持て成される草原の若葉たちとクロのお返し
その後は元気になったフェンリル一家に別れを告げ、更に高い所へと向かうのかエルファーレを先頭に階段を進む。
「元気になって良かったわね。それに毛並みもサラサラで触り心地が気持ち良かったわ」
「僕は腰を抜かしてしまって……」
「あれだけ大きなフェンリルが横を駆け抜けたら誰だって驚くだろ。顔つきも鋭くて牙や爪が鋭い所を見れば怖いって」
「白亜さまの方が可愛かったのだ!」
「キュウキュウ~」
ここへの目的も果たしリラックスした一行は階段を上りながら会話を楽しむ。
「目的の一つは果たしたからね~あとは海のダンジョンで採れる薬草採取と南国気分を味わないとね~」
≪海とかで泳ぎたいですね~水着はクロ先輩が出してくれますよね?≫
目の前に浮かぶ文字に水着を思い出すクロ。サイズ的にはどうだろうと思いながらも、試しに魔力創造で作り出したハーフパンツ型の水着に足を止める一行。
≪ここはスクール水着を作り出す所でしょうが!≫
クロの手には男性用のハーフパンツ型の水着が現れアイリーンからのツッコミに文字を左手で追い払う。
「女性物を魔力創造で作るのは少し抵抗があるな……作れる気もするが……ああ、師匠の水着は妹のサイズで大丈夫かもしれないけど……」
立ち止まり妹の水着姿を思い出し師匠と見比べるクロに、水着という文化のない者たちは頭を傾げる。
「よくわからないけどその話は上でしようか。ここは階段だからね~足を踏み外すと危ないよ~」
先に進む事を優先したエルファーレの言葉を受け動き出す一行。足を勧めながらも水着について思い出そうとしているクロは雑誌を魔力創造で作り出すと、瞬時にアイリーンがかすめ取りページを捲りながら足を進め、クロはもう一度雑誌を魔力創造するとシャロンが横に並び同じ歩幅で雑誌に目を向ける。
「クロさんの元居た世界はやっぱり凄い技術ですね。それに大胆というか、露出度が多いというか……刺激が強いです……」
インキュバスであるシャロンから出た言葉に、イナゴ退治に参加した母親のカリフェルや姉のキュアーゼが魔化した姿も変わらないだろと思うクロ。
「ほら、もう上に着いたからね~ここは僕が普段から使っている部屋だよ~」
扉が開き中へと進むと広い空間には大きな窓があり、そこからの景色は太陽が降り注ぐ青い海と島々が見え絶景が広がる。室内は南国を思わせる編み細工や竹で編んだソファーに石を削り出して作られたテーブルやハンモックなどが吊るされている。
「隙に座ってくれていいからね~お茶を出すけど甘い方がいいかな?」
暖炉へと向かい薪を入れるとキラキラとした光りが現れ発火した事に驚くクロとシャロン。
「火の精霊が力を貸してくれたわ……」
ビスチェの言葉に微笑みを浮かべたエルフェリーンは更に解説をする。
「この近くには火山があって火の精霊が多いから力を貸してくれるんだぜ~今も暖炉の中やクロの魔剣に興味があるのか漂っているぜ~」
「これですか? うおっ!? 輝いてるな……」
魔剣を鞘から抜くとキラキラとした精霊の光が集まりアイリーンが文字を浮かべる。
≪背中が燃えている小さな蜥蜴が見えますね。赤い小鳥も見えますよ≫
まるで霊能者の様な事を言うアイリーンに、クロは目に魔力を集中させると薄っすらではあるが小さな蜥蜴の形が見え「おお、薄っすら見えた……小さな蜥蜴だな……」
「火の精霊の中でもまだ力が小さなものだね。精霊の多くは寿命がないけど、生まれたばかりの精霊は色々なものに興味を示すからね。同じ属性の火の力を感じて仲間だと思っているのかもしれないね」
