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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第一章 王家の試練
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マーメイドとキングベア



 多くの人魚たちが現れた事により中止になった釣り大会なのだが、クロの手元には多くの魚が集まりビスチェが捌き、エルフェリーンが土魔法で生成した竈で串焼きにされて行く。


「お魚がいっぱいです!」


「アメのお礼だよ!」


「エルフェリーンさまには薬でお世話になってるからね!」


「ビスチェさまにも魔物に襲われた時に助けられた者も多いの~」


 ボンキュッボンのマーメイドやマッチョのマーメイドが多く集まり、魚を取るとお礼だと言ってクロへと渡したのだ。湖が広い事もありサイズの大きな魚も多くあり釣り大会以上の釣果だろう。


「それよりもあの蜘蛛の魔物は……」


「何だか元気がなさそうだけど……」


「大きな蜘蛛さん!」


 前世では両親と釣りに行く事が多かった事もあり釣り大会の中止に肩を落とすアイリーン。


「次は川に釣りに行こうな」


 そう言いながらアイリーンの頭を優しく撫でるクロ。コクコクと頷くアイリーンだったが、魚が焼ける匂いが辺りに立ち込めると顔を上げ多くある足を動かしエルフェリーンの元へと向かう。


「結局は魚が食べたかっただけかよ……」


 アイリーンに続き串焼き現場に向かい焼くのを手伝うクロ。ビスチェは次々に捌いては串刺しにしてエルフェリーンに渡すと、それを窯にセット焼いて行く。竈の数は既に五カ所ありその数はまだ増えそうである。


「クロは焼けたらハミルに食べさせて、マーメイドたちに配ってくれ。アイリーンは……先に食べるかい?」


 コクコク頭を下げるアイリーンにクロは紙皿を魔力創造すると焼きたてのニジマスに似た魚の串を取り紙皿に乗せハミル王女へ渡すと、目を輝かせるが食べ方がわからないのか右手で串を持ち左手で紙皿を持ったままあたふたする。


