師匠とやってきた者たち
広い花壇には多くの花々や薬草が植えられ咲き誇り、その横には野菜などが植えられ収穫を太陽の光を浴びて輝いていた。その先には二階建てのログハウスがあるのだが多くの蔦植物に絡まり、頻繁に開け閉めする窓以外は蔦に覆われていた。
「ここが錬金工房草原の若葉です」
「師匠を呼んできます」
クロが走り工房内へとあまり日の差さないリビングを抜け師匠の部屋と書かれたドアを叩く。
「師匠! 来客です! 王家の紋章を付けた馬車なので早く起きて下さい!」
「ええい、うるさい! 二日酔い何だから静かにしてくれ……」
何度もドアを叩きながら叫んでいると、そちらではなくバスルームから声が聞こえ振り向くとバスローブを纏った少女が眉間を手で押さえながら登場し、やや眼つきの悪い瞳をクロへと向ける。
「お客様ですよ。それも王家のお偉いさんみたいです」
「もうそんな時期か……通してくれて構わないから少し静かにしてくれ……ハーブティーでも出して少し待たせて……うっぷ……」
帰って来る物を堪える様に口を閉じ両手で押さえた師匠はバスルームへと消えて行き、大丈夫か心配しつつも外へと戻るクロ。
「どうだった?」
「ダメっぽい……少し待たせてくれと言っていた。あと、ハーブティーで持て成せって」
「それなら準備して来なさい。私は外でテーブルと椅子を用意するから」
ビスチェの言葉に従い外で飲むのもこの陽気なら問題ないだろうとキッチンへ向かい、慣れた手つきでお茶の準備を進めるクロ。
「みんな若そうだから薬草茶よりも飲み慣れているお茶の方がいいかなぁ~」
「それだと私が年寄りの舌を持っている事になるねぇ~」
クロの独り事に反応する師匠に年寄りだろうという言葉を飲み込みながら「そんな事無いですよ。見た目は少女じゃないですか」とフォローを入れる。
「うんうん、見た目は重要だからねぇ~やっぱり二日酔いには状態異常ポーションが一番効くねぇ~」
そういいながら空になった瓶をテーブルに置き自身の部屋へと向かう師匠に軽いため息を吐くクロ。
「こっちは準備できたから早くしなさいよ~殿下とお付きの人も少しイライラしてるからね~」
玄関に顔を突っ込み叫ぶビスチェにそんな事を大声で叫ぶなと思うクロは二回目のため息を吐きながらもお茶の準備を進める。
ティーポットに茶葉を入れトレーに乗せるとカップを用意して外へと向かう。
「早くしなさいよ!」
せっかちだなと思いながらお茶を入れると、花壇に目を向けていた殿下たちに声をかける。
「お茶を入れましたのでどうぞ。こちらの蜂蜜か早摘みの木苺のジャムを入れてお飲み下さい」
殿下を含めメイドや女騎士たちの分も用意したテーブルからは爽やかな香りが流れ、花壇の花たちに負けない香りが鼻を抜ける。
「よい香りだな。それに蜂蜜とは贅沢なのだな」
「そうですかね。ここだとキラービーと契約しておりますのでって、ビスチェは最後に口にしろよ……」
殿下よりも早くお茶に蜂蜜を入れ口にするビスチェ。
「味見よ。いや、毒見よ、毒見! あんたが変なものを入れてないか確認したのよ! 蜂蜜を奮発したからじゃないからね!」
口を尖らせながら言い訳をするビスチェの言葉に微笑みを浮かべる殿下。お付きのメイドや女騎士たちもその姿に肩を震わせるなか殿下はテーブルに付き、メイドや女騎士は座る事はなく殿下の後ろへと付き安全の確保に努める。
「お前たちも座るがいい。この錬金工房は結界が敷かれているのだろう?」
「はい、相当強力な結界が敷いてあります。入口以外からの侵入はほぼほぼ不可能ですし、魔法や矢での暗殺も角度的に難しいはずです」
錬金工房の敷地入口から離れた場所にテーブルを用意し、直線でない場所に座る殿下に矢を射ったとしても当てる事は難しいだろう。殿下も自身が狙われている可能性があると思ったのか上座ではなく入口から遠い席に座り、真っ先に腰を降ろしたビスチェを壁にする形で腰を降ろしている。
