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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第七章 収穫祭
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屋台にやって来る者たち 2



 王様たちが嬉しそうに魚の唐揚げとレモンハイを楽しんでいると客足が引き、これは王様がいるからではないのだろうかと思っていると響き渡る鐘の音。


「ん? 鐘の音が響いていますが、何かあったのですかね?」


 唐揚げを横で量産するマイラに質問するクロ。屋台の前には王様たちと冒険者が数名しかおらず大通りはまばらに人がいるぐらいで一気に人気がなくなりキョロキョロと辺りを見渡すクロ。


「ああ、もうこんな時間かい。収穫祭は王様の挨拶と酒を無料で振舞ってくれるからね。滅多に市民の前に姿を現さない王様が民に向け声を掛けてくれるからみんな見に行くのさ」


「無料で配ってくれるお酒も評判が良いらしいですよ」


 マイラとルビーが説明に耳を貸しながら目の前でレモンハイのおかわりを手渡すクロと視線が合う王様……


「うむ、この魚と酒は良く合うな。あむあむ……」


「いやいや、良く合うなじゃないですよ! 行かなくても良いのですか?」


「うふふ、大丈夫ですよ。あちらは影武者が担当しておりますから」


 口が塞がっている王様に代わり、説明してくれる王妃さまは嬉しそうに笑顔を向ける。


「音声を保存する魔道具に予め挨拶を入れてあるからな。影武者は身振り手振りで話している様に見せるだけだ」


 魚の唐揚げを食べ終えレモンハイで流し込んだ王さまは口角を上げ嬉しそうに内情を説明する。


「あははは、それを有り難がってみんなで聞きに行ってるんだぜ~」


「有り難がっているのは私の話ではなく、ただ酒ですよ。クロ、もう少し持って帰りたいのだが構わないか?」


「今揚がっている分を包みますね。量が多いので紙コップよりもこっちの方がいいかな」


 クロはアイテムボックスから適当なバスケットに紙を敷き魚の唐揚げを入れ、ビールにレモンハイとペットボトルのジュースを袋に入れ、近衛騎士だろう変装している冒険者に手渡す。


「では料金を、」


「アリル王女さまが支払いましたから! さっきの金貨一枚で充分ですから!」


「これ、クロよ。声が大きいぞ! 王さまは挨拶中だ!」


 大きな声で注意する王さまに王妃さまや王女が笑い出し、近衛兵も笑いを堪えて肩を震わせる。


「あははは、そろそろ宰相くんが怒るから戻ろうか」


「そうですな……はぁ……もっとゆっくりしたかったが仕方がない……エルフェリーンさまお願い致します」


「うん、転移するよ~」


 天魔の杖を掲げるとゲートが現れ中へと進む王族と近衛兵たち。変装しているとはいえ王さまが去る事にマイラとエイラは親子で頭を下げ続けた。


「もう行ったから頭を上げて下さい。それよりもそろそろ昼食を取りましょうか」


「お腹が減ったのだ!」


「キュウキュウ!」


 王族が去り大通りにはまだ人気も少なく今がチャンスと昼食を提案するクロに、キャロットと白亜が手を上げて声を上げる。


「私は温かいものが食べたいわ。ずっと魚を弄っていて手が冷えちゃったわ」


≪私も温かいものが良いですね~屋台らしくラーメンとか!≫


「エイラちゃんも手が冷えただろ。今お湯を出すから手を洗いながら、」


≪浄化の光よ~≫


 アイテムボックスから桶を取り出した所でアイリーンから浄化の光が降り注ぎ、魚臭かった手が暖かな光に包まれるエイラ。


「わぁ~凄い! アイリーンお姉ちゃんありがとう!」


 少女のエイラにお礼をいわれ微笑むアイリーン。クロはラーメンというリクエストを受けるべく炭火のエリアの一角を空けヤカンを火に掛けると、魔力創造で少しお高いラーメンを創造する。


