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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第七章 収穫祭
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朝の中庭でお散歩



「お城の貴賓室をホテル代わりにしても良いものかね……」


 朝起きて部屋を見渡したクロは豪華な造りの貴賓室で目を覚まし、カーテンを開けるべく足を進める。


「前は狸耳の不審者がいたが……ふぅ、流石に二度目はないか……」


 カーテンを開けると昇り始めた太陽の光が庭園に降り注ぎ、幻想的な風景を作り出していた。


「ここからの見晴らしは本当に綺麗だよな……はぁ……」


 小さなため息を吐くクロは二度寝しようかとも考えたがスッキリと目が覚めた事もあり中庭を散歩しようかと着替えを済ませる。


「ふわぁ~勝手に出歩いても大丈夫だよな」


 不審者として捕らえられる可能性もあるかと思いながらも、部屋を出てメイドを探しながら足を進める。メイドに出会えばそこで中庭散歩の許可を取ろうと思ったのだ。


 まだ早い事もあり貴賓室が集中するエリアにメイドの姿はなく足を進め、広いエントランスへとやって来たクロは一人のメイドを発見する。白いカチューシャやメイド服よりも目立つ小麦色した狐尻尾と狐耳に一瞬目を奪われるも口を開く。


「あの、」


「ひゃっ!? ひゃい……」


「驚かせてしまって申し訳ないです」


「い、いえ……何かありましたか?」


 まだ朝早くモップで床を磨いていた狐耳のメイドは驚きの声を上げ、クロが謝罪すると笑顔へと変わる。


「中庭を散歩しても構わないでしょうか?」


「中庭ですね。はい、問題ありません。この時期は花も綺麗ですが木々の葉が紅葉しておりますので、そちらもご覧ください」


 微笑みながら話す狐耳のメイドに軽く頭を下げお礼を言い外へと向かうクロ。開け放たれている大きなドアを抜けると朝日が眩しく、朝露に反射した光が木々や草花を輝かせる。


「近くで見ても幻想的で綺麗だな……」


 色鮮やかに咲き乱れる花々や丁寧に育てられている木々を見渡していると、ひとつの窓が開き声を掛けて来る少女。


「クロさま! 朝早くから散歩でぇーすぅーかぁー」


 大きな声でクロを呼ぶ声に、まだ王族の人たちは寝ているだろうと思うクロは、人差し指を立てて自身の口元に添える。


「あぅ!?」


 ジェスチャーに気が付いたのか慌てて口に両手を当てるアリル王女。その姿にクロは意味が通じたと思いながらも一人笑い、シールドを階段状に設置するとそこを駆け上がりアリル王女の元へたどり着く。


「まだ寝ておられる方も大勢いますので静かにしましょうね」


「はい……えへへ、朝からクロさまにお会いできて嬉しいです!」


 最初こそ小さな声で話していたアリル王女だったがクロに会えて嬉しいのか、最後には大きな声で叫びながら窓からクロに抱き着く。まだパジャマ姿のアリル王女に戸惑いながらも、お姫様抱っこをしてシールドを操作しながら空を進むクロ。


「ふわぁ~お空を飛んでいます!」


「正確にはシールドの上を歩いているだけですが、上から見ると庭師さんの丁寧な仕事ぶりが良くわかりますね」


「はい! 庭師の方々がいつも一生懸命お庭を頑張っています! あの木は私が生まれた時に植えてくれたのですよ。隣の木は姉さまで、兄さまで、おお兄さまのもあります!」


 嬉しそうに庭の木々について語るアリル王女に微笑みながら木々を上から見つめる。落葉樹が多いのか赤や黄色に色付き美しい姿を見せる木々。


「昨日はよく眠れましたか?」


「はい! クロさまと遊ぶ夢を見ました! 今みたいにお空を飛ぶ夢じゃなかったですが楽しかったです! えへへ、あっ!? ハミルお姉さまとダリルお兄様!」


 空中でUターンをした所で窓からこちらを見つめるハミル王女とダリル王子に気が付き、他にも多くの騎士やメイドたちがこちらを指差している。それなりに距離があるので話し声は聞こえないが何やら薄っすらとした声が耳に入る。