「失礼します」の声が重なりメイドと女騎士の四名が腰を降ろすと各々がお茶を楽しみ、笑顔で蜂蜜を紅茶に入れ甘味を楽しむ。
「素晴らしいお茶だな。それにこのジャムは絶品だぞ」
「ありがとうございます。早摘みなので少し酸味が強いですが、その分甘くしてお茶に合うようにしています。もしよければ何か摘まめるものでもお出ししましょうか?」
「お願い! 私はクッキーね!」
殿下へと話し掛けたクロだったがビスチェの言葉にシールドと同じ様な黒く薄い膜を出現させ手を突っ込むと、女騎士が立ち上がり腰に刺しているショートソードに手をかける。
「おいよせ! 話の流れから理解できるだろう。あれはアイテムボックスのスキルだ」
殿下の言葉に二名の女騎士は腰を降ろし、クロは焦りながらも手を引き抜くとクッキーの乗った皿を取り出しテーブルへと置く。
「これよ、これ。これが一番お茶に合うのよ~あむあむ……」
笑顔で口にするビスチェに殿下は頬笑みながら一枚を手に取り口に入れると目を見開く。
「これは何かしらの種を砕いた物を入れているのか? 今まで食べた中でも一番に美味しいぞ」
もう一枚手に取り口にする殿下にメイドや女騎士も手を出し口にする。
「美味しいでしょ~クロが作る料理はどれも美味しいんだからね~」
「何でお前が自慢するんだよ……」
「だって、美味しいもの! そこが悔しいけど……料理はできても錬金は私の方が上だから別にいのよ。ふっ」
勝ち誇ったように笑うビスチェに、女騎士が吹き出しそうになるのを何とか堪える。
「やあ、待たせた様だね。その顔は第二王子かな?」
ドアが開き現れた師匠の言葉を受け、すぐに立ち上がった第二王子は頭を下げメイドや女騎士たちは膝をつき頭を垂れる。
「一介の錬金術師に頭を下げる王族はどうかと思うよ。それよりもクロは驚いてないで私のお茶を入れてくれ」
クロは新しいカップにお茶を入れ開いている椅子の前に置くと、そこに腰掛ける師匠。
「エルフェリーンさまを一介の錬金術師などと呼ぶ者は王家にはおりません。王国の立会人として立たれたエルフェリーンさまには歴代の王族すべてが感謝しております」
「そうかい? 感謝されるのは嫌いではないが、そろそろ頭を上げてくれ。むず痒くて堪らないよ」
その言葉を聞いた殿下とメイドたちは席に戻る。
「師匠が長生きだとは聞いていましたが王国の設立に関わっていたのですね……完全に年寄りじゃないですか!」
「何をいっているのかな? どう見ても若いエルフだろう」
「見た目だけは私よりも若く見えるから性質が悪いのよね……ターベスト王国の建国は今から約千年も前だから……」
「こら! そこ! 計算しない! 女性の年齢は数えちゃダメだからね!」
指摘されたビスチェは指を折っていた手を開き、あからさまな笑顔を向ける。
「宜しい。それよりもだよ。もう試練の時期なのかい?」
「はっ! 今年で十五になりダリル・フォン・ターベストは王家の試練に挑む事になりました。それとお願いがもう一つありまして……」
眉間にしわを寄せたダリルは言い淀むが、隣に座るメイドは口を開く。
「殿下の呪いを解呪して頂きたいのです」
「ああ、それでフォークボアが平原からここまで追いかけて来たのね~」
神妙な顔つきで話すメイドとは対照的にお気楽に話すビスチェ。ダリルは静かに頷く。
「呪いとは……王家はいつまでも変わらないねぇ……」
笑顔を崩さずそう述べると、何処からともなく取りだした年季の入った杖を翳し光がダリルを多い光が弱まるとため息を吐くエルフェリーン。
「これは純魔族案件だね……」
そう口にするのだった。
お読み頂きありがとうございます。
この後もあと三話を予定しています。もし宜しければお付き合いください。