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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第八章 南国のハイエルフ
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ハイエルフの姉妹



「連れて来たぜ~」


 玄関のドアが開きエルフェリーンが元気よく入って来ると、その後ろからは小麦色の肌をしたエルフェリーンそっくりな少女が顔を出す。


「ふぅ……中は温かいね~こっちが冬な事を忘れていたよ~へっくちっ!?」


 大きなクシャミをしながら入って来た少女はアオザイに似た薄手の長い上着を着ているのだが生地が薄く、暖かい地域からやって来た事が窺える。


「ほらほら、早く中に入って温まろうぜ~」


「うん、あっちは暑かったから暖炉で温まるのはちょっとだけ嬉しいな~」


 ツタで編まれたサンダルを脱ぎ暖炉の前まで走ると手を当て温まる姿に、親戚の子供が来たような気分になるクロたち。


「クロ~お茶とお茶請けをお願いね~」


 キッチンへと叫ぶエルフェリーンにクロは用意していたお菓子をメリリに渡すと緑茶を入れる。


「お茶はクロさまが入れております。宜しければお茶請けをどうぞ」


 メリリが近くのローテーブルにお茶請けを置くと振り向いた少女は目をぱちくりさせソファーに移動する。


「ふわぁ~見た事のない物ばっかりだ! それに見た事のない人も増えたね!」


「最後にこっちに来たのはもう百年も前の事だろう。それよりも早くお菓子を食べるといいよ~」


「どれがどんな味がするか楽しみだね!」


 目を輝かせ皿に乗ったチョコやお煎餅にクッキーを見つめる。


「お茶はこちらに、まだ熱いので注意して下さいね。まわりの包装は簡単に破けますから中身を食べて下さい」


 クロが緑茶を置くと軽く会釈をする日焼け少女。


「変わった包装紙だね……どれ、あむあむ……ふぁっ!? 何これサクサクで美味しいよ!」


「ふっふっふ、そうだろう! そうだろう! クロのお菓子は世界一だからね~」


 自慢気に話すエルフェリーンはお茶を手に取りふぅふぅと息を吹きかけ冷ましながら口にする。


「紹介が遅れたね。この子はエルファーレ、僕の妹だよ」


「むっ!? エルフェリーンは何を言っているのかな~私がお姉ちゃんだよ~」


 クッキーを急いで飲み込んだエルファーレはエルフェリーンの言葉を否定し、自身こそが姉であると主張する。


「いやいや、僕が姉だろ。前にみんなで話し合った時もそう決めたじゃないか」


「何を言っているのだか……あの時はお酒が入っていたし、すぐにみんな酔って会話どころじゃなかっただろ」


「それはお酒が弱いエルファーレが悪いだけじゃないか!」


「何だって!? 私はお姉ちゃんだからお酒は強いよ! いや、最強だね! って、この小竜は?」


 いつの間にか現れ膝をペチペチと手で叩き口を大きく開ける白亜に驚くエルファーレ。


「あははは、この子は白夜の娘の白亜だぜ~可愛いだろ!」


「うん! 白亜、私はエルファーレ。宜しくね!」


「キュウキュウ~」


「えっ、それよりも早くチョコが欲しいだって……」


「あははは、白亜はチョコが好きだからあげるといいよ~」


「チョコ? それはどれだい?」


「チョコは黒い奴だぜ~甘くてほろ苦くて美味しいぜ~」


「へぇ~それじゃあ、ほらあーん」


「キュウ~」


 大きく口を開けた白亜にチョコを与えると両手を頬に当て味を楽しむ白亜。エルファーレもチョコを口に入れる。


「んっ!? これって私が知っているものに味が似ているが全く別物だね! カカワトルという飲み物にそっくりな風味だけど、こっち方が段違いに美味しいよ!」


「もしかしてカカオを使った飲み物ですか?」


 思い当たる事があったのかクロが声を掛けると大きく頷くエルファーレ。


