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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第七章 収穫祭
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屋台にやって来る者たち



「唐揚げ作りも慣れてきましたね」


「はい、気泡の上がり方や色味にトングを通しての硬さなどから揚げ上りがわかる様になってきました」


 マイラの成長に喜びながらクロは揚げ上がった魚の唐揚げを紙コップに入れ客に手渡し、受け取る客は珍しそうに見つめながらも串を刺し口に運ぶと美味しさに驚き追加で購入する。


「こりゃ美味いぞ!」


「ああ、新しい魚料理だ!」


「ありがとうございます。良ければ骨煎餅も五本入りで銅貨三枚ですよ」


「骨せんべい? 骨を食わせるのか?」


 眉を顰める客の反応にクロは笑顔で「魚の身はサクサクふわふわですが、骨煎餅はサクサクで少し塩を多めに使い酒と合う味にしています」と営業トークで目の前の男たちに説明すると「なら、ひとつ貰おう」と購入し口に運ぶ。


「こっちも美味いぞ!」


「俺にもくれ!」


「俺も買うぞ!」


「ありがとうございます」


 売り上げは順調に伸び始め一部で噂になると、大きく手を振ったルビーがドワーフを一人連れ現れる。


「おじさん、この屋台です! クロさん、二つ下さい!」


「おう、その人がルビーの叔父さんか?」


「はい、この辺りじゃ有名なナイフ専門店のガラハラさんです」


「ガラハラだ……ルビーから色々と話を聞いている……」


「色々とですか? はい、お待ち」


 背は小さいが屈強な体躯を誇るドワーフらしいガラハラはややムッとした顔でクロを見つめ、ルビーが受け取った魚の唐揚げを口にするとこちらも驚いた顔でひとつをあっという間に食べきると難しい顔へと戻る。


「ルビーが自慢気に言っていたのだ。生涯に打てる一番のナイフができたと……それをクロに送ったと……」


「ああ、これですね。見ますか?」


 腰に差しているナイフの魔剣をベルトごと外して手渡すと、慎重に鞘から抜いてあらゆる角度から見つめるガラハラ。


「むむむ……研ぎの才能はあると思っていたが……素材も凄いがエンチャントも施されているな……」


「ふっふっふ、どうですか! 私もエルフェリーンさまの元で鉄のインゴットから頑張ってここまで出来るようになりました! エンチャントは師匠にして頂きましたが渾身の作品です! 魔道回路にはミスリルを使い、グリップにはサラマンダーの皮、鞘にはサラマンダーの牙を使い、クロ先輩が持ちやすいよう工夫もしました! 斬ると同時に焼き付けダメージを与える魔剣です!」


 小さな胸を張り饒舌に語るルビー。それを感心したように頷きナイフと交互に見つめるガラハラ。

クロとしてはライターとして使っているとは言い出すことが出来るはずもなく、ただ時が過ぎるのを待っているとクロを呼ぶ声が増える。


「クロ! 持って来たぞ!」


「我らの感謝の一振りだ!」


 先ほどやって来ていた『熱い鉄』の二人が再度現れその手には薄緑色したナイフが握られている。まだ刃を付けていないのか鈍い輝きだが普通の鉄ではないことが窺える。


「これが俺たちの礼だ!」


「刃はまだ付けていないが、勝手に刃を付けてしまってはエンチャントで困るだろう!」


 そう言いながら手渡されたナイフは刃渡りが十センチほどでグリップ部分は鉄丸出しである。


「重っ!? これは鉛でできているのかって思うほど重いが……」


「ア、アマダンタイトだと……」


「うひゃ~超が付くほどの高級素材ですよ!」


 ルビーとガラハラもクロが受け取ったナイフに気が付き視線を向け驚きの表情を浮かべ、『熱い鉄』の二人は笑みを浮かべる。


「ガハハ、アマダンタイトは重く丈夫である!」


「耐久性に優れ、ウイスキーの礼としては十分だろう!」


 ダンジョンで受け取った酒の礼だという『熱い鉄』の二人に苦笑いを浮かべるクロ。受け取ったアマダンタイト製のナイフは重く、イメージとしては鉄のインゴットでもそのまま受け取ったかのようで、ナイフとして片手で使える代物じゃないと思うクロ。


