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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第七章 収穫祭
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精霊と不敬罪



 城へと戻ったクロたちは先ほどあった不敬罪と侮辱罪の話をエルフェリーンや王様たちに伝えながらお茶を楽しんでいた。


「我が娘にそのような態度を取ったのか……怖くはなかったかい?」


「うん……少し怖かったです……でもでも、クロがいたし近衛もいたから大丈夫です!」


 ソファーに座り王妃二人から抱き締められているアリル王女に国王は何度か頷き、今度は近衛長に視線を向ける。


「お前がいれば証人としては十分だろう……しかし、貴族に連なるのもという話が気になるな……」


 顎に手を当て難しい顔をする国王にダリル王子が口を開く。


「本当に貴族に連なる者だとしたら恨みを買いかねませんね。もしそれが嘘だとしたら偽証罪も増え……最悪は死罪でしょうし……」


 ダリル王子も難しい顔で俯きがちに口にする。


「死罪ですか……」


「偽証罪ならばな……いま確認させているが、どちらとしても問題があるな……どこの貴族だか知らんがもう少しまともな者を副ギルドマスターに添えなければ商業ギルドの未来はないだろう。はぁ……ギルドには基本的に国から指示はできんのが歯痒いものだな……」


「ギルドは国とは別の組織だからね~国が腐ってギルドまで腐ったら、それを止める組織がなくなっちゃうぜ~教会も国からは指示できないようになっているし、できても冠婚葬祭ぐらいだね~」


 エルフェリーンが説明し終えるとポテチを口に入れ、ルビーとビスチェにアイリーンも塩味のポテチを口に入れる。


「これは我が国だけではなく多くの国が採用していますな。多少の癒着はあれど表立った指示を出す王族は居りますまい……これもエルフェリーンさまが作られた法ですから……」


≪法にまで関与しているとか、エルフェリーンさまは凄いですね……≫


「あの頃はもっと混沌とした時代だったからね~この国だって三つの国をひとつにまとめる事で平和になったんだぜ~やれうちの農地のサイズが小さいだの、この川の利権はうちにあるだの、あの魔物は家の国で生まれただの大変だったんだ。僕の精神の安定の為にも手を貸して一つの国にまとめ上げたのは本当に苦労したぜ~はぁ……クロクロ、何か甘いものが食べたいよ~」


「しょっぱいものを食べると甘いものが欲しくなるわね!」


≪私は天界でコーヒーゼリーを食べましたから遠慮しますね~≫


「コーヒーゼリー?」


「プリンもいただきました! プルプルで美味しかったです!」


「まぁ、それは楽しみですわね」


 アイリーンとアリル王女の言葉に王妃や仲間たちから早く寄こせと言わんばかりの視線を受けたクロは、魔力創造でコーヒーゼリーやプリンにミカンゼリーを創造し配り我先にと手を出す女性たち。国王とダリル王子は手を出さずにお茶を口にし、クロは甘いものが不得意な人でもお茶請けになるだろうと自作した大根とキュウリの浅漬けをテーブルに置き二人に進める。


「これは何とも綺麗な……」


「まるで宝石のようですわね……」


 スプーンに乗ったミカンゼリーを王妃二人はうっとりと見つめ、エルフェリーンとルビーはコーヒーゼリーを口にして微笑みを浮かべ、ビスチェとハミル王女はプリンを口にしながら至福の時を過ごす。


「あの、近衛の皆さんも良ければどうぞ。どれも甘いもので長期保存ができませんので皆さんで食べて下さい」


 ハミル王女やアリル王女に付いてまわる近衛長や傍に控えているメイドたちにプリンやコーヒーゼリーを紙袋に入れ、給仕をしていた年配のメイドへと手渡すクロ。年配のメイドはお礼を口にして笑顔で受け取ると王妃の一人が口を開く。


「冷たいまま食べた方が美味しいわ。この場で食べる許可を出すからクロさまに感謝して頂きなさい」


 微笑みながら話す王妃にメイドは深々と頭を下げメイドたちを呼び手渡し、近衛長も控えていた近衛たちに配り始める。


「このしょっぱい野菜はあっさりしていて美味いな。冷たく温かい紅茶とも合うぞ」


「サクサクと楽しい食感ですね。それに仄かに酸味があるのか次々と口に運びたくなります」


 国王とダリル王子が浅漬けを食べながら紅茶を飲み、緑茶を勧めようとしていたクロは合うのならそれでいいかと思いながらメイドたちから礼を言われ慌てて会釈を返す。


「本当にクロさまがいれば美味しいものが食べられますね」


「エルフェリーンさまが羨ましいです」


「あははは、そうだろう! クロは凄いからね~もちろんビスチェやルビーにアイリーンも凄いぜ~キャロットと白亜もお風呂掃除を頑張ってくれて助かっているんだ。うちの工房は何かしらの特技があるね~ああ、最近雇ったメリリも掃除と草むしりが得意だぜ~」


