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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第七章 収穫祭
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商業ギルドへ乗り込む草原の若葉たち



 クロたちが屋台を軽く見て回り必要な物を買い揃え終わると、エルフェリーンを先頭に商業ギルドへと足を向ける。

 商業ギルドは王都の東部にある城の次に大きな建物であり、馬車でそのまま商品を搬入できるよう街道に沿った形で大きな倉庫が連なっている。


「この辺りは屋台がないですね」


「商業ギルド近くは馬車の往来が激しいからね~こんな砂煙が舞う場所に食品や商品を並べられないよ~祭りで馬車の数が少ないけど、ほらほら馬車が来たぜ~」


 三台の帆馬車が商業ギルドに付けると急ぎ商品を搬入すべく動き出す屈強な男たち。受付もドライブスルー形式で慣れた手つきでサインをする商人と受付嬢。


「ほら、見惚れてないで中に行くわよ」


 ビスチェの言葉にクロは商業ギルドに足を踏み入れるのだった。


 ギルド内は広く受付も通常の受付が数か所に、塩と家畜に小麦と専用の受付があり、緊急という受付も設置されており数名の商人が受付で何やら話し込んでおり、エルフェリーンは迷うことなく緊急の受付へと足を向ける。


「ギルドマスターはいるかな? それとも王城へ呼ばれてまだ帰って来てないかな?」


 ベテラン感のある受付嬢に声を掛けるエルフェリーン。瞬時に顔を青くした受付嬢は「少々お待ち下さい」と口にすると慌てるように席を立ち去る。


「逃げられちゃったね~」


 楽しそうに口にするエルフェリーンにクロは副ギルドマスターが不敬罪で逮捕されてはそういう態度も仕方ないだろうと思っていると、皺の深い老女が奥から現れ先ほど顔を青くした受付嬢がその後ろに続き現れる。


「エルフェリーンさま、うちの者が失礼をしたそうで申し訳ありませんでした。先ほど城に出向き話をしてきましたが彼は仕事に熱心でねぇ……前から注意はしていたが、この度は焦っていたのか高圧的な態度で自分の考えを押し付けたようです。クロといったかね」


「はい」


「本当に申し訳なかった。普段の教育をさぼっていた私の責任さね……」


 そう言いながら深々と頭を下げる老女は商業ギルドマスターなのだろう。


「いえ、自分は何を言われてもそれほど気にしませんが……アリル王女さまが怖がっていた方が……」


「ふふふ、優しい子だね……ここじゃ何だね。奥の応接室に招かせていただいても構いませんか?」


「ああ、信用が大事な商業ギルドだからね~込み入った話は中でしようか」


 エルフェリーンが頷き商業ギルドの中へと招かれ、応接室と書かれた部屋へ案内されるクロたち。中は広く調度品やガラス細工などが飾られ魔物の革を使ったいかにも高級そうなソファーに腰を下ろす。


「クラウンコンドルなのだ!」


 壁際に飾られている成人男性ほどの身長のコンドルの剥製に目を輝かせるキャロット。白亜はそれほど興味がないのか大きな欠伸をしながらキャロットの腕の中で目を閉じる。


「お目が高いお嬢ちゃんだね。クラウンコンドルは金を呼び込むとされているからね」


「この肉が美味いのだ! 皮がパリパリで肉汁が凄いのだ!」


 優しい瞳で孫を可愛がるように声を掛けたギルドマスターだったがキャロットの言葉に笑い声を上げる。


「うひひひ、この子は大物だね~ドラゴニュートみたいだけどクラウンコンドルを食べた事があるのかい?」


「ばば様がよく獲って来てくれたのだ。料理もしてくれるのだ」


「よ、よく取って来るのかい……凄い子だね……」


 驚くギルドマスターにクロが口を開く。


「キャロットはキャロライナさんのお孫さんで、」


「キャロライナだって!? ドラゴニュートの総元締めじゃないか……ああ、『草原の若葉』だったね……」


 クロの言葉に割って入り目を見開いたギルドマスターだったが、エルフェリーンのニコニコとした表情に、『草原の若葉』が相手では私もまだまだヒヨッコだねと深呼吸しながら心を落ち着かせる。


「お茶をお持ち致しました」


 先ほど青い顔をしていた受付嬢が人数分のお茶を入れテーブルに置くとギルドマスターの後ろに控える。


「赤茶の良いものだよ。魔力回復ポーションに使われたり心を落ち着かせたり気分を良くする効果があるさね」


 そう言いながらお茶を口にするギルドマスター。今一番心を落ち着けたいのは自分だろうと思いながら口にし、エルフェリーンたちがお茶を飲んだことを確認すると重い口を開く。


