腕の中に納まる現実
二章の始まりです。
毎日は厳しいかもしれませんが書けてる所まで予約投稿させて頂きます。
二十八日までは毎日十一時に予約投稿が上がりますので、読んで頂けると嬉しいです。
暖かな日差しを背に受けながら魔物の皮を地面に敷き、その上に座り足ですり鉢を押さえゴリゴリと薬草を潰すクロはゴリゴリ係としての職務を全うしていた。
魔力草をペースト状になるまで潰し終えるとすり鉢からガラスの器へと移し替え、新たなに魔力草をゴリゴリと潰して行きそれを繰り返すのだ。定期的にビスチェが回収に来るため溢れる事はないが、ゴリゴリと何も考えないで薬草を潰して空を眺める時間がクロは好きだった。
流れる雲や空を飛ぶ鳥に、明らかに島の様なものが浮かぶ異世界の空は見飽きる事がなく、新しい発見が多くあるのだ。今日もまた異世界でも珍しいものが空を飛んでいる姿が目に入る。
「ドラゴン……」
蜥蜴に翼を付けた様な姿は巨大で、空を横切る姿に思わず口を閉じる事も忘れ目を奪われた。
遠目に見えたドラゴンをよく見る為に、目に魔力を集めると望遠鏡の様に視界がズームし、白く美しいその姿を見る事ができた。
いまクロが行っているのは魔力操作で視力を強化した状態であり、身体強化の初歩である。慣れれば常に使う事もでき魔力を体中に循環させる事で寿命をも延ばす事ができると言われており、生まれながらにこの能力を授かっているのがエルフであり平均寿命は五百歳以上と人間とはかけ離れた時間間隔で過ごしている。
「ク~ロ~助けて~」
やや棒読みな叫びに振り返ると屋敷のドアから顔を出して手を振るエルフェリーンの姿が視界に入り、どうせ二日酔いだろうと思いながらもゴリゴリ係を中断し足を向ける。
「どうしました?」
「あのね。あれが食べたい! もうロウクワットが実を付けているよ! いくつか取ってきて一緒に食べようぜ!」
エルフェリーンが指差したのは二週間前に木苺を採取した斜面の下方であり、ビワの木が群生する場所。三人の中では果樹園と呼ばれており様々な果実の実をつける木々が集まっている。
何でも昔にエルフェリーンが種や苗から植え育てたものであり、真冬以外には旬の果物が採取できる自慢の場所である。
「私はグレープフルーツが食べたいわ!」
エルフェリーンの横から顔を出すビスチェに、自分で取りに行けよと思いながらも「へーい」と返し歩きだすクロ。
念のためにシールドを四方に出し十五分ほど歩くと到着し、遠くに見えるキラービーの巣に群がる腕ほどの大きさもある蜂が視界に入り背筋を振るわせる。
「あんなのに刺されたら毒以上に出血死だよな……」
視線をビワに移し替えオレンジになったものを背伸びして採取し、アイテムボックスに放り込む。手にしたビワの酸味と甘みのある香りにひとつを手にして服で拭き「これは味見です」と誰もいないのに言い訳をしてから口に含むと、ジューシーな果肉の甘さと少し酸味のある味に満足げな表情を浮かべ、二つ目を口にする。
「これは取りにきて正解だったな」
手の届く範囲を収穫したクロはシールドを出現させると、階段の様に空間へ浮かべ高い所にあるビワを収穫し始める。
「あとは鳥たちにでも残しておくか」
かなりの数を収穫した事もありシールド階段を降り、ビスチェのリクエストであるグレープフルーツの収穫へ向かうクロ。
木々の間を進み斜面が近くなると足を踏ん張りながら目的の木へと到着し、多く実るグレープフルーツのひとつをもぎ取る。
「ビワは同じような果実なのに、どうしてグレープフルーツは真っ青なのかね。それにちょっと小ぶりだし……」
クロの手に納まる青い果実を手に取り香りを確かめると柑橘系の香りが鼻を抜け、「地球と同じ香りなんだよなぁ~」と小さく漏らすと次々に回収し、ナイフを使い切り込みを入れると皮を向き味を確かめる。
「酸味が強いが美味い! 甘すぎない所もいいな」
次を口に入れると風が吹き抜けゴロゴロと木苺が実っていた木々の間から白く見える球体が目に入り、ウサギでも足を滑らせたのかと思いシールドを展開し受け止める。
