フェンリルの里
準備を終えた一行はエルフェリーンの転移魔法でゲートを開きエルファーレの国へと転移する。
「お土産を期待していますからね!」
「皆さま、気を付けて下さいね」
病み上がりのルビーとメイドのメリリを残し転移した先は石造りの神殿であった。一枚岩の巨岩を切り出し作られた神殿は壮大なもので、多くの柱にはエルフェーレだと思われる女性の彫刻や女神を象ったものにフェンリルなどの彫刻が施されている。
「ふっふっふ、どうだい私の家は! 広くて立派だろう!」
ドヤ顔をするエルファーレに歯を食いしばり悔しそうな表情を浮かべるエルフェリーン。他の者たちは素直に立派な神殿に目を奪われ食い入るように見つめる。
「この狼がフェンリルなのかしら?」
「こっちには神々の姿も……」
≪あんな高い所まで彫刻がありますね。ドラゴンやクマにサソリと色々ありますね≫
「この近くに住む魔物が彫ってあるんだ。多くの島が集まっているからね~島によって特色があってね住む魔物や取れる果実も違うんだ」
自慢気に語るエルファーレは笑顔で歩みを進め、一行も足を進める。
「きゃふっ!」
どこからか犬の鳴くような声が聞こえ足を止める一行。
「きゃっ!?」
最後尾にいたメルフェルンが驚きの声を上げ振り返ると真っ白い子犬が足に頭を擦り付けており、シャロンがしゃがみ手を差し伸べると撫でて欲しいのか頭をグイグイと押し付けてくる。
「ふふ、これは可愛いですね」
シャロンが抱き上げると尻尾を振りながら頭を撫でられ目を細める白い子犬。
「この子たちがフェンリルの子供だよ~」
≪たち? ふわぁ~いっぱい来ました!?≫
神殿の奥からぞくぞくと走って現れるフェンリルの子供たち。どの子も子犬サイズで可愛らしく人懐っこい性格をしているのか、足に頭を擦り付けたりグルグルと回ったりと元気いっぱいである。
「わわわわわ、これは可愛いけど多いよ! 多いよ! わっぷ!」
飼い主であるエルファーレに似ているためかエルフェリーンに多くのフェンリルが集まり、何匹ものフェンリルに顔や腕を舐められもみくちゃになり慌ててクロが助けに入る。
「師匠! 大丈夫ですか?」
「うぅぅぅ、一匹だと可愛いけど、集団になると恐ろしいね……うへぇ、ベトベトするよ~」
抱き上げたエルフェリーンの言葉に笑い声を上げるエルファーレ。ビスチェやアイリーンにシャロンは集まって来るフェンリルを撫で続けており、舐められるといった事はないようで尻尾を振って目を細める。
「可愛いけど白亜さまの方が可愛いのだ!」
白亜を抱いているキャロットは足元にすり寄って来るフェンリルの子供を撫でる事はせず、多くのフェンリルの姿に身を震わせている白亜の頭を優しく撫で続けている。
「可愛らしいのですがすべて子供なのですか?」
メルフェルンの疑問にフェンリルの一匹を抱き上げたエルファーレが口を開く。
「ここには子供だけだね~もう少し奥へ行くと成体のフェンリルがいるよ~雄のフェンリルは狩りに出かけているから夕方には戻って来るかな~」
「わふん!」
抱き上げているフェンリルもそうだと言わんばかりに軽く吠える。
「ほらほら、撫でながらでもいいから先に進もう。早く患者を見せてくれ……」
クロから貰ったおしぼりで顔と腕を拭くエルフェリーンはこの状況から早く逃げ出したいようで、目的である体調の悪いフェンリルを見に行くよう口にする。
「あはははは、そうだね! 早く治してあげたいからね~進もうか」
エルファーレが歩みを進めると集団で動き出すフェンリルたち。ビスチェやアイリーンが撫でていたフェンリルも動き出し一同は奥へと進む。
「師匠、そろそろ降ろしても、」
「ダメ! またベロベロと舐められるのは嫌だよ! 今日はクロから降りないからね~」
クロに抱き着き降りようとしないエルフェリーンに困りながらも足を進めるクロ。視界にはエルファーレが先頭を進みその後をフェンリルたちが歩き尻尾を振っている。
「エルファーレさま!」
奥から声が響きエルファーレと同じような褐色の女性が声を上げこちらへと走って来る姿が目に入り、揺れる大きな胸に一瞬目が奪われるクロ。
「むっ、あれは砂エルフ?」
「やあ、妹を連れて帰ったよ~エルフェリーンは錬金と薬学の専門家だからきっとフェンリルの子を元気にしれくれるよ~」
やってきた褐色のエルフに反応するビスチェ。しかし、その女性はエルファーレに鋭い視線を向ける。
「エルファーレさま、どうして我々に相談せずに居なくなるのですか! 我々がどれほど心配したか……うぐっ……」
薄っすらと浮かんだ涙が頬を伝い流れ落ちるとエルファーレとクロたちには気まずい空気が流れ、助けを求めるようにクロに抱き着いているエルフェリーンへと視線を向ける。が、肝心のエルフェリーンはクロに抱っこされご機嫌になっており我感ぜずという雰囲気を醸し出している。
「えっと、えっと……ごめん、ごめんよ。私はフェンリルの子が心配で、心配だからエルフェリーンを連れて診て貰おうと……ごめん……」
「くぅ~ん」
それなりに反省しているのか頭を下げて謝罪するエルファーレ。後に続くフェンリルの子たちも空気を察して悲し気な鳴き声を上げる。
「うっぐ、わ、わかっていただけたのなら……ぐす……もういいです。生意気な事を申しまして……本日はようこそフェンリルの里へ……ぐすん……エルファーレさまの妹さま方……」
涙を流しながら頭を下げる褐色エルフにクロたちも頭を下げる。
「まったくエルファーレはダメだね~心配させるのは子供の証拠だぜ~」
「そういう師匠も自分たちを心配させる事はありますからね。徹夜で錬金したり、純魔族を相手に戦ったり、お酒を飲み過ぎたり」
抱き上げられているクロからの言葉に顔を明後日の方向へと無理して向けるエルフェリーンに褐色のエルフは微笑を浮かべ、アイリーンやビスチェも思う所があるのか無言で数度頷く。
「あはははは、エルフェリーンも一緒じゃないか~ほらほら、ここで話していてもあれだから早くフェンリルの子を診てくれよ」
微笑を浮かべた褐色のエルフの背を押し先に進むよう促すエルファーレ。
「そうですね。お茶もお出ししたいですし、何より苦しむ子を早く見て下さい」
丁寧に頭を下げる褐色エルフに「任せてよ!」と声を上げるエルフェリーンは抱っこされていてもこの場にいる誰よりも頼もしく思えるのだった。
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