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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第七章 収穫祭
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冒険者ギルドで吠える商業ギルド関係者



 クロたちは冒険者に変装した近衛兵たちに囲まれ冒険者ギルドへ移動すると、昨日とは違い中から声が漏れ聞こえて来る。


「いったい何時になったらクロという冒険者が来るのかね。冒険者は冒険者ギルドに来るものだろう。それをもう昼を過ぎても現れないとは……はぁ……私の時間は他の者とは違い貴重だというのに……はぁ……これだから冒険者を相手にするのは……」


 一瞬入るのを躊躇うクロだったが手が伸びアイリーンがウエスタン映画風のドアを押して入り、ギギギという音が視線を集め猫耳の受付嬢と目が合い声を上げる。


「クロさま!」


「何!? どれがクロだ! あの白髪か? それとも黒髪か? 小さな子供までいるが……それにメイド? ええい、クロはどいつだ!」


 漏れ聞こえていた声の主だろう男はやや小太りで、指には印象に残りそうなほど多くの指輪を嵌めておりキラキラと輝く金糸の刺繍を入れた服を着て、如何にも成金主義の様な姿をしている。


「えっと、自分がクロですが、その前に依頼の終了手続きをお願いし」


「いや、こちらが先だ! こっちは数時間も待っているのだからな。昨日販売していた魚の唐揚げについて話を聞かせて欲しい。なに、悪いようにはしないし、特許を申請の紙に記入さえすれば私の用事も終わるというものだ」


 クロの言葉を遮りゆっくりと歩を進める男にクロは苦笑いを浮かべる。


「えっと、自分は冒険者のクロですが、貴方は?」


「私は商業ギルドの副ギルド長をしているリペインというものだ。これでも子爵に連なるものである」


 腕組みをしながら話すリペインは書類を手渡し、クロはそれを目で追いながらギルド証をアイテムボックスから取り出すとアイリーンに渡す。


≪私に報告をして来いってことですね~やだ、クロさんはEランクとは思っていたよりも低ランクですね……≫


「冒険者ギルドは実績重視だからな~低ランクでも依頼は受けれるからいいんだよ。身分証として使えれば……」


≪確かに身分証として使えるのなら便利ですね。私も作ろうかな~≫


 二人のやり取りに苦笑いを浮かべる冒険者ギルドの受付嬢。その猫耳をペタリと頭に付け、今の話は聞いていませんとでも言いたげであった。


「ほれ、早くサインをしろ。字が書けない訳でもあるまい」


 急かしてきたリペインに文字を呼んでいたクロは契約というものがこの世界では重要視されている事を師であるエルフェリーンから叩き込まれており、一字一句読み落とすことなく確認する。


「えっと、魚の唐揚げを提供したい屋台は商業ギルドへ月に金貨一枚支払い、その内の銀貨二枚が特許申請者に、残りは商業ギルドですか……」


「そうだな。商業ギルドの管理運営資金になる。こうした特許は五十年ほど利益を生み出し、画期的な商品はたんまりと金貨が動くからな。冒険者の様な者たちの生活を守る事に繋がるのだよ」


 ドヤ顔でクロへと視線を向けるリペイン。クロは受付嬢へと辿り着いたアイリーンとアリル王女がメイドのアルベルタに抱っこされ書類を見つめ漏れ聞こえて来る声に耳を傾ける。


「本来、代理の届け出は冒険者ギルド証を提示して頂く義務がありますが、今回の場合はすぐそこにご本人が居りますので特別に受理させて頂きます。屋台での営業の手伝い。期間は魚が売り切れるまで……って、一日で売り切ったのですね! 先ほどエイラさまが完了のご報告をされましたが、とてもお喜びになっていましたよ」