「何これ? 前に食べたラーメンとは違うわね」


「前はもっとこう、カップのような形でしたがどんぶり型ですね」


「わぁ~こんなの初めて見るよ~」


≪これは少しお高い家系ラーメン! チャーシューも入って生めんと引きを取らない美味さの奴ですね!≫


「熱湯を入れて四分な。癖のない醤油味にしたからアイリーンがみんなの分を作ってくれ。俺が屋台を見ているからマイラさんも一緒に裏で食べて下さい」


「私までいいのですか……ありがとうございます……」


「白亜は猫舌だからこっちのお椀に入れ替えてな」


 アイテムボックスから木製のお椀を出してキャロットに渡すクロ。


「任せるのだ! 白亜さまの巫女は私なのだ!」


「キュウキュウ~」


「不思議な入れ物だね~」


「中に乾燥したものが入っていますが……」


≪作り方は私が指示しますから言う事を聞いて下さいね~≫


 アイリーンが指揮を執り乾燥した具材を入れていると声を掛けられクロが向き直り接客を開始する。


「クロさま、お久しぶりです」


 微笑みを浮かべやって来たのは聖女であり、その後ろには数名の聖騎士を連れている。


「聖女さま!?」


「嘘っ!? 何で!?」


 マイラにエイラの親子が驚きの声を上げ、呼ばれた聖女は軽く会釈をすると二人も慌てて会釈を返す。


「魚料理のようですが……」


「魚の唐揚げですね。あと骨煎餅も売っていますよ。人数分でいいですか?」


「はい、では両方ともお願い致します」


「唐揚げが銅貨三枚に骨煎餅が銅貨三枚で、銅貨三十枚です」


「では、これで」


 聖女から銀貨を一枚渡されおつりを用意するクロ。


「はい、確かに……あの、教会へは来て下さらないのですか?」


 おつりを受け取った手をそのまま握り声を出す聖女に困った顔を浮かべるクロは口を開く。


「屋台の手伝いが終わった後なら顔を出す予定です。ああ、子供たちに飴を持って行きませんか?」


「はい……子供たちも喜ぶと思います……」


 そう言いながらも手を放そうとしない聖女に苦笑いを浮かべるクロ。聖女は薄っすらと頬を染める。


「あの、手を……」


「えっ、は、はい……」


 クロの指摘に手を慌てて放す聖女を聖騎士たちは微笑ましく見つめ、それとは対照的に眉を吊り上げるビスチェと、ラーメンのカップにお湯を内側の線以上に入れてあたふたするキャロット。


「はい、お待たせしました。骨煎餅はよく噛んで食べて下さいね」


「はい……ありがとうございます。教会でお待ちしておりますので必ず来て下さい……」


 魚の唐揚げを受け取り深々と頭を下げる聖女に「必ず行きますね」と声を掛けるクロだったが、深々と頭を下げた事もあり地面に落下する魚の唐揚げ。


「おっと、聖女さま!」


 次に受け取ろうとしていた教会騎士団長のサライが慌てて紙コップから落下した唐揚げをキャッチし、聖女も顔を起こしてサライに謝罪しながら顔を更に赤らめる。


「おお、美味いな! サクサクした外側とフワフワした魚の身がたまらん!」


 手にした魚の唐揚げを口にした騎士団長の言葉に他の聖騎士たちも唐揚げを受け取ると口に入れ表情を溶かす。


「ではこれを子供たちにお願いしますね。ゴミは回収しますからまとめて置いて下さい」


 そう言いながら飴を渡すクロ。聖女はまだ取り乱しているのかアワアワしており聖騎士の一人が受け取り頭を下げられクロも下げると、聖女の背中を騎士団長のサライが押して屋台の前を去り、入れ替わりにやって来る冒険者たち。その手にはワインを入れた木製のカップがあり無料で配られている酒を貰って来たのだろう。


「クロさん! 噂を聞きましたよ!」


 やって来たのは冒険者『銀月の縦笛』の面々でイケメンリーダーと女性たちという主人公の様な冒険者パーティーである。


「おう、久しぶりだな。魚の唐揚げが銅貨三枚で骨煎餅も銅貨三枚だ」


「人数分下さい! 『疾走する尻尾』が魚の唐揚げを自慢していましたから、これから忙しくなるかもしれませんよ」


「そうなってくれると嬉しいが、ほい、熱いから気を付けて食べてな」


 お代を受け取って商品を渡すとその場で食べ始める『銀月の縦笛』の面々。口々に味の感想を言い始めると続々と冒険者と思われる屈強な男女が現れ始め長い列を作るのが視界に入る。


「こりゃ忙しくなるな……」


 小さく呟くクロは後ろでラーメンを啜る女性たちが早く食べ終わる事を祈りながら接客と調理を並行するのだった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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