「骨に気を付けてガブっと食えばいいよ。ここはお城じゃないからな、作法があるとしたら美味しく食べるだけだ」


「はい、では、あむぅーーーーーー美味しいです! 焼いただけなのに美味しいです!」


 アイリーンも細い前足を使いクロの裾を引っ張り早く欲しいと訴える。


「ほいよ。ここに置くぞ」


「ギギギ」


 地面に置いた紙皿の上に乗る串焼きを頭を上げて噛り付くと、美味しいのか大きなお尻をフリフリと動かし一気に食べきる。


「頼むから串は残そうな……よし、他のも焼き上がってきたな。子供のいる親御さんはこっちに並んでくれ~熱いから冷ましてから一緒に食べる様にな」


 串焼きを配りながら注意するクロにわいわいと並ぶマーメイドの母親たち。やや目のやり場に困りながらも串焼きを配るクロに子供たちは感謝の声を上げる。


「おいしい~」


「パリパリする~」


「生より好きかも……」


「母ちゃんにもあげるね、あ~ん」


 子供たちが喜ぶ顔を見て地球だろうが異世界だろうが、微笑ましい親子の姿に表情を崩すクロ。


「ここは素晴らしいですね。家族が一緒に温かい料理を仲良く食べる姿は心が温かくなります」


 ハミル王女の言葉にクロは頷きながらも串の角度を変え満遍なく火が通る様に調整する。


「どんな所にも家族があって仲良くできる……お城では大変だったみたいだが師匠が手を尽くしたし、これからは変わるといいな」


「はい! 失脚した貴族には申し訳ありませんが、平和な王国を目指したいと思います」


 まだまだ痩せすぎなハミル王女だがその頬笑みはとても嬉しそうに見え、早く体力がつく様にクロはこれからの食事を考えながら串焼きに火を入れて行く。


「次は奥さまたちに配るから手伝ってくれるか?」


「はい、任せて下さい!」


 王女ハミルも手伝い串焼きを配り、ビスチェもひと段落したのか血まみれになった手を洗い焼けた串焼きを頬張り表情を崩す。


「おいひぃわね! 塩加減が完璧だわ! 皮はパリパリだし身はホクホクね」


「うんうん、マーメイドのみんなには感謝だね。釣り大会は中止になったが美味しい魚は食べられたからね」


「そうですね。焼いただけと思いましたが、こんなにも美味しいのはビックリです!」


「この湖はマーメイドたちが管理しているから底も泥が少なくて綺麗なのよ。泥臭さがないから本当に美味しいわ!」


「そういってもらえると嬉しいです。はふはふ、美味しい」


 人妻のツナが串焼きを食べながら話に加わり、そこからはマーメイドが会話に加わりは西に花を咲かせたが、ポキが異変に気がつき声を上げる。


「あれ見て! 蜘蛛さんが!」


 ポキが叫び指差す方向にはいつの間にか居なくなっていたアイリーンの姿があり、何やら大きなものを引きずる姿が見て取れた。


「おいおいあれって……」


 クロが呆れた様な声を出し引きずる魔物を見つめ、エルフェリーンは串焼きを食べていた時よりも表情を綻ばせる。


「キングベアだよ! この辺りで最強を誇る魔物なのに凄いよ! キングベアの皮は対刃性能が高く革鎧にすれば冒険者から垂涎の一品だし、内臓はポーションはもちろんだけど薬に関しても多くの物が作れるし、薄毛に効果のあるポーションやオスとしての力を高めるポーションも作れるね! 

 肉も他のベア種よりも癖が少ないし、あばら骨まわりの肉は絶品だよ! 手が珍味とか言われるけど僕は肝臓を蒸したものが大好きだよ! クロ!」


 早口で捲し立てるエルフェリーンを先頭にクロは走り出しアイリーンの元へと急ぎ、遅れてやって来たビスチェを加えて解体作業が行われる。

 キングベアと呼ばれるだけありその巨体は地球上のホッキョクグマよりも大きく、立ち上がればちょっとしたビルサイズである。そこから繰り出される一撃は鉄だろうが軽く引き裂く爪と腕力を持つ強力な魔物である。


 土魔法で大きな台になる小山を作り出すとアイリーンが足を糸で結び引きあげると、クロが恐る恐るキングベアに触れアイテムボックスを使い血液だけを回収する。霧の様に変わった血液が吸い込まれるとナイフを手にしたビスチェが手慣れた手つきで皮をはぎ、それと並行してエルフェリーンが内臓を確保して行く。


 それを遠目で見るハミル王女とマーメイドたちは慣れた手つきで解体される様をポカンと口を開け見つめ、小一時間ほどすると綺麗に解体され新たな串焼きが振る舞われる事となった。


「こんなに大きな魔石は久しぶりに見るね! 純度も高く僕の拳よりも大きいよ!」


 キングベアの魔石は濃い紫色をしておりそれだけでも美しく、エルフェリーンは頬擦りしながら魔石に魅了されていた。他の者たちはキングベアの串焼きに魅了され、クロが魔力創造で作りだした焼き肉のタレをつけながら焼いた肉を頬張る。


「肉としては抜群に美味しいです。アイリーンさまに感謝ですね」


「ギギギ」


 嬉しそうに両手を上げ大きな尻尾を振るアイリーン。彼女も久しぶりに食べる焼き肉のタレ味に感動したのか、涙を流す事はないが口を動かし多くの肉を消化して行く。


「それにしてもアイリーンは強いんだな……キングベアは相当強かっただろ」


 クロが肉に夢中なアイリーンに話しかけると顔を上げて首を傾げると地面に文字を書きはじめる。


『罠から反応があった。動けなければ楽勝』


「蜘蛛らしいというか……敵にまわしたくないな……」


『クロは仲間じゃん』そう地面に書いたアイリーンは食事を再開し、夕日が差し込むまで賑やかな湖畔に笑い声が響き渡るのであった。





 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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