≪頑張りましたからね~今、あっちで話しているのも屋台の料理のことですし、魚の唐揚げは飛ぶように売れましたよ~≫


「お魚なのに飛ぶのですか?」


 アリル王女の言葉にプッと息を噴き、笑い声を上げる受付嬢とアイリーン。


「これ、私の話を聞かんかっ! 態々出向いてやっているのだぞっ!」


 声を荒げるリペインに心底面倒臭いと思いながらも口を開くクロ。


「あの、この契約は無しにして、魚の唐揚げは屋台をやる皆さんが自由に調理できるようにしてほしいのですが……」


「は……………………なぜだ! 確実に儲かる話なのだぞ! 今日だって何件も問い合わせが来て大変だったんだ! それだけ話題になり食べられなかった者たちに申し訳ないと思わないのか! やはり冒険者が絡むと碌なことにならないな……これだから経済の知らない物を相手にするのは嫌なのだ……はぁ……お前はこの書類にサインをすればいいのだよ。損をする話ではないのだぞ」


 最初は顔を赤くして怒鳴るように話していたリペインだったが、最後は諭すように話しクロを丸め込もうとする。


「屋台で毎月金貨一枚も取られては経営が難しいでしょう」


「その通りだな。その為の話題性が魚の唐揚げにはあるのだよ」


「それって、この世界の料理に対する文化が育たない原因じゃないですか?」


 クロの言葉は尤もで、商業ギルドが売れ筋の料理の特許を取らせ一部の店だけが儲かる仕組みを作り上げた事により、独占的な販売でライバルと切磋琢磨する形ではなくなっているのである。他にも原因は多くあるのだが屋台では串に刺して焼き、カットされた果実が並び、酒はワインが並ぶ現状にクロとしては思う所があったのだろう。


「何を言うかと思えば文化だと! 冒険者風情が何を偉そうに言っている! そもそも私との取引に応じない時点で商業ギルドを敵に回すという事に何故気が付かない! これだから変な正義感を持つ輩は嫌いなのだ……はぁ……正義じゃ硬いパンすら食えないというのに……いいか、私は子爵に連なるものだと言ったよな。ここにサインしなければ不敬罪として処分する事すら出来るのだかなら。その事も加味してよく考えろっ!」


 書類を手に取りクロに押し付けるリペイン。


「不敬罪の使い方が間違っていますよ」


 急に後ろから声を掛けられたリペインは驚くが、その言葉は幼女からのものであり一瞬怯んだ自身に顔を赤くし声を荒げる。


「ガキが何を知った風な事をっ! いいか、俺は子爵に連なっ!?」


 途中で言葉が詰まるリペインは一気に顔を青ざめる。喉元にショートソードが向けられ、アリル王女は冒険者に変装した近衛騎士に守られその場を離されたのだ。


「こ、これはどういう事だ………………な、何をしているのか分かって」


「アリル・フォン・ターベストさまへの不敬罪、並びに侮辱罪を確認した! この男を引捉えろ!」


「はっ!」


 近衛騎士長の言葉に一斉に動き出し縄でグルグル巻きにされるリペイン。それを見たアリル王女は口をポカンと開け、クロも同じような表情で只々見つめる。


「アリル王女さまがこんな所にいる訳ないだろ! やめろ! 冒険者風情が貴族の真似事など!」


 叫びながらも縄で拘束されるリペインに怖くなったのか、アリル王女は近衛騎士たちからクロの後ろへと回り上着の裾を掴みながら隠れる。


「もう怖くないからな~近衛騎士さんたちが捕まえてくれたからな~」


「はい……」


≪テンプレのように威張る商人でしたね~ほらほら、怖い思いをしたアリル王女さまにはこれを上げましょうね~≫


 アイリーンが持ち歩いているマジックバックから棒付きの飴を取り出すと、パッと表情を明るくするアリル王女。


「あの、本当にあれぐらいでも不敬罪や侮辱罪に当たるのですか?」


 グルグル巻きにされ口に猿轡まで嵌められたリペインを哀れに思ったクロは近衛騎士長に耳打ちをする。


「際どい所ですね。ですが、アリル王女殿下をガキ呼ばわりは許せませんでした」


 座った目でリペインを見つめる近衛騎士長に苦笑いを浮かべるクロは、後でエルフェリーンを連れ商業ギルドへ向かうと心に決めるのだった。







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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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