「ウサギ肉はホロホロになるまで煮てスープかな?」
そんな独り言を口にすると白かったものが立ち上がりクロを睨みつけ、「マジかよ……」と驚きの声を上げながらも剥いたグレープフルーツをひとつ口に入れる。
「キュー」
シールドで受け止めた事への感謝など一切ないそれは、白く美しい尻尾でバシバシとシールドを叩き、無駄だと解ると爪を立てる。
「ウサギの方が絶対に美味しい気がする……」
サイズ的にはバレーボールほどのそれは、全身を白い鱗で覆われ、背中には翼があり、口には鋭い牙が見え隠れし、ギロリと睨んで来る瞳には最強種である威厳の様なものが宿っている。が、サイズが小さい事もあり恐怖というよりも生意気な子ドラゴンといった所であった。
「キュー」
威嚇するように叫ぶ子供ドラゴンにクロが取った行動は、新たに剥いたグレープフルーツのひとつをシールドに乗せ子ドラゴンの目の前へと運ぶという餌やりであった。
「ほれ、それは食べられるものだからな。こうやって口に入れモグモグ」
グレープフルーツを口に入れて見せるクロに最初は戸惑っていた子ドラゴンも興味があるのか、匂いを嗅ぎ少量を口に入れると目を見開く。
「キュウキュキュー」
嬉しそうに叫ぶ姿に口に合ったのだと思うクロ。すると次を寄こせと言っているのか尻尾でシールドを叩いて口を開ける子ドラゴン。
「意外と図々しいな……ほれ、行くぞ」
今度はシールドを避けて弧を描くように投げると顔を上げグレープフルーツを見つめ、飛び上がり口でキャッチする子ドラゴン。
思わず拍手するクロに子ドラゴンは「キュウキュウ」と嬉しそうな鳴き声を上げる。
「次はってもうないか。ならビワも食べるか?」
「キュウキュウ」
欲しいのか口を開け地面を尻尾で叩く子ドラゴン。
「ほれ、行くぞ」
同じ様に投げると空に飛び上がり口でキャッチする子ドラゴン。グレープフルーツよりも好みだったのかそのまま飛び続け「キューキュー」鳴きながらクロの足元に着地する。
「ビワの方が好きか」
「キュー」
二足歩行で立ち身をくねらせ頬に手を置く子ドラゴンのリアクションに、ビスチェそっくりだなと思うクロ。
「もっと食べるか?」
「キューキュー」
「そら、投げるぞ。行け!」
アイテムボックスに手を突っ込みビワを取り出すと力いっぱいに投げるクロ。それを走りだし飛び上がり追いかける子ドラゴン。
「おお、キャッチしたな。もうひとつ投げるからな~おぅりゃっ!」
大きく手を振り投げるモーションに入りビワが発射され、それを確りと確認した子ドラゴンは走り出すが突然現れたプラチナブロンドの背の高い美人が手でキャッチをすると口に入れ、口を開け驚くクロ。その美人が常人では到達できないだろう高さから着地すると、子ドラゴンがその女性にタックルを仕掛けるが微動だにせず、抱きとめ抱き上げる。
「キューキュー」
抱き上げられながらも白く美しい尻尾で女性の背中をバシバシと叩くが、お構いなしに笑顔を浮かべクロの前へと歩みを進める女性。
「貴方は錬金工房『草原の若葉』の関係者かしら?」
そう口にする女性に口を閉じて頭を下げるクロ。
「それはタイミングがいいわね。私が白夜でこの子の名前は白亜。素直で良い子だし、人語も理解しているわ」
「はぁ」
「遅くても五年ほどで戻るからエルフェリーンに預かってもらってね」
頬笑みながら白亜を渡して来る白夜に戸惑いながらもシールドを解除し受け取ると、大きな口を開け「キュー」と鳴く白亜はまるで「これから宜しく」と話している様であった。
「私は急ぐから後は宜しくね。白亜も良い子に待っているのよ」
そう口にすると高く飛び上がり光に包まれる白夜。次の瞬間には巨大な白いドラゴンへと姿を変え、大きな瞳でパチリとウインクすると翼を羽ばたかせ暴風が巻き起こり、目を開けた時にはその巨大な姿は消えていた。
「ははは……夢だな……」
そう呟きながらも腕に納まる白亜の重さに、現実だと理解せざる負えないクロであった。
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