「リペインという男は小さな商家の生まれでね、兄弟が優秀で劣等感を抱き王都に逃げてきたさね。その時に私の息子に拾われ商業の基礎を教わり励んだがねえ……どうしても実家の優秀な兄弟が頭に過るのか、自身の売り上げ成績やギルドへの貢献に喜びを覚えるようになってねぇ……はぁ……

 収穫祭が終われば雪が降り商業が鈍る季節に入るからか焦っていたのかもしれないねぇ……私がもっと目を光らせていれば……今年の夏から副ギルドマスターに就任させたが、まだ早かったのかねぇ……」


 ギルドマスターからしてもリペインは孫同然に可愛がりながらも厳しく教えていたのだろう。時折ため息を吐きながら話し終わる時には溜めていた涙が頬を伝う。


「うんうん、そういう弟子はいるからね……師であるには弟子の行動や言動には注意が必要だね……僕にも何度か経験があるよ……階段を上るように成長する弟子たちの失敗は心に響くものがあるからね……踏み外したり転げ落ちたり……出来るだけ踏み外さないように注意しても踏み外すこともあるからね……弟子を取りながらも師として成長を続けなければならないからね……」


 エルフェリーンの言葉に涙を拭いながら頷くギルドマスター。クロたち弟子も思い当たる節があるのか神妙な顔になり話に耳を傾け、キャロットだけはクラウンコンドルの剥製から羽を数枚むしり取り、現れた乾燥した皮の臭いを嗅ぐと顔を顰める。


「これは臭いのだ……」


 その声に一斉に振り向く一同。クロは頭を抱えながら「いま良い話をしているからその剥製は置いておけよ……はぁ……ほら、お菓子を出すからこっちで大人しくな……」といいながらアイテムボックスからお手軽に食べられるスナック菓子を取り出し皿に移す。


「ポテチなのだ!」


「キュウ……」


 キャロットの腕の中で眠っていた白亜もその声で起きたのか席に付くとポテチを口にし、白亜も食べたいのか大きく口を開く。


「白夜さまのお子様である白亜さまなのだ」


「キュウキュウ~」


 マイペースにポテチを口に入れたキャロットは起きた白亜の紹介を簡単に済ませ、またポテチを口にし、大きく口を開けた白亜にも食べさせる。


「その噂は王都中に広がっているさね……貴族連中の中には手に入れようと動こうとした者たちがいたそうだが、国王から釘を刺されたそうだよ。この国を潰す気かとね」


「そうだぜ~白亜にもしもの事があったら白夜が怒るぜ~僕だって止める事はできないぜ~」


「というか、師匠が先に怒るでしょうに……」


 クロから発せられた言葉に深く頷くエルフェリーンはニコニコとしながら「うん!」と元気な返事を返し、ギルドマスターは顔を引き攣らせながらも話を進めるべく口を開く。


「そうそう、魚の唐揚げはギルドでレシピと注意事項をまとめ紹介させてもらうよ。誰でも無料にする心算だったが、油の扱いには火の取り扱いよりも注意が必要だからね。それを注意するメモと講習を開くからね。大火事でも出しては困るのは我々だ。そこは妥協してくれるかい?」


「はい、そうして頂いた方が良いと思います。火のついた油に水をかけては更に燃え広がる可能性もありますからね。油は熱し続けると火が付きますし、後処理の問題もあります。油に沈んだカスを熱々のまま片付けて火災が起こる事もありますし、川に流したらそれこそ大問題になりますから」


「ほう……それらの知識も提供してくれるのかい?」


「その心算です。提供するからにはそれなりの責任があると……」


 瞳を確りと見つめ話すクロに深く頷くギルドマスターは顔を上げると笑顔へと変わる。


「それはありがたいね……クロは今だけではなく先を見据える目を持っているね。『草原の若葉』を首になったら、いつでもここに来るといいさね。私が面倒を見て一流の商人に……いや、その心配もなさそうだね……」


 ギルドマスターの瞳には隣に座るエルフェリーンがクロの上着の裾を握る姿が見て取れ微笑みを浮かべる。


「はい、師匠の下で頑張りたいですから……」


 こうして商業ギルドでの話し合いは無事に終了するのであった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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