鑑定とフェンリルの治療
一行が案内された場所は神殿の奥にある吹き抜けエリアで太陽の光が入り人工的だが庭園を思わせる風景が広がる。そこにはフェンリルのメスたちが両手に乗るサイズの赤ちゃんフェンリルに乳を上げており警戒の唸り声を上げたが、エルファーレが手を上げるとその鳴き声はピタリと収まり、フェンリル以外にも褐色のエルフが数名おりフェンリルたちにブラシをかけて回っている。
「ここはフェンリルの子供部屋だね~お母さんフェンリルが赤ちゃんフェンリルにお乳をあげているんだ。他にも毛繕いをしたり奥ではお風呂に入れたり、爪とぎもあの大きな重鉱石でするからね~フェンリルの爪は固いけど魔力を帯びていない状態なら硬い重鉱石で研げるからね~」
簡単に紹介しながら足を進めるエルファーレの後ろをクロは恐る恐る進み、その後ろにはシャロンとメルフェルンが続き、キャロットは震える白亜を撫で、ビスチェとアイリーンは特に臆することなく足を進める。
「生きた心地がしないのだが……」
クロが漏らした言葉にエルフェリーンが笑い声を上げる。
「大人のフェンリルは大きいし顔も怖いからね~でも、フェンリルは頭がとても良いから問題ないぜ~こっちからちょっかい掛けなければ大人しいものだよ。グリフォンと同じで仲間意識が高く優しいからね~一度餌をあげれば大抵のフェンリルとは仲良くなれるぜ~」
「エルフェリーンが言う通りだよ~ここのフェンリルは特に頭がいいからね~大人のフェンリルなら念話も使えるからさ、診察終わりにでも話してみるといいよ~」
念話とは意思を強制的に送るもので、どうして欲しいかを伝えるものである。簡単な単語が頭に送られて来るものが殆どで、エルフェリーンが使う念話は会話に近く長文を相手に送る事も可能である。ただ、離れた相手にはマナの影響や地場の影響などを受けやすく聞き取りづらい事もあるので注意が必要である。
「へぇ~優秀な子が多いね~」
「そりゃそうだよ~神獣として祭られているからね~この辺りの魔物はフェンリルのおかげで神殿や村に近づかないのさ」
得意げに話すエルファーレは足を進め階段に差し掛かると追い掛けて来ていたフェンリルの子供たちからは名残惜しそうな鳴き声を上げ、エルフェーレは振り返り優しい笑みで手を振る。
「ここから先は神殿では入れるものが限られるからね~客人は通ることを許されているがフェンリルは上位のものしか入ることが出来ない特別な区画だね~滅多に病気にならないフェンリルなんかは入れるけど……」
会話が止まり俯きながらも足を進めるエルフェリーンに一行も続き三階ほどの高さを上ると開けた区画があり、成体のフェンリルが顔を上げその横にはぐったりとしたまだ幼いフェンリルが伏せている。毛並みが悪くぼさぼさとした印象で目が充血しており明らかに体の調子が悪そうに見えた。
「見るからに体調が悪そうだね……」
「もう四日も何も口にしておりません。症状としては嘔吐と若干の微熱に目の充血です。栄養を取っていないので持って数日かと……」
「クロ、ここで降ろしてくれ。僕が鑑定してみるよ」
ここまで付いてきた褐色のエルフの言葉にエルフェリーンは薬師として動くのか、クロから降りると効きそうなポーション各種と薬をアイテムボックスから取り出すと天魔の杖を掲げて本来の姿である大人な黄金の瞳のハイエルフへと姿を変える。
「鑑定………………なるほど……寄生虫が原因みたいだね……まだ胃に齧り付いているよ……」
「えっ!? 寄生虫だって! どの子も生の魚は食べないよう言っているのにどうして!」
エルフェリーンの鑑定結果に目を吊り上げるエルファーレ。その怒声に身を竦ませる大人のフェンリルと褐色エルフ。
「くぅ~ん……」
悲しそうになく幼いフェンリルは尻尾を丸め、ごめんなさいとでも謝っているように見える。
