精霊信仰とメリリの頼み
「あら、本当に師匠とそっくりな顔なのね」
≪最早、2Pカラーですね!≫
菜園と狩りから戻ったビスチェとアイリーンは初めて見るエルファーレと挨拶し感想を漏らす。
「精霊たちがざわついていたけど師匠と負けず劣らずな魔力量……」
「これでも抑えているからね~」
「ね~。僕たちが魔力を抑えないと怖がる魔物たちが逃げ出して、下手したらスタンピードが起きてしまうからね~」
仲良さげに話す二人のハイエルフに顔を青くするルビーとメルフェルン。シャロンも若干顔を青くし不安な瞳をクロに向ける。
≪その為の幼女化ですね!≫
アイリーンの文字を見た二人は笑い合う。
「子供の姿をする理由は解ってくれたと思うけど幼女化とは、あはははは」
「幼く見せると色々有利な事もあるだぜ~クロがお菓子をくれたり、まわりの大人たちが優しかったり、食べる量も少なくて済むんだぜ~」
「精霊たちは純真な子供を本能で守る事があるわね!」
「困った子供を助ける精霊の話は多いですね。森で迷子になったら妖精が助けてくれたというお話もあります」
ビスチェとルビーがいうようにその様なおとぎ話は多く、精霊や妖精を信仰する者たちも多い。実際、妖精のリーダーが迷子になった子供を助けた事もあるし、ビスチェと契約している風の精霊は幼い時にビスチェを助けた縁で契約したのだ。王城に現れた音楽好きな精霊もハミル王女とアリル王女の歌を気に入り、二人が歌うとキラキラとした姿を現せている。
「へぇ~こっちの世界にもそういう物語が多くあるのか」
≪精霊や妖精の話は日本でもありましたよね~他にも優しい鬼の話や悲しい人魚の話とか≫
「こっちの世界……ああ、君たちが残った異世界人と転生した元異世界人だね!」
クロとアイリーンを見つめ目を輝かせるエルファーレは興味津々なのか身を乗り出して早口で捲し立てる。
「あっちの世界はどんな世界なのかな? エルフはいるかい? 魔法はどんなものがあるのかな? 馬要らずの馬車が走ると聞いた事があるけどそれはゴーレムかい? 教育制度についても知りたいな! 後は、後は………………この世界はどうかな? 楽しいかな?」
矢継ぎ早に話されたエルファーレの質問に二人は身を仰け反らせ、最後の質問にはアイリーンが文字を浮かせる。
≪こっちの生活は楽しいです! あっちの世界では受験勉強の日々でしたから……≫
「俺も楽しいですよ。今朝もそうですがみんなで食事をしたり、雑談をしたり、お酒を作ったり、冒険をしたり、イナゴ退治は大変でしたが、毎日が楽しいですね」
二人の言葉に笑顔を浮かべるエルフェリーンとその仲間たち。エルファーレも笑顔を浮かべるとチョコを手に取り口に入れる。
「クロはゴリゴリ係として確りやっているわ。これからの時期は乾燥させた薬草をゴリゴリするわよ。それに雪被り草も採取をしないとね!」
「雪被り草か……あれは見つけるのが大変だよな……」
「それは精霊の声を聴かないからよ」
腕を組みドヤ顔をするビスチェにクロは「聞こえないんだよ!」とツッコミを入れながらも、昨年は雪深い山に入り苦労した事を思い出す。
「去年は雪が多かったからね~一メートルも積もったから雪堀になったぜ~」
「そんなに積もるのかい!? ここは極寒の世界だ……」
「その為の結界だよ~結界さえ張っておけば雪かきは必要ないし、薬草も枯れずに育てられるからね~」
錬金工房を中心として強固な結界が施されており入口以外からの侵入はドラゴンでも難しいだろう。他にもキラービーの巣や蔓芋を植えた荒野の一部に結界を施してあり雪が降っても心配がないように設計されている。
「僕の住む地は雪が降らないからね。その代わりに雨が多くて大変な時期もあるけど、一年中葉が茂り花が咲き乱れる素敵な所だよ。って、話し込んでしまったけどエルフェリーンが観てくれるのかい?」
