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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第七章 収穫祭
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玉子焼き



「あまり美味しくないのだ……」


 お城の一室には豪華な朝食が並ぶ中、そう言いながらも確りと朝食を口にするキャロット。隣で白亜も何度か頷き気まずい思いをするクロとアイリーンとルビー。エルフェリーンとビスチェは気にした様子もなくマヨネーズで焼いた玉子焼きを口にする。


「私は美味しいと思いますが……クロさんはどう思いますか?」


 その言葉に感想を聞きたいコック長と王族にメイドが一斉に瞳を向ける。


「えっと………………美味しいですよ」


 心の中ではハミル王女のキラーパスに何で俺なんだと思いながらも無難な回答をするクロ。しかし、数秒の沈黙があった事であまり口には合わなかったのだと察するコック長は肩を落とす。


「もう少し香草を増やしてマヨを減らせば脂っぽさが減って良いと思いますよ」


 肩を落とした姿にクロが助言をすると顔を上げ「試してきます!」とその場を離れ走り出すコック長。


「僕はクロの作った甘い玉子焼きが食べたいね~」


「魚の出汁を使った玉子焼きですね! あれはお酒にもピッタリで美味しいですよね!」


≪出汁巻き卵ですね~私も食べたくなってきました~≫


「キュウキュウ~」


「あれは甘くて美味しいのだ!」


 白亜まで甘えた声を上げクロに手を合わせ、同席していた国王や王妃に王子たちも微笑みながらクロを見つめる。


「流石にコック長が料理を出してくれるのに作れませんよ……朝食は折角作って頂いたのですから、これを頂きましょう」


「うむ、ならコック長も同席させ学ばせれば良かろう」


「そうして頂ければ私たちも毎日クロさまの美味しい玉子焼きが食べられますね」


「うふふ、楽しみが増えるのは喜ばしいですわ」


 国王が笑顔を向け隣に座る王妃方も笑顔を向けられ、困った事になったと思うクロ。エルフェリーンとビスチェたちも賛成なようで笑顔でアレコレ話しはじめる。


≪出汁巻き卵などの和風に、オムレツなどの洋風、かに玉や天津飯といった中華風もありますからね~≫


 アイリーンの文字が浮かび一斉に会話が止まり文字を読み、その視線はクロへと集まる。


「オムレツ? かに玉? 中華風?」


「出汁巻き卵は甘い玉子焼きかい?」


「和風、洋風、中華風とは何なのだ?」


「キュウキュウ!」


「あははは、白亜は全部食べたいと言っているよ~」


 隣に座り甘えた声を掛けて来る白亜に「朝食を食べ終わったら作るからお腹いっぱいになるなよ」と優しく口にするクロであった。










「では、玉子焼きの作り方ですが、自分の作り方は基本的には我流なので、後で王様たちの好みに合うよう工夫して下さいね」


 朝食を食べ終えたクロたちが向かったのは貴賓室が多く集まるエリアの厨房でそれほど広くはなく、竈が二つと四人も座れば埋まるテーブル付きの椅子と戸棚にはグラスや皿が少なく入れられている。貴賓室に宿泊する者に仕えるメイドや執事が使う場所なのだろう。


 そんな狭い空間にはコック長の男とその弟子が二名参加し、ドアからは王妃さま二人にハミル王女とアリル王女が顔を出している。国王とダリル王子は収穫祭中も職務がありそちらへ向かい、エルフェリーンたちは宿泊した貴賓室で完成を待っているのだが、


