爆裂菓子
城で二泊目を終えたクロたちは収穫祭の最終日を楽しむべく街を歩き屋台をまわっていた。
「クロ! 魚の唐揚げの屋台はやらないのかよ!」
「クロ! 魚の唐揚げの屋台が逃げたよ! どうしてくれるんだ!」
「クロ! ウイスキーを売ってくれ!」
「クロ! 骨のカリカリを売ってくれ!」
「クーーーーローーーー魚の唐揚げを売ってくれ!」
多くの冒険者から名を叫ばれ魚の唐揚げを求められるクロはその都度丁寧なお断りを入れていた。
ドワーフたちからはウイスキーを売って欲しいと頭を下げられたが祭りの期間中は酒の販売には専門の許可証が必要になる事からお断りを入れ、誰にも言わないように釘を刺してから数名のドワーフには無料でひと瓶渡し、ホクホク顔でお礼を言い去るドワーフたち。
「これじゃあ商業ギルドの副ギルドマスターの気持ちが理解できますね」
ルビーの言葉に何とも言えなくなるクロ。事実、魚の唐揚げの特許を申請すれば飛ぶように売れるだろうと誰もが予想ができるのだ。
「冒険者たちから大人気だぜ~僕も鼻が高いよ~」
「あれは疲れたけど楽しかったわね」
≪あのサイズの魚なら目を閉じていても捌けそうです≫
「サクサクで美味しかったのだ!」
「キュウキュウ」
キャロットや白亜まで嬉しそうな声を上げクロは嬉しく思いながらも一軒の屋台に目を見開く。
「うおっ!? トウモロコシ! 乾燥して売っているのを初めて見た!」
屋台には多くの乾燥したトウモロコシが並び驚きの声を上げたクロに驚く褐色の男。
≪あれを育てたら焼きトウモロコシとかできますかね? ああ、バターも添えてくれると嬉しいです……≫
アイリーンの浮かばせた文字に、「だよな!」と口にしたクロは屋台へ店主へと声を掛ける。
「あの、これって」
「モロコシだよ。乾燥しているから水で柔らかくしてから茹でて食うもんだ。粒をそのまま粉にして水と煮て団子にして食う所もあるな。だがな……この国の連中には縁がないものらしくまったく売れん……はぁ……」
大きなため息を吐く店主の男。
「これって、そのまま火に掛けたら爆発しますか?」
乾燥してあるトウモロコシを手に取りクロが知っているトウモロコシとは少し違い実が小さい事に気が付いたのだ。
「ああ、モロコシを火にくべる馬鹿という諺があるな。パンと弾けて危険だぞ」
≪爆裂種のトウモロコシですかぁ……焼きトウモロコシ……≫
店主に続き肩を落とすアイリーンに、クロはBBQ用のコンロとフライパンを取り出し男から少量買うと油を敷いたフライパンに入れ、キャロットに火をつけて貰い蓋をして炙り始める。
「それは危険だぞ。爆発するぞ」
そう声を掛ける男にクロはフライパンを揺すりながら火が均等に入るようにしていると、パンと弾ける音が鳴りその音が次第に多く鳴り続ける。
「面白いのだ! 私も自分で買うからやりたいのだ!」
キャロットの中では爆竹感覚なのだろうけど、店主の男にはそれが奇異な行動に見え距離を取る。
破裂音が収まるとフライパンの蓋を取りバターを入れて塩を振るクロは皿へと移す。
「熱いから気を付けて食べろよ~あの、良かったらどうですか?」
怪訝そうな表情で受け取った店主だったが、
「美味いのだ! これは美味いのだ!」
「キュウキュウ~」
「これはビールに合いますよ! 缶のビールに絶対に合います!」
「バターの風味がいいわね」
「形が面白いけどクロはモロコシに火を入れると美味しくなると知っていたのかい?」
「はい、地元じゃポップコーンと……って、前に食べましたよね」
「そうだっけ?」
「前に食べた時は甘かったわ。それに色も茶色かったわ」
以前にキャラメル味のポップコーンを食べていたエルフェリーンは案の定忘れていたが、ビスチェは覚えていたのかその色を答える。
≪これは基本になる塩味ですね。サクフワな食感が堪らないです! 映画が見たくなる味ですよ~≫
「映画館はないけどな~味はどうですか?」
「美味いな。適度な塩加減とバターのコクと香りが次々に口に入れたくなるよ! あの、これ、真似して販売しても……」
「ええ、構いませんよ。自国に戻ったら広めて下さい。他にも色々な味付けにしても美味しいと思いますから……って、列ができているのだが……」
クロたちが食べるポップコーンの匂いに誘われたのか笑顔を向ける冒険者たちに苦笑いを浮かべ、店主のへと振り向くと男は静かに頷く。
「いやいや、頷かれても!? 作り方は教えるから貴方が対応して下さいよ!」
「あははは、クロは面白いなぁ~このエリアでの火を使った販売は禁止されているからね~勝手に販売したら商業ギルドに怒られちゃうぜ~」
「そういう事だから並んでも無駄よ! ほら、目を付けられる前にしっし」
エルフェリーンが笑いながらクロへ注意をし、ビスチェが並ぶ冒険者たちを手で追い払う。
「そういう事だ兄ちゃん。悪ノリをして悪かったがポップコーンという商売をはじめてみるよ。来年にはまた来るから楽しみにしてくれ」
ニッカリと笑い話す店主にクロも安堵したのか微笑みを浮かべ口にする。
「はい、楽しみにしていますね。ああ、これとそっちのをまとめて売って下さい」
クロが指差した大きな乾燥しほぐした爆裂種のトウモロコシを指差し目を剥く店主。
「おいおい、そんなに買っても大丈夫なのか? アイテムバックに入れるにしても多いだろ」
「うちはみんなよく食べますし、近くの村にもお裾分けに行きますから多く買わせて下さい」
薬草やキノコの採取にお世話になっているオーガの村や、日本酒製造をするゴブリンの村や、ビスチェの故郷のエルフの村が頭に浮かんだクロは大きな籠に入れられた乾燥トウモロコシを買い、先ほどまでまったく売れなかった店主はホクホク顔になり握手で商談をまとめる。
「こりゃ、遠くまで遠征した甲斐があったよ。故郷の村の皆も喜ぶってもんだ」
良い笑顔を向ける店主と別れ、祭りの屋台を楽しむ一行であった。
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