白亜とフェンリル
「いや~どの果実も美味しいね~」
「そうだ! ケーキに乗せて食べて見たいわ! 白いヤツともきっと合うわよ!」
「ケーキですか!? あの赤い果実の乗ったものは美味しかったですね!」
ビスチェの提案にサキュバニア帝国の城で食べた事を思い出したメルフェルンはテンションを上げ口にし、シャロンもうんうんと何度も頷く。
≪それならフルーツタルトにして欲しいです! 様々な南国のフルーツを乗せてカスタードたっぷりで作って欲しいです!≫
「クロなら作ってくれるのだ! ケーキは美味しいのだ!」
「キュウキュウ!」
皆の視線を受けたクロは「俺が作るのかよ……」と苦笑いしながら口に出すと「キャン!」という鳴き声が部屋に木霊する。
「おや、さっきのフェンリルじゃないか」
部屋の入り口から走りアイリーンの元へと向かい飛びつくと、その頬をペロペロと舐めくすぐったそうにしながらも抱きしめるアイリーン。
「まったく、ここには来てはダメだと教えているのにこの子は……ふふ、痛みがなくなり救ってくれた事が嬉しかったのだね~」
優しい笑みを浮かべるエルファーレはアイリーンに抱かれた幼いフェンリルを見つめ、エルフェリーンやビスチェにシャロンたちも微笑ましくその様子を見つめる。
「あ、あの、大きなフェンリルも来ているのですが……」
メルフェルンが指摘するように部屋の入り口には二頭のフェンリルがおり、耳と尻尾を下げて俯きがちにこちらを見つめる。どうやらここに入ってはいけないという意味をしっかりと解っているのだろう。
「あははは、この子を追って来たのかな。ほら、特別に許すからおいで」
エルファーレが手招きすると二頭は耳を立て尻尾を揺らしゆっくりと歩きながら部屋の中へと入り、エルファーレの元へ向かうと優しく頭や喉を撫でられ勢いよく尻尾を揺らす。
(追跡、無理、喜び、我が子、素早い、気持ちいい)
子供を追ってここまで来てしまったという言い訳と、撫でられて気持ちがいい事も途中で挟み意味が伝わりづらい念話が送られ一同は笑い声を上げる。
「ねえねえ、私も撫でていいかしら?」
「わふっ!」
母親フェンリルに了解を取りビスチェが立ち上がり優しく背中や頭を撫で手触りの良い毛並みを楽しむと、シャロンが立ち上がり「僕もいいですか?」と恐怖を感じながらも大人しく撫でられる姿に興味が勝ったのか口にする。
「わふっ!」
「な、撫でるね……………………ふわぁ~サラサラで気持ちがいいね」
微笑みを浮かべフェンリルを撫でるシャロンの表情に一瞬ドキッとするクロは、シャロンは男シャロンは男と心の中で何度も唱え、メルフェルンは緊張しながらシャロンが撫でる姿を見つめ自身も撫でたいのか手を同じように動かしている。
「メルフェルンさんも撫でたらどうですか? 普段からグリフォンを撫でていますし大丈夫だと思いますよ」
クロからしたらグリフォンもフェンリルも同じように恐怖の対象なのだが、撫でる事でスキンシップを取ると不思議と恐怖はなくなり寧ろ甘えて来る姿に驚くことが多い。魔物といっても人に飼いならされた魔物はスキンシップが好きなのである。
「そ、そうですね……私も撫でていいですか?」
「わふっ!」
震える手でフェンリルの背中に触れるメルフェルンは若干青い顔をしていたが、その手触りにパッと表情を変えシャロンと目が合うと微笑みを浮かべる。
「グリフォンも素晴らしい手触りですが負けず劣らずですね」
「うん、グリフォンの体毛は羽だからね。フェンリルは細い絹のようにサラサラしていて気持ちがいいね」
「それでも白亜さまの方が撫で心地がいいのだ!」
白亜を撫でながらドヤ顔する空気が読めないキャロット。白亜も撫でられながら数度頷くとキャロットの腕から離れクロの胸へと滑空し受け止められる。
「白亜は白亜で撫で心地は最高だよな。って、フェンリルもこっちに来たぞ」
アイリーンに撫でられていた幼いフェンリルがクロの元へと現れ膝の上に登り、白亜に興味があるのか揺れる尻尾を追いながらクンクンと匂いを確かめる。
「キュッ! キュキュウ!!」
白亜が威嚇しているのか普段よりも高尾鳴き声を上げるが、幼いフェンリルには威嚇だと認識していないのか「キャンキャン」と尻尾を振りながらテンションを上げる。
「この子は白亜と友達になりたいのか?」
≪そうかもしれませんね~色も同じですし親近感が湧いているのかもしれませんね~≫
適当な事を言うアイリーンだったが父フェンリルからの念話が頭に届く。
(興味、竜種、同色、幼い、神獣)
「そうみたいだな……ほら、この子は白亜だ。仲良くできるか?」
白亜の脇に手を入れ幼いフェンリルの前にすると、白亜はイヤイヤと首を横に振り幼いフェンリルも同じく首を横に振り顔を合わせようとする。その姿に一同は笑い声を上げ母親フェンリルが幼いフェンリルに近づき首の後ろを咥え持ち上げると距離を離す。
「キュウキュウ~」
首を横に振っていた白亜がクロの手から離れ胸に抱き着くと額をグリグリと擦り付け、クロは優しく抱き上げる。
「あっちは興味があったのに変な所で怖がりだよな」
「キュウキュウ!」
「白亜さまは歯が怖いと言っているのだ。歯がギザギザだったのだ」
キャロットが白亜の鳴き声を訳してくれ、それは白亜も同じだろと思うクロ。
「キャンキャン!」
母親フェンリルから解放された幼いフェンリルは白亜を気にしながらもアイリーンの元へ向かい抱き上げられ膝の上に座り大きく欠伸をする。ここが私の定位置だと言わんばかりの態度に、アイリーンは目じりを下げ優しく背中を撫でると目を瞑り寝息を立てはじめる。
≪寝てしまいましたよ~可愛いですね~できるなら家に持って帰りたいです~≫
「おいおい、両親の前でそんな事いうなよ。それにうちには白亜やグリフォンがいるし師匠の面倒も見ないといけないんだからな」
「むっ! 僕の面倒を見るライバルが増えるのは困るね! ちゃんとアイリーンが世話をするのなら許すけど、クロが付きっきりになるのは困るよ!」
「キュウキュウ!」
「いや、師匠は自分で色々として下さいよ……白亜もだぞ」
「キュキュウ~」
「白亜さまは竜の巫女である私の役目なのだ! クロはエルフェリーンさまの面倒を見るのだ!」
「そうだぜ~僕の面倒はクロが見るんだ! 美味しいおつまみとお酒を用意してくれないと僕は拗ねるぜ~」
「ゴリゴリ係も確りするのよ! 来年にはポーションの作り方とか教える心算だし、鎮痛剤や消毒薬も教えるからね!」
クロを指差し宣言するビスチェにクロは白亜を抱きしまたまま立ち上がり「やった! やっと本格的なポーション作りができるのか!」と嬉しさを声にする。
「そっか、それもあったね~基礎は教えているけど魔力の込め方にはコツがいるからね~クロの作ったポーションかぁ~時が経つのが早く感じるよ~」
「ふふ、エルフェリーンは良い弟子たちを持ったね~私も楽しく暮らしているけど仲が良さそうで安心したよ~」
いつの間にか隣に立つ母親フェンリルの喉を撫でながら話すエルファーレに、「だろ!」と良い笑顔で答えるエルフェリーンであった。
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