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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第七章 収穫祭
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シャロンの鼻血



 商業ギルドでの話し合いを終えたクロたちは妖精たちから頼まれた買い物やクロがどぶろくを入れる壺に冬場の生活に必要そうな物などを買い終わる頃には日が傾き始め、エルフェリーンの転移魔法で帰宅する。


「三日間の収穫祭もあっという間だったわね」


「私としてはお城に宿泊する事が恐れ多いと言いますか……叔父さんには色々と褒められましたが……わしも弟子になりたい、と言われた時には笑ってしまいましたよ~」


≪欲しい物や美味しい物が食べられて楽しかったですね~≫


「キュウキュウ~」


「白亜さまも楽しかったと言っているのだ!」


 庭先で話しながら玄関へ向かっていると遠くから甲高い鳴き声が耳に入り振り向くと、夕日に染まった空から降りて来る影が視界に入り二つの影が舞い降りる。


「クロさん!」


 叫びを上げ降りてきたシャロンはグリフォンが地面に降りると同時に飛び降りクロへとダイブし、それを慌てて受け止めるクロ。その後ろでは黄色い悲鳴を上げるビスチェとアイリーンが荒ぶっており、更には後ろからもう一頭降りてきたグリフォンに乗るメイドのメルフェルンからは絶叫に近い悲鳴が上がり、その悲鳴に驚いたメリリが慌てて外へと現れると皆が帰ってきた事にホッと胸を撫で下ろす。


 やや混沌となる中庭をニコニコとしながら「ただいま~」と口にするエルフェリーン。メリリは「お帰りなさいませ」と口にして頭を下げる。


「お腹が減ったのだ!」


「キュウキュウ~」


 キャロットはマイペースに家へと入り、それに続くエルフェリーンとルビー。ビスチェは両手で顔を覆いながらも指の隙間から抱き付く二人を見つめ、アイリーンは仄かに流れる熱い鼻血を確認しながらも血走った眼で現状を脳内保存する。

 抱き締められているクロは困った顔をしながらもシャロンの専属メイドであるメルフェルンが目を吊り上げており、どうしたもんかと思いながらもグリフォンのフェンフェンが首を下げシャロンが抱き着いているのをお構い無しにグリグリと額をクロに擦り付け再会を喜ぶ。


「おうおう、フェンフェン、もう少し優しく、優しくのわっ!?」


 構って欲しいフェンフェンに押されバランスを崩したクロはシャロンと一緒に転がり、慌てて助けに動くメイドのメルフェルン。


「シャロンさま!? 大丈夫ですか!」


「ああ、すまない……僕もどうかしていたよ。クロさん、ごめんなさい……」


 先に起こされたシャロンが肩を落とし謝罪を口にし、クロが体を起こすし「大丈夫だよ」と口にすると、夕日に染まった空の下で頬を染めキラキラとした瞳を向ける。


「ピュュュルルルルル」「ピリュュュルルルルル」


 そんな二人の間に入り鳴き声を上げるフェンフェンと、その鳴き声に釣られるように鳴くファンファン。


 まわりでキャッキャするビスチェとアイリーンもその鳴き声で我に返りスッと立ち上がると、鼻を押さえ屋敷へと向かうアイリーン。ビスチェは地面に座り込んでいたクロに手を貸し立ち上がらせる。


「ほら、行くわよ!」


 唇と尖らせクロの手を引くビスチェ。二人も後を追おうとするが、今度はシャロンの鼻から血がポタリと流れ震えが起きて女性恐怖症を発症させ、慌てて離れる専属メイドのメルフェルン。


