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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第七章 収穫祭
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シャロンの到着



 メリリは一人で如雨露じょうろを持ちビスチェが大切に育てている薬草や菜園に水を撒いていた。まわりには妖精たちが飛び回り水を撒く如雨露の飛沫に突っ込んではキャッキャと声を上げる。


「うふふ、あまり濡れると風邪を引きますよ」


 何ともファンタジーな光景であるが、更にファンタジーなものが空から飛来し妖精たちのリーダーがメリリに声を掛ける。


「メリリ殿、空からグリフォンが現れましたが……」


「グリフォンですか? それならサキュバニア帝国の関係者ですね~」


 如雨露を地面に置くと飛来するグリフォンを視界に捉え急ぎ足で向うメリリ。元冒険者という事もあり足には自信があるのか素早く駆け出し、グリフォンが地面に足を付ける前には到着して降りて来る二人へとスカートを持ち一礼する。


「メリリさん、お久しぶりです!」


 元気よく声を上げるシャロンとは対照的に、顔を引きつらせるメイドのメルフェルン。


「双月……貴女のような危険人物が、なぜここに……」


「うふふ、危険人物とは酷いですよ~私はここのメイドに就職しただけです。『草原の若葉』の皆様にも良くして頂き大変感謝しております~」


 微笑むメリリに眉間に皺を寄せるメイドのメルフェルン。シャロンはグリフォンのフェンフェンの首を撫でながら綱を引きメリリへと口を開く。


「急に来てしまいましたが大丈夫でしょうか? できたら、その、クロさんにお会いしたいのですが……」


「はい、シャロンさま。ですが、クロさま方は王都へと向かっておりまして……収穫祭は三日ほど行われると聞いておりますので、遅くても後二日で戻って来ると思われます」


「そうですか……」


 クロがいない事を確認したシャロンは肩を落とし、突然叫びを上げるグリフォンのフェンフェン。


「ピュロロロロロ!」


「ひっ!? な、なな、何ですか!?」


 急な叫びに驚き数歩下がりながらもスカートから二本のタルワールを取り出して瞬時に構えを取るメリリ。


「こら、フェンフェン! 落ち着いて、どうして急に威嚇するの! ほら、落ち着いて!」


 綱を強く引きフェンフェンの首を撫でるシャロン。メルフェルンも急に暴れ始めないようにファンファンの紐を強く握り首を撫でる。


「ほら、双月も武器を収めて下さい……ああ、双月がラミアだからフェンフェンが暴れたのかもしれませんね!」


 そう嬉しそうに口にするメイドのメルフェルンにジト目を向けるメリリ。グリフォンは雑食なのだがグリフォンの住む渓谷には多くの蛇が住み、それを主食として襲い食らうのだ。本能的にメリリがラミアと見抜いて戦闘態勢に入った可能性は十分にあるのだろう。


「そうだ! メリリさんが餌ではない事を教えればいいのです! メリリさん、何かグリフォンが食べられそうなものはありますか? 野菜でも肉でも何でも構いませんので何か餌付けして見て下さい」


「そ、そうですね……ああ、クロさまから頂いた、これがありました!」


 スカートに仕込んである小さなアイテムバックに手を伸ばし取り出したのは市販されている干芋である。食べかけなのか封が開いておりその中からスティック状の一本を取り出すと震える手でグリフォンへと近づくと、興味があるのかそれをじっと見つめ「キュュュュ」と甘えた声を上げる。


「あのあの、今のはこれからお前を食べるとか言っていませんよね? よね?」


「大丈夫です! それが食べたいと甘えて言っているだけです!」


「ん? それって同じじゃないですか!? 同じじゃないですか!?」


 ガクガクと震えるメリリ。グリフォンの大きさも頭から前足まで三メートルあり鋭い嘴と力のある瞳が恐怖を増長させる。


「ほらほら、大丈夫ですから早く上げて親交を深めて下さい。貴女もいい年なのですから、さっさと済ませて一息つかせて下さい」


「そ、そうですよね。お客様が来たのですから、おもてなしをしないとですね……はひ、どうぞ……」


 震える手でぶれる干芋を背伸びしながら口元へと持って行くメリリ。グリフォンはそれを素早く咥えると口に合ったのか「キュュュュ」と甘えた鳴き声を上げ顔をメリリに近づける。