エルファーレがクロの魔剣を見つめ嬉しそうに話すと、下から先ほど報告へ向かった褐色のエルフが現れ、手にはトレーを持ち氷を入れた涼しげなグラスには紅茶が入れられ、その後ろにはもう一人の褐色エルフが果物を入れたバスケットと水差しを持ち登場する。
「お茶をお持ち致しました」
「私が入れようと思ったけど助かるよ~お茶はあまり得意じゃないからね~」
笑いながら二人を迎い入れたエルファーレがテーブルへと向かいクロは魔剣を鞘へと納める。
「フェンリルの子を救って頂きありがとうございます」
「これからはより厳しく生の魚を食べないよう注意致します」
テーブルにお茶のセットを置くと二人がお礼を言い頭を下げ、クロたちも座りながら軽く頭を下げる。
「それが僕たちの仕事だからね~気にしないでよ。それよりも果物を剥いてくれよ! どれも見た事のない物ばかりだよ!」
≪スターフルーツやドラゴンフルーツにバナナに似た物が多いですね~如何にも南国感があっていいですね!≫
「パイナップルが欲しくなるな」
頭を上げた二人はナイフで器用に皮を剥き皿に乗せるとエルフェリーンが真っ先に口に入れキャロットが続く。
「甘くて美味しいぜ~シャリシャリとした果肉が癖になるよ~」
「これは美味しいのだ! 白亜さまも喜ぶのだ!」
素直に褒める二人に白亜が大きく口を開けあ~んをして待ち、キャロットが星の形をした果物を入れると美味しかったのか尻尾を床に数度叩きつけ喜びを表す。
「おお、美味しいですね。味もスターフルーツに似て酸味の中に甘みが確りとあります」
≪これは食感がスイカに似て美味しいですよ! 塩が欲しくなりますね!≫
「うん! どれも美味しいね。大きな種が気になるけど甘くて美味しいよ」
「サキュバニア帝国では見た事のない果物ばかりですね」
他の者たちも果物を口に入れ表所を溶かし、クロはアイテムボックスのスキルを使い日本酒やウイスキーにお手製のどぶろくを取り出すと、簡単な説明をして褐色エルフの二人に手渡す。
「これはお返しというわけではありませんがお納め下さい。この茶色い瓶お酒はかなり強い酒なので注意して飲んで下さい。この壺に入れたどぶろくは自分が作ったものですが神さま方にも奉納しているものなので口に合えば幸いです」
「ご丁寧に、ありがとうございます」
「お土産まで頂きまして、フェンリルの子を救って頂いた恩人なのに……」
「お酒よりもチョコをあげるといいのだ!」
「キュウキュウ~」
「白亜さまは唐揚げをあげるといいと言っているのだ!」
キャロットと白亜の気遣いなのか、気に入った果物のお返しはチョコにしろという言葉にクロはアイテムボックスから個包装されたチョコの袋を五つほどとギガアリゲーターの唐揚げ取り出すと二人に持たせる。
「これがチョコというお菓子です。ほろ苦く甘い物ですのでご賞味下さい。ああ、まわりの袋を剥いてから食べて下さいね。まわりの袋はビニールといって食べられませんので、あと、ビニールは燃やすと体に悪い煙が出ますから捨てずに後で自分が回収しますね」
「体に悪い煙……」
「毒なのですか?」
体に悪いと聞き表情を曇らせる二人の褐色エルフ。
「そこまで強い毒というわけではないので気分が悪くなる程度ですね。それよりもビニールを口に入れる方が、消化が出来なくて危険ですからそこは注意して下さい。幼いフェンリルが間違って口にすると危険ですから」
クロの補足説明に納得したのか深々と頭を下げる褐色エルフの二人。
「私もチョコは食べたけどアレはとても美味しいよ~みんなで分けて食べるといいよ~」
エルファーレのお墨付きが出た事で表情をパッと明るくすると、二人の褐色エルフは頭を下げ部屋を後にするのだった。
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