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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第八章 南国のハイエルフ
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構って欲しい白亜とフェンリル一家



「私は皆にフェンリルの子が良くなったと知らせてきますね!」


微笑みを浮かべ手には缶詰のドックフードを持ち、頭を下げて退出する褐色エルフ。


「本当に良かった……それにしてもどうして寄生虫が……う~ん、君は生で魚を食べたのかな?」


 ジト目を向けるエルファーレにビクリと体を竦める幼いフェンリル。クロの腕に抱かれているがそのビクリとした反応はクロにも伝わり涙目で「くぅ~ん」と鳴き声を上げ、クロへ助けてと訴えているようである。

 背中には白亜が抱き着いたままであり鳴き声は収まったが首の下辺りでグリグリと額を擦り付け続けている。


「生食はあれほど危険だと僕は口を酸っぱくして教えているのに……」


「生の魚は美味しいけど寄生虫が心配だからね~料理の仕方を工夫すれば生でも食べられるけど、僕はクロの魔力創造で作られた魚の方が安全で嬉しいかな~」


 以前、鮨を魔力創造して食べた事を思い出したのかクロへと視線を向けいい笑顔を作るエルフェリーン。


「あれは美味しかったわね! 下のご飯が少し酸っぱくて上の魚は蕩けるようで美味しかったわ!」


≪鮨は日本文化の頂点ですからね~海外の人が食べるとよく驚かれますよ~≫


「海外というよりここは異世界だけどな、わっぷ」


(人間、感謝、食べたい)


 顔を母親フェンリルに舐め上げられたクロの頭に単語で文字が伝わりダブルで驚き、へっへと息をするフェンリルと瞳を合わせる。


「あの、人間、感謝、食べたいと伝わりましたが、これが念話ですかね?」


「頭に響いたのならそうだね。さっきこの子が食べていた物を食べて見たいのだろう。私が買い取るから与えてやってくれないかな」


 エルファーレがクロから幼いフェンリルを抱き上げると魔力創造で同じ缶詰のドックフードを創造し皿に移すと「私も欲しいのだ!」と声を上げるキャロット。


「これは塩分控えめで美味しくないとか聞いた事があるが本当に食べるのか?」


 皿に移したドックフードを母親フェンリルの前に置くと、お礼の心算なのかクロの顔面を舐め上げドックフードを口にするフェンリル。


「頼むから舐めるのは次から止めてくれ……それでキャロットはどうする?」


「キュウキュウ!」


「白亜さまと半分こするのだ!」


 元気に答えるキャロットに三度目の魔力創造で作り出したドックフードを皿に開け二つに分けるクロ。白亜が背中から降り口に入れ、キャロットも手掴みでそれを口に入れると何やら表情が曇る。