「優しく首を撫でて下さい。それが親愛の証になります」


「こ、こうですか?」


 メリリがグリフォンの首を撫でると頭を下げて甘えるようにメリリに擦り付ける。


「少し臭いですがフサフサで触り心地が良いですね。それによく見ると目も可愛らしいです」


「ふぅ、良かった。これで襲われることはないと思います」


「グリフォンは義理堅い性格ですから一度仲間と認めたものには気を許してくれますからね。その期待を裏切らない事です」


 シャロンとメイドのアルベルタから説明を受けたメリリはホッと一息つきながらも甘えて来るグリフォンのフォンフォンの首を撫で新たな干芋スティックを取り出すと、今度はファンファンから近づき口に入れる。


「ほらほら、首を撫でて下さいね。これで二頭とも双月を餌だと思わなくなりましたよ」


「うふふ、慣れてくると本当に可愛らしいですね。長旅で疲れているでしょうからお風呂を沸かしますね~それにおもてなし料理も作らないとですね~」


 メリリは名残惜しそうにグリフォンを撫でると屋敷へと走り、お風呂を沸かす為に裏へとまわり薪に火をくべ水を入れる。


 シャロンは慣れた手つきでグリフォン二頭を連れ、先日も使った厩舎へと入り簡単に掃き掃除をすると水をやる。錬金工房『草原の若葉』では動物や魔物を飼っておらず、立派な厩舎はここへ訪れる者たちの騎獣の為のものである。


「この子たちが優秀で助かりました。長旅もそうですが双月とも仲良くなれましたね」


「そうだね。メリリさんは優しいですし、適度な距離感を保ってくれるので助かります」


「私としてはあの戦闘狂が大人しくメイドをしている事実の方が驚きなのですが……」


 メイドのメルフェルンが甘えて来るグリフォンの喉を優しく撫で終えると二人は屋敷へと向かい、シャロンが慣れた手つきで中へ入り荷物を下ろしソファーへ腰掛ける。


「メルも座るといいよ。前は七日掛けて来た旅を四日で来たからね。疲れただろう」


「はい、失礼致します。ふぅ……確かに途中で目撃したキャッスルベアとリトルフェンリルの争いには驚きましたね……遠目で確認しましたが生きた心地がしませんでした……」


「前の時はワイバーンに襲われて大変だったけど、あれは迫力があったね」


「ワイバーンに襲われたのですか!?」


「ああ、その時は母さんが蹴りを入れて逃げ帰っていたよ……あれはフェンフェンも驚いていたね……」


 母であるカリフェルの戦闘姿を思い出し何とも言えない表情を浮かべるシャロン。メルフェルンは驚きの表情のまま固まり、少しでも季節が早まっていれば自分たちが襲われていたのかと思い身を震わせる。


「カリフェルさまはお強いですからね~こちらはクロさまが私の為に置いて行ってくれたものですが、どうぞ」


 クロから数日家を空ける可能性があるからと受け取ったジュースをカップに入れ二人に提供するメリリ。


「まだ数日しか経過していないのに、懐かしく感じます……」


 そう言いながらオレンジのジュースを見つめるシャロン。


「お風呂ももうすぐ湧きますので、宜しければゆっくりと疲れを取って下さいね。夕食はクロさまが私の為に置いて行って下さった食品をお出し致しますので楽しみにして下さいね」


 一々、クロさまが私の為にと会話に入れるメリリにメイドのメルフェルンは顔を歪め、シャロンは逆にキラキラとした瞳を向ける。


「このジュースも美味しいです。何だか元気が出てきました」


「うふふ、シャロンさまはクロさまがお好きなのですね~」


 揶揄う心算はなかったのだがポロリと漏れた言葉にシャロンは顔を真っ赤に染め上げ急いで風呂場へと駆け出し、口を半開きにして驚くメリリ。メルフェルンは両手で頭を抱え俯き「将来が心配です……」と声を漏らすのであった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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