「ちゃんと薬草と雑草の区別が付いているわね。無意識だろうけど精霊……そうそう、中庭に精霊がいたのだけれど、王族を気に入っていたわよ」


「王族をですか?」


「ええ、歌が好きな精霊でハミルとアリルの歌が好きだって言っていたわよ」


 ビスチェの言葉にパッと表情を明るくするハミル王女とアリル王女。ダリル王子は眉間に皺を作るが、国王と王妃二人は驚きながら嬉しいのか傍にいるアリル王女の頭を優しく撫でる。


「それは良かったじゃないか。これからは中庭で歌う時間作りなさい」


「それがいいわね。二人が精霊に気に入られたのなら契約して守って下さるかもしれないわ」


「契約云々はわからないけど、マヨの歌というものを気に入っているそうよ」


「マヨの歌でね! 私も大好きです!」


 両手を上げピョンとソファーから降りたアリル王女は大きな声でマヨの歌を歌い始め、プリンを食べていたハミル王女は急ぎプリンを口に入れ食べ終えると歌に加わるとキラキラとした輝きが二人のまわりに現れ精霊が喜んでいるのが見て取れ喜ぶ王妃二人。


「あはははは、これは愉快な歌だね!」


≪マ~ヨマ~ヨマヨ~耳に残る歌ですね~≫


「むにゅむにゅ……うん? 楽しい歌が聞こえるのだ……」


 ソファーで白亜を抱いたまま舟を漕いでいたキャロットが目を覚まし歌う王女二人に気が付き、白亜も同時に目が覚めたのか眠い目を擦りながらも興味があるのか二人を見つめる。


「キャロットもプリンを食べるか?」


「ん? 食べるのだ! プリンは美味しいのだ!」


「キュウキュウ~」


 起きた一人と一匹へプリンを差し出すと元気に応え封を開けスプーンを手に取ると嬉しそうに口にし、そこへノックの音が響き呆けていたメイドの一人がプリンを食べていた手を止めドアへと向かうと、肩で息をする兵士が頭を下げ現れる。


「先ほど捕まった者の詳細がわかりました」


 片膝を付き声を上げる兵士は数度深呼吸をして息を整えると自供した事を話し始める。


「リペイン氏の生家はペイン商会の三男に生まれ、ティファー子爵と親しいようです。ペイン商会の長男がティファー子爵の娘と婚約しており、貴族に連なる者という証言は嘘ではないかと……」


「うむ……ん? ティファー子爵……」


「うえぇぇぇ!? それって、私の実家です……」


 リアクションを取って驚いたのはアリル王女の専属メイドであるアルベルタであり、急な大声を上げた事とギリギリ身内になりかねない事に頭を下げる。


「アルベルタはリペインの事を知らなかったのかしら?」


「えっと、私は十三才から王宮でメイドとして勤めております。実家は遠くて家族とはあまり会う事がなく……新年のパーティーで少しだけ話を聞きましたがお見合いの話を断って喧嘩になり……姉の婚約話は耳にしていないかもしれません……」


 申し訳なさそうに話すアルベルタにため息を漏らす第三王妃。国王はアリル王女が心を許している専属メイドのお見合い事情に複雑な思いで親の顔を見せる。


「お見合いも大事かもしれがアリルの為にも、もう少しメイドを続けて欲しいものだがな……」


 メイドの寿退社は大いに祝われる事なのだが、一斉に婚姻などされては業務に支障をきたす可能性や次に採用するメイドの性格やスパイの可能性などもあり、ドジなアルベルタもある意味ではエリートメイドの一人と数えられており急な退社に対応するのは困難なのである。


「不敬罪云々はティファー子爵を呼び抗議するとしよう。アリルはそれでもいいかい?」


 優しい瞳で愛娘に確認するとアリル王女は一瞬考える素振りを見せクロへと視線を向ける。


「クロはそれでいいですか?」


「自分はリペインさん次第だと思います。商業ギルドの副ギルドマスターにまで昇格する実力があるのなら優秀なのでしょうし、もし不敬罪などで処分されてはアリル王女さまに心の傷が残る可能性もありますから……アルベルタさんにも色々とお世話になりましたし、王さまから注意されれば心も入れ替えてくれるのではないでしょうか」


 クロの言葉に国王は頷きメイドのアルベルタもパッと表情を変える。


「では、事の内容をティファー子爵を呼ぶように書を送ってくれ。商業ギルドにもな」


「はっ!」


 国王の言葉に動き出す兵士と近衛兵。


「もし何かあれば僕が動くからね~」


 最後に言葉を送るエルフェリーンに国王は顔を青ざめながらも静かに頷き、自分で何としても丸く収めると決意するのだった。





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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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