鳥料理と魚料理
「こちらはパパイヤのサラダになります」
「牡蠣の姿焼きになります」
「キノコを使ったスープになります」
食前酒の後にはサラダや牡蠣を使ったオードブルにスープが登場し、エルファーレはエルフェリーンを見つめ味の感想を求めているのが窺える。
「ヤシ酒は少し酸っぱくて甘みもあって飲みやすいですね。これは母さんたちが好きそうな味です」
「皇帝陛下はヨーグルトなどの酸味のある物がお好きですから、購入できるなら持って帰られたら喜びそうですね」
シャロンとメルフェルンがヤシ酒の感想を言い合い配られた料理を口にするとその表情を明るくする。
「シャキシャキとして美味しいですね」
「こちらも酸味があって香りもいいですね。こんがりと焼かれた牡蠣もとても美味しいです」
「キュウキュウ！」
「スープも美味しいのだ！ 肉が待ち遠しいのだ！」
白亜とキャロットもオードブルが気に入ったのか口にするが、煙を上げ焼かれている肉の香りに早くお肉が食べたいと期待を込め尻尾を揺らす。
≪これタイ料理屋さんで近い味のを食べた事がありますよ～牡蠣も不思議と醤油に近い味がしますね≫
「もしかしたら魚醤を使っているのかもしれないな。このスープに入れたキノコは初めて見るな。黄色くて王冠の形をしている……」
「それはクラウンマッシュね。王様が被る王冠のような見た目だからそう呼ばれているわ。干したものを粉にして飲めば活力が湧くと言われているわね。とても貴重なキノコだったはずよ」
ビスチェがスープに入れられたマッシュルームに王冠が付いたような茸の説明をすると、クロは改めてスプーンですくい薄くカットされたそれを見つめ口に運ぶ。コリコリとした食感とキノコらしい旨味が口の中に広がり鳥ベースのスープとよく合い自然と「美味い」と口にする。
「気に入っていただけたのなら良かったよ～エルフェリーンはどうだい？ 美味しいかな？」
「うん！ とても美味しいよ～特にこの牡蠣が美味しいぜ～牡蠣は前にも食べたけど醤油に似た味がするね」
「醤油？ これはニョクマムという魚を使ったタレだよ。小さな魚を樽に塩を入れて寝かせるのさ。魚臭さがあるけど加熱するとその臭いは抑えられ牡蠣や野菜とよく合うんだよ」
「へぇーこのシャキシャキしたサラダも美味しいぜ～クロがよく作る大根を使ったサラダと少し似ているね～どっちも美味しいよ～」
微笑みを浮かべて食べるエルフェリーンの言葉に給仕をする褐色エルフたちも微笑みを浮かべる。エルファーレもニコニコと微笑みヤシ酒を口にするとメイン料理だと思われる大きな鳥を使った料理が運ばれ声を上げるキャロットと白亜。
「大きな鳥の丸焼きなのだ！」
「キュウキュウ！！」
テンションを上げる一人と一匹に加え、アイリーンの椅子の下からキャンキャンと鳴き声を上げる幼いフェンリル。
≪この子も欲しがっているのですがあげてもいいですか？≫
「あはははは、そうだね。見ているだけじゃお腹が減るね。本当は別で食事をさせるけど今日だけは特別だよ」
エルファーレの許可が下り幼いフェンリルは前足をアイリーンが座る椅子にかけると嬉しそうな鳴き声を上げ尻尾を振るう。
≪もう少し待って下さいね～取り分けて貰いますからね～≫
「キャンキャン！」
そんなやり取りをしていると皮付きの鳥が配られ、新たに大きな葉で包まれた料理が登場し葉が開かれると魚と野菜の香りが広がる。
「鳥料理と魚料理が一緒に出てきたよ」
「こちらの文化なのでしょうか？」
「メイン料理が二種類同時に出てくるのは珍しいね。変わった趣向だけど面白くていいね～」
シャロンとメルフェルンにエルフェリーンが同時に登場した鳥料理と魚料理を面白がり各自の前には二種類の料理が並ぶ。
「こちらは近くの火山に多く巣を作るギーウィと呼ばれる魔物です。この時期は子育ても終わり巣立った若い鳥を使っておりますので肉質が柔らかくとても美味しいですよ」