「もちろんだぜ~僕が直接出向くさ! 可愛い妹の頼みは聞かないとね!」
「むっ! お姉ちゃんの為に頑張ると言って欲しかったな……」
「じゃあ、みんなも行きたい人は旅の準備を始めてくれ。暑い場所だから薄着で大丈夫だけど雨によく降られるから着替えは多めにね」
エルフェリーンの言葉を聞き準備に動き出す『草原の若葉』たち。
「そういえば飼っている魔物の体調が悪くなったと聞きましたが、何を飼っているのですか?」
「うん? ああ、私の飼っているフェンリルの一頭が、もう三日も何も食べてくれなくてね……」
≪フェンリル!? 神にも噛みつくと言われる伝説の魔獣!≫
クロの疑問に答え、その答えに驚き文字を浮かべるアイリーン。
「神に噛みつく? いやいや、そんなに恐ろしい魔物じゃないよ~フェンリルは真っ白い狼でちょっと他の生物よりも大きくて、毛並みが細く繊細で触り心地が良くて、フェンリルに背を預けると尻尾を優しく乗せてくれる愛玩動物だよ~」
≪何それ可愛い! 私もフェンリルちゃんたちと仲良くしたいです! 私は回復魔法がそれなりに使えますので病気ならお手伝いさせて下さい!≫
「それは頼もしいね! 僕もそれなりに回復魔法は使えるけど攻撃魔法の方が得意だからね~その時はお願いするね!」
≪はい! 任せて下さい! 最悪は悪い所を切り取って回復させますから!≫
浮かんだ文字を見て苦笑いを浮かべるエルファーレ。回復魔法の文化であるこの世界では外科手術は確立されておらず、深手を負ったら回復魔法かポーションで治すのが常識であり、切除という単語に身を震わせる。
「アイリーンのハイヒールやエクスヒールなら可能かもしれないけど、ちょっと怖いね……」
エルフェリーンでさえ恐怖を覚えたのか数歩後ろに下がりそう口にすると、アイリーンは「えっ、えっ、私が魔物だった時はそうやって乗り越えた事もあったのに……」と軽く凹む。
事実、アイリーンがまだ蜘蛛の魔物だった頃は壮絶な自然の中で食うか食われるかの戦いに明け暮れていた。格上相手に腕の一本を犠牲にして勝利を掴む事すらあったのだ。アイリーン自身が回復魔法を使えた事もあるのだが、一歩間違えれば即、死に繋がる危険な戦いも多く経験しているのである。
「お前の強さの根源を見た気がするよ……」
そうクロから声を掛けられたアイリーンは肩を落とし、それを慰めるように白亜がチョコをひとつ手に乗せアイリーンの上着の裾を引っ張る。
「キュウ~キュウ~」
「はい? 白亜ぢゃん……ありがとう……」
気を使ってくれた白亜に自らの口でお礼を口にするアイリーンは、受け取った少し溶けたチョコを口に入れ笑顔を向ける。
「白亜さまは優しいのだ! クロも見習うといいのだ!」
「俺は優しくしている心算だけどな……はぁ……俺も準備をはじめるか……」
「あ、あの、クロさま、少しお願いがありまして……私はまた残りますので、その、あの……」
「残るのですか?」
「はい、寒いのは苦手ですが、この雪の中でここを訪れる者がいたら大変でしょう。その代わりといっては何ですが、できたらレモンハイとカイロを、あと温めるだけで食べられる食品も……ダメでしょうか?」
手を合わせ上目遣いでお願いをするメリリにクロは快く引き受け、それらの食品などをアイテムボックスと魔力創造で作り出すとテーブルに広げる。
「ありがとうございます~これで寒さも怖くないですよ~」
テーブルの上に広がるカイロやレモンハイにレトルト食品を自身のアイテムバックへと片付けるメリリ。
その光景を目にしたエルファーレは目を見開き固まり、初めて近くで見る魔力創造に固まるのだった。
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