「私の地元では炒ってからすり潰してお湯に溶かして飲む薬だよ。蜂蜜を入れて飲みやすくするけどあまり美味しい物じゃないね~これもカカオを使ったものだろ?」


「はい、カカオを焙煎して何時間もすり潰して砂糖や香料などを加えて作っています。チョコレートと呼ばれるものですね。他にもチョコなら色々とありますから食べますか?」


「うん!」


「キュウキュウ!」


 エルファーレと同時に鳴き声を上げる白亜に困った顔をするクロ。


「白亜は朝もいっぱい食べたから少しは抑えないとダメだぞ~」


 そう言いながら魔力創造で記憶にある板チョコやチョコを使ったお菓子を作り上げるとキラキラとした瞳を向けるエルファーレ。メリリや食べ過ぎていたキャロットにメルフェルンとルビーも食い入るように見つめ、これは失敗したかなと思うクロ。


「みんなには後で出すからさ。食べ過ぎた二人は、」


「もう大丈夫なのだ!」


「私も大丈夫です!」


 ソファーから体を起こしたキャロットとメルフェルンは良い笑顔をクロへと向け、メリリはクロの裾をクイクイと引っ張りこちらも笑顔を向ける。


「ウイスキーとチョコの相性は最高ですよ!」


「キュウキュウ!」


 皆の言葉に小さなため息を吐いたクロは魔力創造でコンビニのレジ横でよく売られているチョコを箱ごと創造すると封を開け皆に進める。


「やったのだ!」


「色々な種類が入っていますよ!」


「ウイスキーはダメですか?」


「キュウキュウ!」


 酒を求める病み上がりに首を横に振るクロは、足にしがみ付き鳴き声を上げる白亜を抱き上げると封を開けひとつを口に入れる。


「ここはみんな仲良しだね~羨ましいよ~」


「そうだね~僕もみんなが仲良しなのは嬉しいぜ~おお、そういえば今日は何で来たのかな? 念話が届いたけど雑音が酷くてあまり聞き取れなかったよ」


「ああっ!? 忘れてた! エルフェリーンに見て貰いたい患者がいるんだ! 私の飼っている魔物なのだけどもう三日も何も食べてなくて……顔色や毛並みも悪くなる一方だから心配だよ! どうにか見てあげて欲しい!」


 肩を掴み声を上げるエルファーレの必死な表情に多くの瞳が集まり「それなら僕の出番だぜ~」と声にするエルフェリーン。


「錬金術師であり薬師でもある僕に任せてよ!」


「やっぱりエルフェリーンにお願いしに来て正解だったよ! ありがとう……」


 ギュッとエルフェリーンに抱き着くエルファーレに微笑みを浮かべるクロたち。キャロットだけは小さなチョコを口に入れ表情を蕩けさせていた。


「あははは、やっぱり僕の方がお姉さんだね~こうやって妹の危機に手を貸すのはお姉さんの役目だよ~」


 抱き着かれていたエルフェリーンのドヤ顔に薄っすら涙していたエルファーレはその手を放して声を荒げる。


「そ、それとこれは別問題だよ! エルフェリーンが錬金術を得意とするように私は歌が得意だからね! 私の歌声はセイレーンすら眠りに誘うよ!」


「そうだね。僕たち姉妹はそれぞれに特技が違うからね~それが原因で別々に暮らすようになったけど……僕はエルファーレの歌を忘れた事はなかったよ……澄んだ風の様な歌声は心を癒してくれたからね……」


「それなら私だって……エルフェリーンの作る薬は苦いけど良く効いたよ……毒キノコから薬を作り出した時は驚いたけど、その薬が今でも私の国で大切に使われている……」


 仲良く笑い合ったと思えば声を荒げ今度はしんみりとする二人のハイエルフに、クロは家族だなと思い、他の者たちも同様に家族を思い出していた。


「チョコの中に変なのが入っていたのだ! 変なのも美味しいのだ!」


 そんなしんみりとした空気をぶち壊すキャロットの発言に、エルフェリーンは笑い声を上げ他の者たちも声を上げて笑い始めるのだった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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