「おお、アイリーンにビスチェも起きたみたいだな……ん?」


 アイリーンが糸を飛ばしクロの目の前で急停止する文字。そこには≪朝からロリコンご苦労様です!≫と書かれ顔を引きつらせるクロ。

 次に飛んできた文字には≪誘拐は犯罪ですよ≫と書かれており、騒いでいる原因に気が付いたクロは慌ててアリル王女を返すべくシールドの上を走り出す。


「アリルだけズルいです!」


 アリル王女の部屋へと辿り着いたクロへ向けられた第一声はハミル王女からのものであった。


「クロさんだからあまり心配はしませんでしたが、空を歩いているのには驚きました」


 何やらキラキラとした尊敬の瞳を向けるダリル王子。


「朝から騒がせてしまってすみません。まだ外は冷えますので中へ入りましょうね」


「はい! 楽しかったです!」


 クロから離れ窓から中へと入ったアリル王女は満面の笑みを浮かべており、それとは対照的に目を吊り上げているビスチェ。アイリーンは笑いながらハミル王女のセットしていない頭を優しく撫でている。


「クロ! 朝から幼女王女を誘拐するな! 急にアイリーンに起こされて何かと思ったじゃない!」


≪幼女誘拐犯はここですよ~≫


「おいおい……勘弁してくれよ……それよりも二日酔いじゃなかったんだな」


 昨晩、逃げ出したクロを捕まえたのは近衛兵の一団で、密かに屋台を監視し見守っていたのだ。近衛兵に「国王様がお呼びです」と連れられ城へと案内されたクロはハミル王女とアリル王女から抱き締められ国王の元へと向かい、折角ならと日本酒やどぶろくにウイスキーを魔力創造で作り配り飲み会へと発展し、後からやって来たエルフェリーンたちも混ざりカパカパとグラスを開けて行ったのだ。


「二日酔いはポーションで簡単に治せるわ!」


≪味は悪いけど効果は抜群です! ウコンが入っていますね!≫


 ドヤ顔のビスチェと、どこぞのCMのように文字を浮かせるアイリーン。


「クロさんもどうぞ中へ、まだ早いのでお茶しかありませんがどうぞ」


 そう言って中へと誘うダリル王子にクロはアリル王女の寝室なのに良いのかと思いながらも足を踏み入れる。中は当然のように広く可愛らしいガラス細工が飾ってあり、以前アリル王女と共に窓ガラスを買ったガラス工房で作られた物や、クロがプレゼントしたガラス製のイルカのキーホルダーも飾られている。


「ああ、ありがとう。アリル王女はアレ大事にしてくれいるのですね」


「はい、専用の台座を作ってもらいました!」


 ソファーに腰かけていたアリル王女は立ち上がりキーホルダーを取りに走り台座から丁寧に取り外すとクロの元へと走り、みんなが見られるように両手に乗せて見せて回る。


「あら可愛いわね!」


≪イルカのガラス細工ですね! こっちの世界にもこのようなものがあるのですね~≫


「散々自慢されたガラス細工だね。あの工房は大人気店で予約しないと貴族でも買えないらしいよ」


「私も小さな鳥のガラス細工を頂きましたわ」


 クロのアイディアから発想を得たガラス工房のその後を知り、上手くやっているのかと思いながらメイドさんが入れた紅茶を口にする。


「そんなガラス細工をどうしてアリルにプレゼントしたのかしら?」


 ややムッとした顔で腕を組むビスチェが腰を屈めクロに詰め寄る。


「こっちのガラス細工はリアルさを追い求めているのか可愛らしさがないからな、前に妹にプレゼントしたイルカのキーホルダーを思い出してな……」


 ビスチェから視線を外し俯くクロに、詰め寄っていたビスチェも色々と察したらしく離れ距離を取る。


「妹がいるのですね!」


 笑顔を向けるアリル王女に潤んだ瞳を向けるクロ。他の者たちもその瞳を見て察したのか「朝食はまだかな」や「マヨを使った料理はでるのかしら」と話題を変えようとするハミル王女とダリル王子。


「ふわわわぁ……眠っ……」


 ソファーに座ったまま大きく腕を振り上げ伸びをするクロが目を擦り、勘違いしていた、者たちからジト目を向けられ、目の前には文字が飛び込んで来る。


≪妹さんは今も生きておられますよね?≫


「ん? ああ、元気じゃないかな……って、ビスチェ!?」


 クロが慌てて椅子から飛び退くと座っていたソファー目がけてビスチェの膝が飛び、間一髪で回避に成功する。


「逃げるな! 変な心配させて! 逃げるな~~~~~」


 ビスチェの叫びにクロはアリル王女の部屋から走り去り、二日続けて逃げ出すのだった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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