ハミル王女との別れ
ハミル王女が来てから一週間が過ぎると枯れ木のような腕はややプニっとした肉付きへと変化し、成長期の回復力には目を見張るものがあった。
あったのだが、腕だけではなく頬や二の腕に太腿にお腹もプニプニと……
「うんうん、健康的に育ったね!」
ハミル王女を頭の先から足のつま先まで確認したエルフェリーンは嬉しそうな笑顔を向けるが、ビスチェとクロはやや引き攣った笑みを浮かべる。
「あんたが甘い物を食べさせ過ぎたんだからね!」
そう耳打ちをするビスチェにクロは魔力創造で作った物を思い出し深く反省する。
「これがポテチというものなのですね。ぽりぽりぽりぽり、美味しいです!」
「まるでインクの様な飲み物ですが……黒くてシュワシュワして美味しいです!」
「甘くて冷たくて香りもよくとても美味しいです!」
「奥に苦味が感じますが甘くて口の中で溶けるのですね!」
「これはポテチですよね? あむあむ、こ、これは!? バターと醤油のマリアージュが口内で革命を起こしています!」
「牛丼……天丼……親子丼……マーボー丼……この世に丼が広まればすべての国民が幸せだと実感できる気がします……」
「ファ○チキ……から○げクン……ナ○チキ……これが異世界の戦争なのですね……」
「このハニートーストを私は文化として保護したいと思います! 数種類の甘味は個々でも素晴らしいですが合わさると無敵です! 王女としてこの文化を保護するべきだと私は訴えます!」
「筒状にする意味は解りませんが、これほどまでに多くの味が存在する食べ物があるとは驚きです……クロさま! これは研究機関を立ち上げて見てはどうでしょうか?」
「マヨ? マヨマヨマヨマヨ……マヨ~~~~~~~」
色々と思い出して顔を青ざめたクロは深く反省しながらも、お土産として持たせたはち切れんばかりの革袋には多くの種類のお菓子が詰まっていた。
「それでは名残惜しいですが王都へ戻ります……ビスチェさま、クロさま、アイリーンさま、本当によくして頂きありがとうございました。お菓子が無くなり次第こちらへ使いの者を出しますのでその時は宜しくお願い致します」
丁寧に頭を下げるハミル王女に苦笑いを浮かべるビスチェとクロ。
「これからハミルを送って来るからね~明日には帰って来るから留守番宜しく頼むぜ~ゲート!」
エルフェリーンが手を翳し力ある言葉を解放すると目の前の景色が歪み黒い穴が現れ、次第に黒い穴には赤が混じりレッドカーペットが現れ、奥には国王だろう王冠を被った者が金の椅子に腰を降ろしている姿が見えると歩きだすエルフェリーンとハミル王女。
二人が姿を消すとゲートは四散して、いつもの庭が姿を現す。
「なんだか別れを惜しむよりも心配の方が大きかったわ……」
ジト目を向けるビスチェに同じ気持ちだった様で「ああ」と短く返しながらも苦笑いが顔から離れないクロ。
「ギギギ」
「ああ、アイリーンもそう思うのね。クロの出すお菓子は美味しいけど夢中になって食べると、ああなるという教訓ね。何でも適量があるのよ!」
「ギギギ」
アイリーンはクロの裾を引くと細い腕で地面に書いた文字を見せる。
『キングベアの魔石を出して』
ちなみに異世界の文字で書かれており、ハミル王女と共にエルフェリーンから文字を教わったアイリーン。ハミル王女も体調が悪く文字を覚える勉強はしてこなかったようで、この短い期間にアイリーンというライバルと一緒に文字を覚えて帰って行った。
「ああ、俺が持ってるけどどうするんだ?」
「ギギギ」
『食べる』
「はっ? 食べるの……前に食べた事があるのか?」
コクコクと頷くアイリーンは文字を追加する。
『少し甘かったり辛かったりする。食べると強くなる気がする』
「ああ、それは私も聞いた事があるわ。魔物は魔石を食べると力を付けて種族の格があがるとか……アイリーンは女郎蜘蛛だから何になるのかしら? 女王蜘蛛?」
ビスチェの言葉にクロが思い出がいた姿は、大きな蜘蛛が網タイツを履き鞭を振るう姿であった。
「何にしてもアイリーンが仕留めたからな。ほい」
アイテムボックスから拳大の黒い紫色した魔石を取り出すとアイリーンの前に置く。アイリーンは数度頷くとボリボリと音を出して咀嚼し満足げな顔を上げる。
「強くなったか?」
クロの言葉に頭を傾げるアイリーンだったが体をむずむずと揺らすと自身の巣穴へと帰還する。
「あれは大丈夫なのか?」
「解らないけど……もしかしたら巣穴で脱皮でもするんじゃない?」
「脱皮か……進化したら俺たちの事を忘れるとかないよな?」
「どうかしら……魔物になった事がないか解らないわね……」
確かにその通りだと思うクロは魔石を食べていたアイリーンの姿を思い出し、あるものを魔力創造で作りだす。
「おお、作れるものだな」
「何よそれ……アメじゃなさそうね……」
クロは封を開けビスチェの手に数個乗せると凝視しながら指でつつく。
「何だか魔石みたいな……果実の香りがするわね……」
「さっきアイリーンが魔石を食べてただろ。それでグミと似てるなぁ~なんて思ってな。食べてみ、美味しいから。あむ、ああ、こんな味だったな」
訝しげな表情をしていたがクロが口にした事もあり、ひとつ摘まみ口に入れるビスチェ。
「何か変な食感だけど美味しいわね。グニグニ下噛み応えなのにグレープの味がするわ……不思議……」
「作り方は忘れたけど体に悪いものじゃないからな」
「でも太る……」
別れたばかりのハミル王女を思い出すクロは、今頃王城では驚いているだろうと想像する。
「今度はダイエットにこっちに来るとかないよな?」
「それはないでしょ。あむあむ、こっちで太ったんだから……」
「それもそうか……」
暖かな日差しを浴びながら話していたビスチェはグミを食べ終えると薬草畑へと向かい、クロは体を伸ばし手にしていたグミを口に入れると残りはアイテムボックスへと放り込む。
「今日は師匠もいないし、どうするかなぁ~」
空を見ながらゆっくりと過ぎる時間を何して潰そうか考えるクロであった。
これにて一章は終わりです。18日の11時から一週間ほど一話ずつ上がりますので、お付き合い頂けると嬉しいです。
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