肉料理の下ごしらえと料理の完成
受け取ったギーウィの肉をメルフェルンが下ろし部位ごとに切り分けて行き、胸肉ともも肉を適当なサイズに切り分けるシャロン。
クロは肉担当の褐色エルフに交渉し、ニョクマムという魚醤とパパイヤのサラダに使われていた酢を受け取る。
「ありがとうございます。できるだけこっちの食材を使いたかったので」
「ん? それは俺たちにも作れるようにか?」
眉間に深い皺を作っていた肉料理担当の褐色エルフの男はパッと目を見開く。
「ええ、美味しい物はどこで食べても美味しいですから。それに多くの料理を知ればそこから料理の幅が広がりますから」
「確かに……俺に手伝える事はあるか?」
敵対とまでは行かなくても料理にケチをつけられた肉担当の褐色エルフは機嫌悪げにギーウィの肉を渡していたが、今のクロの言葉に柔軟な思考と対応を見せる。彼も親の後を継ぎギーウィを狩る事を生業にしており、それをどうすれば美味く食べられるか試行錯誤を続けてきたのだ。
「それならパパイヤをこのぐらいの細切りにしてもらえますか?」
「任せろ!」
手早く皮を剥くと半分に切り種を取り出し手慣れた手つきでリズミカルに千切りにする。
「そしたら油の加熱とソース作りだな」
アイテムボックスから大きな鍋を取り出すと油を大量に入れ竈に置き火を入れるクロ。
「こちらも終わりました」
「全部一口大にカットしましたよ」
シャロンとメルフェルンの呼び声に振り向いたクロは大きなボウルをアイテムボックスから出し塩コショウに日本酒を取り出す。
「そしたらこれに入れて塩コショウを軽くして日本酒を少量入れて混ぜてくれ」
「日本酒を料理に使うのですか!?」
「少しだけな。これは、」
「臭みが取れとコクが出るのですよね。私も最初は驚きましたが入れると違いがでるのです」
クロを遮るように説明するメルフェルンは主であるシャロンの前で良い所を見せたかったのだろう。
「混ぜ終わったら小麦粉を入れて混ぜ、」
「唐揚げですね!」
「ああ、唐揚げだが、これに酸味のあるソースとたっぷりの香味野菜を合わせるからな」
「唐揚げとは違うのですね……」
「さっきのパパイヤのサラダに使われていた酢を思い出してな。折角だから少し酸味のある餡かけソースをかけて油淋鶏にするからな。魚醤も使えばこっちでも作れるだろ」
「俺たちのことまで考えて作ってくれる事に感謝するぞ。これだけあれば大丈夫か?」
ザルいっぱいに千切りにしたパパイヤを受け取ったクロは力強く頷き、片栗粉を付け揚げの作業に入る。
「温めた油に下味と小麦粉を付けた鳥肉を入れるのだが、この時に片栗粉と呼ばれる芋から作られた粉を薄くまぶしてから油に入れると外側がカリカリに仕上がります」
説明しながら鳥を揚げて行くクロ。肉料理担当の褐色エルフの男は初めて見る調理法に興味があるのかクロの横で食い入るように見つめる。
「あまり近づくと油が跳ねて危険ですからね。油は水や熱膨張で跳ねますから注意して下さい」
「ああ、熱膨張がよくわからんが、距離を取れば安全だな」
「そうですね。後は油を加熱し過ぎると火が付くのでそれも注意です。揚げ終わった油は冷ましてから樽に入れてスライムの餌にするといいですよ」
「スライムは水を綺麗にするが油も食ってくれるのか……」
「他には肥料を作る時に使うといいとか聞きますが作り方がわからないので……そろそろかな」
からりと揚がった唐揚げをひとつ取り半分にカットするとあふれ出る肉汁。確りと火が入りそれを味見にと進めるクロ。
「はふはふはふはふ、美味い……これは美味いぞ! 肉汁があふれ出てカリカリとした外側に封じ込められているのか! これは他の物を同じように揚げても美味いかもしれない……ああ、だから料理の幅が……クロといったか、感謝するぞ! これは革命的な料理法だ!」
感銘を受けたのか肉料理担当の褐色エルフの男はクロに抱き着き感謝の言葉を連呼し、クロは突然の事に驚くが力強く抱き締められたことにより苦しげな表情を浮かべ、メルフェルンとシャロンも驚きの表情を浮かべるがクロが苦しがっている事に気が付いたシャロンは一早く二人を離すべく腕を入れ体を滑り込ませる。
「クロさんが苦しがっていますから! 離れて下さい!」
シャロンの叫びに「おお、すまんすまん」と手を離す肉料理担当の褐色エルフの男。シャロンは心配しながらクロを目の前にして頬祖染め、クロはといえば青い顔をしながらも「ありがとな」とお礼の言葉をシャロンに向け、すぐに唐揚げへと戻る。