「キュウキュウ~」


「あまり美味しくないのだ……」


 反応は真っ二つに分かれ白亜は美味しいのか尻尾を振りながら口にし、キャロットは眉間に深い皺を作る。


「だから言ったろう。これはあくまでも動物用で……」


 そこまで口にしたクロは人間とドラゴニュートの違いに味覚は同じなのかもと思案する。


≪ドックフードやキャットフードも人間が味を見ているそうですよ≫


 アイリーンからの文字が飛びクロも知っている情報であったのか「そうだよな~」と口にする。


「白亜とフェンリルは美味しいと感じて、ドラゴニュートは美味しいと感じなかったのか……」


「あははは、それは普段からクロの料理を食べているからだね~白亜もクロの料理を食べてはいるけど本来ならあまり塩を使わない薄味なものだからじゃないかな~」


≪野生動物に近いからですかね?≫


「うんうん、そうだね。白亜が食すものはドラゴニュートが用意しているけど肉々しい料理が殆どだろう?」


「そうなのだ! 肉を茹でたものを解すのだ! 後は果物と焼いた魚の骨を外したものなのだ!」


 竜の巫女であるキャロットはその料理を手伝った事もあり、白夜と白亜には塩をあまり使わないと教えられていた事を思い出したのか声を上げる。


「そうすると今度からは白亜だけ別の料理に、ん?」


 クロが口にした言葉に白亜が足にしがみ付き顔を横に振り続ける。


「白亜さまも一緒の物が食べたいのだ! 仲間外れはダメなのだ!」


 キャロットの言葉と涙目で首を横に振り続ける白亜に、発言を撤回しようと思うクロは白亜を抱き上げる。


「ごめんな。一緒の料理を食べような」


「キュウキュウ~」


 甘えるようにクロの胸に額をグリグリと押し付ける白亜。


「もっといえば、肉がいいのだ! 骨付き肉の方が肉を食べている感じがして尚いいのだ!」


 さらっと自分の欲求を付け加える白亜に一同が笑い、元気になった幼いフェンリルと母親フェンリルがキャロットと白亜が残したドックフードを口にする。


「大きくて怖いと思いましたが、尻尾を振って食べる仕草は可愛いですね」


「そうだね。子供も元気になって良かったよ」


 少し離れた位置でフェンリルの親子を見つめるシャロンとメルフェルンは、この部屋に入った時から母親フェンリルの大きさと顔の怖さに恐怖しており入口近くで治療の様子を眺めていたのだ。


「アイリーンさまの浄化魔法は洗濯や皿洗いで見る機会が多いのですが、寄生虫までも退治できるのですね」


「カレーの染みに絶望しかけた時も浄化魔法に救ってもらったね。あの魔法は凄い魔法だと思っていたけど、命を救う魔法だったとは……」


≪命を救うは大げさですよ~本来の浄化魔法は厄災を退ける為の魔法ですからね~≫


 飛んできた文字を見つめるシャロンとメルフェルン。その後ろから白い影が駆け抜け驚き腰を抜かす二人。


「わふっ!」


 現れた一頭のフェンリルは母親フェンリルよりも大きく大型バイクサイズの体躯には強靭な牙と爪が生え白く美しい毛並みには光沢があり、何よりもその眼光には力を感じる。

 そんな成体の雄のフェンリルが急に目の前に現れれば腰を抜かすのは仕方のない事だろう。


「わふっ!」「キャン!」


 ドックフードを食べていた母親フェンリルと幼いフェンリルが顔を上げ、雄のフェンリルが近づくと互いに頬を重ね幼いフェンリルは大きな舌で舐め上げられ尻尾を振り喜びを分かち合っている。


「この子は父親で群れのリーダーだよ。見てくれよ、この鋭い眼光と風格のある体躯に白く艶やかな毛並み! それに巨大化のスキルがあってね、凄く大きくなれるんだ! この部屋では無理だけど外で大きくなってもらい、サラサラな毛並みに体を預けて後でお昼寝しようよ!」


「わふっ!」


 父親フェンリルも一緒のお昼寝が嬉しいのか声を上げ尻尾を振るい、一同を見渡すようにゆっくりと頭を動かす。すると、


(我が子、治った、感謝)


 この場にいる全員の頭に念話が送られ父親フェンリルからのお礼を受け取る一同。


「感謝するといいのだ!」


「そうね! 私たちが来たから寄生虫も退治できたのよ!」


 キャロットとビスチェが腕を組みドヤ顔をすると夫婦フェンリルが頭を下げ、幼いフェンリルはアイリーンへと駆け出し受け止め抱き上げると頬をペロペロと舐め感謝し、その横では怯える白亜を抱き上げたクロは魔力創造で缶詰のドックフードを創造する。


「ドヤ顔をしていないでビスチェはこれを開けて皿に入れてくれ」


「そうね! 貸しなさい!」


 クロから受け取った缶詰を開け親子が食べた皿に移すと(感謝)と念話が放たれ口にする父親フェンリル。

(美味い、肉、感謝、美味い、不思議、美味い、柔らかい、肉?)と念話が放たれほぼ一口で食べ終えた父親フェンリルは名残惜しく皿を綺麗に舐め、ビスチェは優しく頭を撫でその撫で心地に表情を緩めるのだった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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