「も、申し訳ありません!」


「いや、僕も悪いよ……はぁ……メルフェルンは先に行ってくれ……僕はもう少しだけ夜風に吹かれて頭を冷やすよ……」


「で、ですが……」


 ゆっくりとその場に蹲るシャロン。


「自分が残りますので、メルフェルンさんは中へどうぞ」


 ビスチェも空気を読んで手を放し、シャロンの横に座ると震えながらクロの腕を掴まれクロはアイテムボックスのスキルでティッシュを出してシャロンへと渡す。


「もう夜は冷える時期だから早く入りなさいよ。ふんっ!」


「ああ、お風呂だけ沸かしておいてくれ」


 ビスチェは先に家へ向かい、歯を食いしばりながらも二人へ一礼して去るメルフェルン。


 その光景を窓からじっと見つめるアイリーンは妄想を捗らせていた。


「血は止まったか?」


 ティッシュで鼻を押さえ止血するシャロンに話し掛けるクロはアイテムボックスから増血ポーションと口直しのペットボトル飲料を取り出すと手渡す。


「ありがとうございます……」


 左手で鼻を押さえている事もあり封を開けて渡したそれを一気に飲み干し、ペットボトルを口にするシャロン。鼻血はある程度止まったのか鼻から手を放し一息つくとクロへと視線を向ける。


「気持ち悪いとかないか? 震えは止まったようだが無理はするなよ」


「はい……あのっ、えっと……はい……」


 何やら言いたげな態度を一瞬取るも俯くシャロンにクロは頭を数度掻いて困った顔をしながらも、血の付いたティッシュをアイテムボックスから取り出したビニール袋に入れて片付ける。


「何があったか知らんがすぐに冬が来て雪が降るからな。帰るのは早くても春になってからだからな」


「はい………………ふふ、ふふふ」


 俯きながらも小さく笑うシャロンにクロは頭を傾げる。


「急に笑うなよ……何か面白い事でもあったのか?」


「いえ、初めてクロさんに会った時と同じだなと思いまして……それに春までは帰らなくても……」


「そろそろ立てそうか? 日も落ちてぐっと冷えるからさ中に入ろう」


 暗くなった中庭には二人だけが残りグリフォン二頭も厩舎へと下がり、立ち上がるクロはシャロンに手を差し出す。


「はい……春までお世話になりますね……」


 良い笑顔を浮かべるシャロンの手を握り立ち上がらせるクロだったが、たらりと流れる血に慌ててティッシュを鼻に当てる。


「まだ止まってなかったな」


「はい……ふふふ……」


「おいおい、笑うなって」


「ふふふふ、はい、ふふふ」


 血色も良くなったシャロンはクロに鼻を押さえられながら笑い、クロも一緒になって笑いながら二人で屋敷へと足を進める。


「あの、何も聞かないのですか?」


「ん? 何か言いたいのか?」


「いえ、急に来たので………………その………………」


 ひとり立ち止まったシャロンにクロも足を止めて振り向く。


「理由はわからんが生きていれば色々あるからな~まずは体を温めて夕食を食べてからでいいだろ。ほら、行くぞ」


「はい!」


 クロの後を追い屋敷へと入ったシャロンはティッシュで鼻を押さえながらエルフェリーンへ頭を下げ脱衣所へと向かい、クロは夕食の準備を始めようとキッチンへ向かうと既にメリリがスープと肉を焼く準備をしており手を洗い手伝いを申し出る。


「野菜のスープと凍らせていた肉に下味を付けましたが、後はどう致しましょうか」


「今日は収穫祭の屋台で色々と買ってきましたからそれを出しましょう。肉は野菜と一緒にオーブンに入れて焼いて、茹でたジャガイモと玉ねぎを添えて、バーベキューソースを塗って仕上げましょうか」


「はい、とても美味しそうです!」


 微笑むメリリとは対照的に鋭い視線をクロへと向けるシャロンの専属メイドのメルフェルン。キッチンカウンターからクロに刺すような視線を向ける。


「皇帝陛下からの伝言があります……クロさんに女性恐怖症を克服するようにお願いするとの事です……」


「ああ、その事なら頼まれなくても協力するよ。メルフェルンさんは苦手な食べ物とかありますか?」


 玉ねぎを剥きながら自然と話すクロに目をぱちくりとさせるメルフェルン。


「いえ、特にありませんが……」


「なら良かった。まだしばらく掛かりますからゆっくりとしていて下さいね」


 その言葉に「はい……」と返したアルベルタは視線をそのままにクロとメリリの調理姿を見つめるのだった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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