≪素晴らしいBLだったと思います! 90点です!≫
目の前に飛んできた魔糸製の文字を掴むと竈へと入れ瞬時に燃え上がる腐文字。
「はぁ……揚げ物はメルフェルンさんに任せてもいいですか?」
「はい、お任せください!」
「自分はソースを作りますね」
揚げ物をメルフェルンに任せたクロは鍋に魚醤と酒を入れてから火を入れ魚臭さとアルコールを飛ばし、砂糖と生姜を入れひと煮立ちさせたらヤシの実から作った酢を入れて味を見る。
「うん、柔らかい酸味だな。ワインビネガーに近いのかな……後は唐揚げが揚がったら千切りにしたパパイヤを上に乗せて、これを掛ければ完成だな」
「後は僕たちに任せて下さい。アイリーンさんが呼んでいますよ」
シャロンが指差す先には大きく手を振るアイリーンがおり、ビスチェも混ぜ終えたのか腕をしてこちらを眺めている。
「あっちも完成させて来るよ。後をお願いします」
「お任せ下さい」
メルフェルンとシャロンに油淋鶏の完成を任せクロは魚料理のエリアへと向かい、ドヤ顔ですり鉢を見せるビスチェと小さな板を両手に持ち≪これで大丈夫ですよね~≫と笑顔を見せるアイリーン。
「ああ、木の板にすり身を盛るができるだけ空気を入れないようにして半円を作る。こうやってって、難しいな……」
ナイフを使いアイリーンが切り出した小さな板にビスチェが潰した白身魚のペーストを塗るように盛るクロ。意外に難しく形を整えながらひとつを完成させる。
見ていたアイリーンとビスチェも手伝い二人は器用に板の上にすり身を乗せ、クロよりも器用なのか次々に完成させて行く。
この時クロは思った………………揚げてさつま揚げにすれば良かったと……
「後はこれを蒸せば完成だな」
≪かまぼこですね! 初めて作りましたが楽しかったです!≫
「へぇ~前に食べた時は切ってある物だったけど、こうやって作るのね。面白かったわ」
蒸し籠に入れ並べ火を入れると魚の香りが立ち始め二十分ほどで蒸し上がり、熱々をひとつ取り出してナイフを入れると魚料理担当のマッチョエルフに進める。
「これがお前の魚料理なのだな……作業工程は見ていたが……魚が魚ではなくなったな……どれ、うっ……これが魚料理……信じられない……まるで歯応えが違うではないか……」
熱々のかまぼこを口に入れ咀嚼すると目を見開くマッチョエルフ。
「熱っ!? うまっ! これは温かくても美味しいのね!」
≪これはそのままでも十分美味しいです! ワサビや醤油がなくてもパクパク食べられますね!≫
ビスチェとアイリーンから美味しいという感想を貰ったクロも一切れ口にすると、熱々のかまぼこからは魚の旨味と程よい弾力があり「これは酒が進む一品だな」と自画自賛する。
「クロさん! こちらも完成しました。テーブルに運びますね!」
シャロンの叫びにクロも熱々のかまぼこをカットすると、ワサビと醤油を添えてエルフェリーンとエルファーレの待つテーブルへと運ぶ。
「待っていたぜ~どちらも美味しそうだね~」
「どっちも初めて見る料理だけど鳥と魚料理だよね?」
油淋鶏とかまぼこの見た目から鳥と魚は連想できないのか目を細め見つめるエルファーレ。
「はい、間違いなく鳥と魚の料理です。鳥は油淋鶏といって揚げた鳥肉に甘みと酸味のあるソースをかけたものです。魚料理はかまぼこといい魚の身を潰して作ったものですね。ワサビの量に気を付けて食べて下さい」
クロの説明を聞きながらエルフェリーンは油淋鶏を口にして表情を緩め、キャロットと白亜もハフハフと熱々を口にしている。
「あの、そちらのエルフの皆さんもどうぞ。口に合えばいいのですが」
給仕をしていた褐色エルフに進めるクロ。二人は互いに肉担当と魚担当のトップでありこの二人のいがみ合いから派閥が分かれたのだ。
二人は訝し気な顔をしながら口に入れると声にならない叫びを上げる。
「あははは、どちらも本当に美味しいね! こんなに美味しい料理は初めて食べるよ!」
エルファーレの言葉に胸を撫で下ろすクロは褐色エルフの二人へと視線を向け、一口食べて固まる肉担当と次々に口に入れる魚担当の姿に、やれる事はやったかなと椅子に腰を下ろすのだった。
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