「エルフェリーンさまにエンチャントしてもらえば軽くもできよう!」


「鋼も切れ伏すナイフになろう!」


 ドヤ顔を浮かべる『熱い鉄』の二人に、ガラハラとルビーはクロの持つアマダンタイト制のナイフを食い入るように見つめる。


「研ぎのし甲斐がありそうですね!」


「アマダンタイトを贅沢に使っているな……どんな波紋が出るか脅威が湧くぞ……」


「それよりも次のお客さんが待っているから横に避けてくれ。ここは屋台だからな」


「あ、はい! 屋台を手伝いに来たのでした!」


「うむ、すまない……」


「ガハハハ、邪魔をしては例ではなくなってしまうな!」


「我らも買わせてくれ!」


 『熱い鉄』の二人も魚の唐揚げを購入し嬉しそうに食べてながら去って行き、アマダンタイト製のナイフをアイテムボックスに入れるクロは接客へと戻る。


「『疾走する尻尾』から聞いたの! サクサク頂戴!」


「魚のサクサクと骨のサクサク!」


「初めて見る料理だったけど、あれは絶対に美味しいはず!」


『疾走する尻尾』と同じコボルトの女性冒険者たちは尻尾を振りならがオーダーを叫び、その声が更に客を呼ぶ。


≪宣伝作戦は成功していますね~≫


「クロさん凄いね!」


「料理の事はクロに任せればいいのよ! 薬草潰しもね!」


 屋台の裏でアイリーンとエイラにビスチェが下処理を続け、マイラはクロの横で魚と骨を揚げ続け、ルビーはやって来た客に魚の唐揚げを紙コップに入れ提供する。


「うまっ!? これ美味いよ!」


「あいつらが自慢していただけあるね!」


「ふわふわカリカリで癖になる~」


 コボルトの冒険者たちが魚の唐揚げを口に入れ喜んでいると、クロを呼ぶ声が聞こえ辺りを見渡す。


「お待たせ~僕もお客さんを連れて来たよ~」


 屋台から離れた城壁近くに転移してきたエルフェリーンとハミルとアリルの王女姉妹に加え、国王陛下と二人の王妃も地味目な服を着て現れる。近衛兵たちも変装をしているのだろうが、手にはキラキラとした大楯と剣を携え見る者によってはひと目で近衛兵だと気が付くだろう。


「クロ~クロ~食べに来たよ~」


 走ってやって来るアリル王女の声に笑顔を向けるクロは急いで人数分の魚の唐揚げと骨煎餅を用意し、視認できるだけの近衛兵の分を用意する。


「僕が話したら一緒に期待というから連れてきたぜ~ほらほら、売り上げに貢献してくれよ~」


「師匠……お願いですから連れて来る人材はまわりに迷惑が掛からない人にして下さい。ハミル王女とアリル王女の二人ならまだ隠し通せますが王様と王妃様は流石に無理ですよ……冒険者たちは逃げ出しましたし、他のお客さんも逃げ出したじゃないですか……」


 クロが言うように辺りを食べ歩いていた者たちは、明らかに威厳ある態度で屋台へと近づく国王と王妃たちの姿を見ると不審に思い離れ出したのだ。危機管理能力は日本人よりもはるかに高く、人の命が軽いこの世界ではこうした能力の高さが自然と身に付くのだろう。


「えへへへ~収穫祭の時ぐらい祭りを楽しませてあげたいだろ~」


 向日葵のような笑顔を浮かべるエルフェリーン。その後ろでは申し訳なさそうな表情を浮かべる王様とキャッキャしながら魚の唐揚げを受け取る二人の王妃。近衛兵に渡そうとするが辺りを警戒している事もあり手の空いているメイドが持ちやすいようにバスケットに入れて渡すクロ。


「えっと、お代は、」


「あい! 私がみんなの分を払います!」


 幼女王女のアリルが金貨を手にジャンプを繰り返し、それは多すぎるだろと思うクロ。


「おつりは迷惑料として取っておくといい」


 国王陛下の言葉に目が金貨へと変わる屋台店主のマイラと、初めて金貨を見て目を丸くする娘のエイラ。


「あむあむ……美味しいですわ」


「王族になってこうして屋台を回るのは初めてです。ふふふ、立ち食いで食べるのも楽しいものですね」


 王妃二人は味と食べ歩きという行為を楽しんでおり、クロはアイテムボックスからレモンハイを取り出すと配り、お子様王女二人にはジュースを進める。


「酒まで頂けるとはな。うぐうぐ、美味い! さっぱりとした酒に魚の唐揚げは良く合うぞ!」


「さっぱりとした味がとても逢いますね」


「私もこの子を産んだら頂くとしますわ」


「えっと、気が付かずすみません! 代わりにジュースを」


 お腹が少し大きくなった王妃の一人にお酒を渡したクロは頭を下げ、代わりにジュースを進めると嬉しそうに封を開け口にするのだった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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