「こちらは近海に住むカジラと呼ばれる大型の魚を香辛料で味付けし葉で包み蒸し焼きにしたものです。今朝取れた一番大きなものを料理させていただきました」
二人の褐色エルフが料理の説明してくれたのだが、互いに対抗意識でもあるのか説明が終わると互いに睨み合うような視線を向け合う。
「この鳥料理は絶品だね！ パリパリとした皮と肉汁が触れ出てとても美味しいよ」
「魚料理もしっとりと仕上がってて香りも抜群ね！ 添えられた野菜の甘さとも合うわ！」
エルフェリーンとビスチェが褒めると満面の笑みを浮かべ胸を張る両者。クロも両方食して完成度の高い料理に、ここの料理はこの世界の最高峰じゃないかと思案する。以前食べたキャロットの祖母であるキャロライナの料理も美味しかったのだがそれ以上だと思えたのだ。
「肉も魚も美味しいのだ！」
「キュウキュウ！」
≪ほらほらどうですか～美味しいですか～≫
「キャンキャン！」
キャロットは白亜に分け、アイリーンは幼いフェンリルに料理を分けると夢中で頬張り、どちらの料理もあっという間に平らげてゆく。
「クロはどちらの料理が美味しかったかな？」
エルフェリーンから何気なく掛けられた言葉に褐色エルフの視線がクロへと向き、その瞳は明らかにこちらを選べという圧力が掛かり思わず果実水を口にするクロ。
おいおい、この国は鳥料理と魚料理で対立でもしているのかよ……
果実水の入れられた竹で作られたコップに口を付け続けるクロ。そんな中、空気を読まずにビスチェが口を開く。
「私は魚料理ね。大きな葉で包んで蒸し焼きにしている所が面白いわ！ 味も洗練されていて白身がとても美しいわ！ 少し弱いこのお酒にもよく合うし、ふっくらとした身が最高よ！」
「ありがとうございます」
満面の笑みでビスチェの賞賛を受ける褐色エルフ。対して肉料理を配っていた褐色エルフの顔は歪み歯を食いしばる。
「肉料理の方が美味しいのだ！ パリパリの皮に肉汁が最高なのだ！」
今度はキャロットの言葉に表情を変え太陽の様な笑顔を浮かべ、逆に眉間に深い皺を作る。
「二人ともいい加減にしないか。客人の前で変な顔をするのは止めてくれ……はぁ……今この国では鳥料理派と魚料理派が争っていてね……私はどちらも美味しいと思うのだがどちらかに決めて欲しいと……はぁ……どっちも美味しいじゃダメなのかね～はぁ……」
エルファーレが愚痴をこぼすと肉エルフと魚エルフは申し訳なさそうな表情へと揃って変わり、クロは迂闊な事を発言しなくて良かったなと心底思いながら果実水を飲み終える。
「おかわりをお持ちしますね」
我関せずを貫く飲み物担当の褐色エルフに感謝しながらおかわりを受け取ったクロは、どちらが美味しいかを真剣に考えながら双方の料理を口にする。
鳥料理は癖がなくパリパリに焼かれた皮と肉汁溢れる肉質で、部位も胸やモモにササミなど色々な部位が入っていて食感も変わって美味しい。
対して魚料理は香草焼きの様な香りが白身魚の身に包まれ、玉ねぎに似た薄切りの野菜と一緒に蒸され香りがよくシットリとした身に程よい塩気が抜群だな。
アイディアと見た目の美しさは魚料理だが、豪快さのある鳥料理も繊細さもあり美味しい……
どっちが美味いというよりは、比べる基準がちがうというか、鳥料理の方はパンに挟んで野菜とマヨを入れて齧り付いた方が好みかな……魚料理の方は大根おろしかレモンを絞って食べたいかも……
≪クロ先輩……途中から声が漏れていますけど……≫
急に目の前に現れた文字に驚くクロだったが文字を確認して顔を上げると、褐色エルフの魚料理担当と肉料理担当が血走った瞳を向けており引きつった笑みを浮かべるクロ。
「そうかそうか、クロはこの二つの料理はまだ改善点があるというのだね！」
嬉しそうに口にするエルファーレに、更に苦笑いが加速するクロなのであった。
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