段を降りる。


 神殿の一階は母親フェンリルと幼いフェンリルたちが寝ており起きている数匹が顔を上げるが、クロだと気が付くと多少の警戒はしているのか真直ぐに瞳を向けるが襲い掛かって来るような事はせずクロが去るまで瞳を向けたまま送り出され、昨日宴会した場所まで戻ると数名の褐色エルフが既に朝食を作り始めていた。


「クロ! 早いな!」


「クロ! 昨日は美味かった!」


「クロ! 新しい料理の可能性を感謝するぞ!」


 声を掛けられたクロは皆に手を上げ、昨日好意的に接してくれた鳥料理担当の男へ声を掛ける。


「この場所の一角を借りてもいいですか?」


「ん? そりゃ構わないが何か作るのか?」


「師匠たちの朝食の準備をしようかと思いまして」


「それなら俺たちが作る心算だったが……そうだな……クロが作りたいのなら構わないぞ。今日は活きのいい魚と貝が多くあるが使わないか?」


 竹で編まれたカゴをアイテムボックスのスキルを使い取り出すと、そこには下処理のされたアジやカワハギに似た魚や色とりどりの貝が顔を覗かせている。


「俺たちはこれを塩焼きとかまぼこにして甘酢料理にするが、クロならどう料理する?」


 鳥料理担当なのに魚も料理するのかと思いながらもクロは魚を見て朝食を考える。


「魚のアラを使った味噌汁に、そうなると米を炊いて食べやすいようにおにぎりかな。あとは玉子焼きと魚を煮付けて……漬物もあったからそれを出して、」


≪朝食はやっぱり和食がいいですよね~≫


 目の前に飛んできた文字の出所へと視線を向けるとアイリーンが幼いフェンリルを抱いており、その後ろにはビスチェや両親フェンリルの姿と幼いフェンリルを抱くメルフェルンとシャロンの姿もあった。


「クロさん、見て下さい! この子の兄弟たちですよ!」


「ふふふ、フワフワでサラサラで可愛いです!」


 抱いている幼いフェンリルを抱き締めるシャロンとメルフェルンに、そりゃ兄弟もいるかと思うクロはその愛らしい幼いフェンリルに表情を崩す。


「和食にするからアイリーンも手伝ってくれ」


≪お任せ下さい! 三枚卸しなら得意です!≫


「私も手伝いますね。支持をお願いします」


 アイリーンとメルフェルンが手伝いを申し出て調理に取り掛かるクロ。幼いフェンリルはシャロンが面倒を見て微笑みながら優しく撫で愛らしさにダメにされていると、キャロットと白亜も現れお腹の音をシンクロさせる。


「お腹が空いたのだ!」


「キュウキュウ!」


「朝食にはまだ時間が掛かるから散歩でもして時間を潰してくれ」


「わかったのだ!」


「キュウキュウ!」


「キャンキャン!」


 キャロットが了承すると白亜と幼いフェンリルたちが鳴き声を上げシャロンの腕から飛び出すと、キャロットへと向かい自分たちも行くとでも言っているのだろう。


(散歩、任せろ、守る、不思議肉、頼む、楽しい)


 ビスチェに撫でられていた父親フェンリルからの念話が放たれその場にいた皆が視線を向けると「ワフン!」とひと鳴きし尻尾を振るう。


「それは助かるよ。また缶詰を用意しておくから帰ってきたら報酬として渡すからな」


「私も一緒に散歩に行くわ! だから報酬の用意をお願いね!」


 微笑むビスチェがクロへ向けご機嫌に話すと母親フェンリルを撫でながらキャロットと白亜にフェンリルたちは広場から続く道を行き、残されたシャロンは立ち上がるとりょうりの手伝いに混ざりクロと一緒に野菜をカットして行く。


「丁寧に鱗を取った魚の中骨はサッと茹でて臭みと雑味を取り、新しい水を入れた鍋に昆布を入れて沸騰するまで煮て、骨を取った身の方はすり鉢で潰して生姜と酒に塩を入れてよく混ぜる。つみれだな。昨日のかまぼこは血合いを取って白く綺麗に作ったが、つみれの場合は身なら全部入れても問題ない。味噌で味付けをするから繊細な味でなくとも十分美味しいからな」


 沸騰したら昆布と身のついた中骨を取り除き、そこへつみれを丸くしながら投入し長ネギを入れ、浮いてきたところで味噌を溶かし入れる。


「これも初めて見る料理だな……変わった色をしているが豆の匂いが仄かにするな。それに黒く薄い板の様なものは海藻か?」


「昆布ですね。本来はもっと大きくて海底に根を張り魚の棲み処になっていますね。この辺りにもありますか?」


「色が若干違うがあるぞ。ものすごく長く海人たちが衣服に使っているな」


≪マーマンさんたちも服に使っていましたね! クロ先輩が変質者に疑われた事を思い出しますよ~≫


 ギガアリゲーターからマーマンたちを救ったアイリーンがクロを呼びアイテムボックスのスキルで収納した際に昆布を纏ったマーマンの女性が着る昆布の水着を見て「それを売ってくれ!」と交渉した時の事を思い出したのだろう。


「頼むからあの事は忘れてくれ……昆布が見つかって嬉しかったんだよ……」


 クロもマーマンたちから白い目で見られた事を思い出し耳まで顔を赤くする。


「煮立ってきましたので弱火にしますね」


 メルフェルンが竈の赤くなった炭を取り出し弱火にすると、クロはお玉を使い椀に注ぎ鳥料理担当の褐色エルフに手渡す。


「どうぞ、味を見て下さい」


「ああ、変わった色味だな……うん、美味いな……魚の旨味と独特な風味が良い。入れた野菜の甘味も出ているのか……味噌といったか? その味付けは良いものだな……」


「豆を発酵させて作る調味料ですね。同じく醤油という豆を発酵させて作る調味料は昨日紹介しましたが、それと似た作り方です」


≪味噌と醤油は日本人の魂ですよ~≫


 胸を張りどや顔で大きく文字を浮かべるアイリーンに、それは米だろと心の中でツッコミを入れるのであった。





 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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