≪最初は出汁巻き卵から行きましょう!≫


 アイリーンだけが残りメイド用の白いエプロンを付け元気に文字を浮かせる。


「まずはフライパンですが、自分はこれを愛用しているので」


 そう言いながら取り出したのは玉子焼き用に使っているテフロン加工された異世界のフライパンである。


「あまり見ない形ですな」


「底が平ですね……」


「底が平らなのには理由がるのですか?」


 この世界の一般的なフライパンは中華鍋に近い形をしており、薪で燃やした炎を効率よく当てるには中華鍋の様な丸みがあり竈の穴にすっぽりと嵌る形の方が向いているだろう。


「形についてはコック長が持って来たものでも構いません。ただ、このフライパンは焦げ付きにくい加工がされていて玉子焼きなどを作る際に重宝しますね」


≪目玉焼きを作る時には便利ですよね~≫


 アイリーンの文字での合いの手に多少面倒臭い気もするが説明を続けるクロ。


「えっと、まずは基本となる甘い玉子焼きです。これは砂糖と塩を入れて焼くのですが、確りと砂糖と塩を玉子で溶かしてから使います。砂糖や塩の粒が残っていると下にざらつきが残ったり、一部分だけ甘みが強く感じられたりしますから少量の水で溶かしてから混ぜた玉子と合わせます。玉子はこした方がいいとかありますが、我流なのでそこは割愛しますね」


 温めたフライパンに油を軽く入れ卵液を入れると素早くかき混ぜ、固まり始めた所で手を止め手首を使って卵を巻き込みながら形を整える。


「あまり弄り過ぎないのがコツですね」


 皿に移すと綺麗な焼き上がりの甘い玉子焼きが完成してそれを切り分けると笑顔のアリル王女が「美味しそう……」と呟き、厨房内は微妙な空気が漂い始める。


「おっほん、私たちも味見をしても構いませんか?」


「お腹の子にもクロさんの玉子焼きを食べさせてやりたいですね」


「マヨを添えるのはどうでしょう」


 王妃二人とハミル王女からの圧力が掛かり切り分けた玉子焼きと別れを告げるコック長たち。クロは急いで同じ玉子焼きを作るが、笑顔のエルフェリーンと甘えた鳴き声を上げる白亜に三度目の同じ玉子焼きを作り始める。


「三度も見れば覚えられますよね……」


「はい……目分量ですが覚えたと思います……」


「ああ、玉子焼きを作る時のフライパンはできるなら玉子焼き用にした方がいいですよ。玉子は臭いが移りやすくて洗ったとしても臭いが移ってしまう事がありますから」


「なるほど……新しいフライパンを用意しましょう」


「よっと、では、味見をして下さい」


 三度目の玉子焼きが完成するとナイフを入れ切り分けたコック長が口にして、甘みと塩味を確かめながら咀嚼する。


「次に作るのは基本のオムレツですね。これは具を入れてもいいですが基本なので具は無しにして作りますね。塩コショウと牛乳を入れ玉子を混ぜて温めたフライパンにバターを入れ溶かします。この時にバターを焦がさないよう予め油を入れておくのも手ですね」


 バターが溶けた所でかき混ぜながら形を整えると半分に折り重ね、あっという間に完成するオムレツ。余熱で中まで火を入れるのがポイントだろう。


「うちではケチャップをかけますが、そこに拘らず具材を炒めたソースなどでも美味しくなると思いますよ」


 そう言いながら完成したオムレツにアリルとケチャップで書き入れるクロは目をキラキラさせて待つアリル王女へと渡す。


「ふわぁ~私のお名前です!」


「なるほど……名前を書くことであんなにもアリル王女殿下の心を掴むとは……」


「これは塩分量に気を付けなければなりませんね……」


「名が長いとケチャップも多く掛ける事になるな……」


 感心するコック長たちを横目にクロは次に強請られるだろうエルフェリーンたちの分を焼き始め、ケチャップで白亜と書き三度目のオムレツを作り始める。


「キュウ~キュウ~キュウ~」


 オムレツを取りに来たルビーがお礼を言って去り、隣の部屋からは白亜が喜ぶ鳴き声が聞こえると同時に「私の名前も書いて欲しいのだ!」とキャロットの叫び声が耳に入り肩を震わせるクロとアイリーン。


「バターのコクと香りにケチャップの酸味が良く合いますな……」


「中が柔らかく絶妙な焼き加減……これは練習がいりますね!」


「それにしても棒を二本使って巧みな腕捌きに驚きますね……」


 箸の文化がない異世界ではクロの使う菜箸に驚くのは無理もない事だろう。


「次は中華風の餡かけを乗せたものですね」


 クロは次々に玉子料理を作りながら教えるのだった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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