「寄生虫って事は虫下しの薬ですか? それと胃酸を強める薬にしますか?」
ビスチェが先ほどアイテムボックスから取り出した薬やポーションを手に取ると、首を横に振るエルフェリーン。
「いや、アイリーンの浄化魔法でも十分だと思うよ。だ、か、ら、クロがアイテムボックスから出したエリクサーは使わないからね」
悲しそうに鳴く幼いフェンリルの子供を見て思わず取り出したエリクサーと呼ばれる伝説的な回復薬を握り締めていたクロは師の言葉を受け、自身のアイテムボックスへと入れると代わりに幼いフェンリルでも食べやすいだろうドックフードの缶詰を魔力創造で作り出す。
「まったく……クロらしいけどそういった行動は控えなさいよね……エリクサーを持っていると知られたら命を狙ってでも強奪しようとする輩が星の数ほどいるからね!」
「悪い……」
エルフェリーンとビスチェから呆れられ注意を受けるクロは、反省しながらアイリーンがゆっくりと近づき幼いフェンリルに浄化魔法を施す。
≪浄化の光よ~≫
幼いフェンリルが輝きそれを心配そうに見つめる母親のフェンリルとエルファーレに褐色エルフ。光が治まると顔を上げた幼いフェンリルは「キャン!」と元気な鳴き声を上げ浄化魔法を施したアイリーンへと尻尾を振り、心配そうに見守っていた母フェンリルが頬を舐めると嬉しそうに目を細める。
「鑑定………………うん! 寄生虫はいなくなったね! 栄養不足と空腹はあるけどもう大丈夫だよ」
再度鑑定をして元気になったと微笑むエルフェリーンにエルファーレは「やった! 元気になった!」と叫び微笑みを浮かべたエルフェリーンに抱き着き何度もお礼を叫ぶ。
「エルフェリーンさまにアイリーンさま……ありがとうございます……」
「わふっ!」
褐色エルフと母親フェンリルからもお礼の言葉が送られ≪いえいえ~元気になって良かったですね~≫と文字を浮かせると、母親フェンリルから飛び出した幼いフェンリルは足元へと走り額を何度も擦り付けそれを笑顔で撫でるアイリーン。
「ほら、元気になったのならこれを食べるといい」
クロが魔力創造で作り出したちょっとお高い缶のドックフードを開け皿に移し幼いフェンリルの近くに置くと、鼻をスンスンとしながら匂いを確かめひと舐めすると一心不乱に食べ始める。
「おお、中々の食べっぷりだな。これならすぐに毛並みも良くなるな」
「あの、何をあげたのでしょうか?」
「ああ、勝手に餌付けして、」
「いえ、それは構わないのですが、あまりにもよく食べるので」
「これは自分の故郷の缶詰というもので、ペットの必要な栄養が詰まった食品ですね」
≪まっしぐら~まっしぐら~ワンコがまっしぐら~ですよね≫
アイリーンが鼻歌でCMソングを歌い文字を浮かばせると、興味があるのか褐色エルフはクロの持つドックフードの缶を見つめる。
「これは初めて見る狼ですね……垂れた耳に愛嬌があります……」
「新しいのを出しますね」
魔力創造で新たなドックフードの缶を魔力創造し手渡すとそれをあらゆる角度から見つめる褐色エルフ。幼いフェンリルが皿まで綺麗に舐め取り完食すると缶詰をくれたクロへと飛びつき額を胸にグリグリと擦り付け、母親フェンリルもまたお礼なのかクロの頬をベロリと舐め上げると悲鳴に近い鳴き声が上がりクロの背中に衝撃が走る。
「うおっ!? ん? 白亜か、どうしたんだよ」
「キュウキュウキュウキュウキュウキュウ!!!」
「白亜さまが怒っているのだ! クロは白亜の物なのだと言っているのだ! あと、私もそれが食べたいのだ!」
褐色エルフが持つ缶詰を指差し言葉にするキャロットに苦笑いを浮かべるクロ。アイリーンは爆笑しながらお腹を押さえ、白亜は背中で抗議の鳴き声を上げ続けるのだった。
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