脱皮と魔力創造された本
「では、我は一旦戻るが、エルフェリーンさま方は王都へ向かうのですな」
「うん、収穫祭を少し覗いてからお世話になっている王族やギルドの人々に採れたての果物やキノコを配って来るよ~」
「仕込んだワインとどぶろくも届けないとね!」
翌日、朝食を食べ終えた一行はドランを見送り今後の予定を話し合っていた。ドランは日本酒造りを一応は終えた事もあり里に戻るといい、来年の酒造りにも協力をするという。一緒にゴブリンの里にいるキャロライナは近くに住むマーマンたちが安全に暮らせる為に海岸の整備を手伝いながらカニの養殖施設用の場所を作るという。
「我妻ながらカニを気に入り過ぎだと思うが……」
「あの大きなカニは美味しかったですよね」
≪味を思い出すだけで涎が出ます! 次はカニクリームコロッケやカニしゃぶにカニカマが食べたいですね!≫
「最後のはカニじゃないがカニクリームコロッケは俺も食べたいな……これは皆さんで楽しんで下さい」
アイリーンに軽くツッコミを入れながらドランに日本酒やウイスキーを持たせたクロはカニ料理を考えながらお茶のおわかりを配る。
「感謝する。カニの養殖が上手くいったら真っ先に届けよう」
≪それは楽しみです! 脱皮したてのカニを唐揚げにすると殻ごと食べられます!≫
ソフトシェルクラブと呼ばれる脱皮したてのカニ料理を思い出し、笑顔で文字にして浮かせるアイリーン。
「ああ、そんなのもあったな。パリパリして美味かった」
≪私も一度だけ食べましたが、あれは美味しかったです≫
クロとアイリーンの会話に涎を口いっぱいにするキャロットと白亜。ルビーも気になるのかチラチラとクロとアイリーンを交互に見つめる。
「脱皮といえばアイリーンは脱皮するのかな?」
急に話を振られた一瞬呆けるもアイリーンは蜘蛛の魔物だった時のことを思い出して腕を組み考える。
≪あの時は脱皮する事が不思議と解ったので……何回か脱皮しましたが今は脱皮する気分じゃないですね≫
「気分で脱皮するのか……」
≪気分とは違うかもしれませんが脱皮する前に安全な場所を作らなきゃと思ったり、まわりに敵が来ないよう穴を掘ったりしましたね。本能で分かる的な事です!≫
「脱皮直後は最も弱くなるからのう。我らドラゴニュートも脱皮をするが脱皮直後は部屋に籠り鱗が固くなるまでは外に出ないのう。アイリーン殿が言うように本能かもしれんな」
「へぇ~脱皮については初めて聞いたけど面白いね! 脱皮するのが楽しみだね!」
エルフェリーンが笑顔を浮かべ脱皮するドランとキャロットに白亜を交互に見つめると、白亜はキャロットに抱かれていたがクロの元へと慌てて逃げ出し抱き付き背中へと隠れる。本能的にここが一番安全だと思っているのだろう。
「もう、師匠は揶揄わないで下さいよ。ほら、白亜も背中じゃなく前にこいよ」
上着の引っ張り隠れる白亜に首が苦しく前に抱き寄せるクロ。するとアイリーンが文字を浮かせる。
≪脱皮した皮を食べましたがあまり美味しくはなかったですね~脱皮直後はお腹が異常空くんですよ~今思えば考え方も変わった気がしますね~≫
「脱皮した皮を食べたのか……何だか凄いな……」
≪今は食べたいと思いませんよ~あの時はひとりで生きるのに必死でしたから……≫
少し悲し気な表情で話すアイリーンに隣に座っていた事もありエルフェリーンが抱き着き、ルビーも椅子から降りて背中に抱き着く。
≪わわわわ、どうしたんですか~≫
「困った事があれば頼るんだよ!」
「私も力になりますから! なりますからね!」
横と後ろから抱き着かれたアイリーンはやや混乱するも、二人は仲間として力になりたいのだろう。
「俺も料理ぐらいしか力になれないが、脱皮する事があったら好きなものを作るからな」
「キュウキュウ~」
「それなら肉なのだ! おっきな肉を焼いて欲しいのだ!」
抱いている白亜が鳴き声を上げキャロットが料理のリクエストを叫び笑いが起こるリビング。
「仲間思いの良い弟子たちですな」
「もちろんだよ! 昔も今もここは仲間を思って行動する者たちだぜ~」
「そうでしたな……先日のイナゴ騒動もラルフやカリフェルが集まり……仲間とは良いものですな……」
静かに目を瞑り一緒に旅をした仲間を思い浮かべるドラン。
「今度は仲間の墓参りに旅をするのも良いかもしれないね」
「その時は是非、一緒に参りましょう」
「うん! クロたちも連れて墓に飲ませたかったお酒を供えようぜ~」
「そうですな……奴らも喜ぶでしょう……」
そんな会話を耳に入れながらビスチェはアイテムボックスにキラービーの蜂蜜と妖精が育てはじめたキノコを入れ終わり席に付く。
「ふぅ……まだ越してきたばっかりなのにキノコがこんなにも育てているとは驚いたわ」
「我らはある一定の菌類や植物の成長を促す力がありますから。お願いして悪いのですが、それを売ったお金で必要な物を買って来てほしいのです」
「そんなのは構わないけど……妖精茸って本当に妖精が育てているのね……」
「はい、キノコに魔術を使い育てます。本来ならもっと時間を掛けて育てるのですが、イナゴの灰がありましたので五日ほどで収穫ができました」
「へぇ~やっぱりイナゴの灰は凄いんだな」
「はい、あれ以上の肥料はないと断言できますね」
妖精のリーダーへ小さなカップに入れたお茶を進めるクロ。震えていた白亜はキャロットに渡して玄関近くで話をしていた二人の元へ様子を見に来たのだ。
「そういや蔓芋も大きくなってたな。向こうの世界じゃあり得ない成長速度だったよ」
三十センチほどの蔓芋の蔓を地面に埋め、約一ヶ月で蔓を巻いた蔓芋。灰を肥料として使うと一気に成長が促進され蔓も伸び高さも五十センチほどに成長したのだ。
「もう収穫しても実を付けていると思うのですが、エルフェリーンさまと協議してから決めたいと思います」
「楽しみね! クロはスイートポテトを作ってよね! アイリーンの話を聞いてからずっと楽しみにしているからね!」
笑顔を向けるビスチェに頷くクロ。
「ならば我々も頑張らないとですね」
「ええ、お願いね! スイートポテトが完成したら必ずみんなを呼ぶからね!」
テンション高く声に出すビスチェに「楽しみにしています」と口にする妖精たちのリーダー。クロもこれは失敗できないぞ、と思いながら記憶にある料理本を魔力創造する。
「何それ!」
創造した傍から奪い取られた料理本を見て素早く奪い取ったビスチェは、表紙のカラー印刷に目を見開きページを開く。
「凄い! 油絵よりも鮮明に書き写しているわ……これがクロのいた世界の技術……前の大きな塔も凄かったけど、これは……」
「素晴らしいですね……ここまで美しく再現するのは難しいと思いますが……」
ビスチェと妖精のリーダーが見つめる料理本にはフルーツがたっぷりと使われているケーキの写真があり、この本はクロがコンビニで並べていた一冊で料理に興味を持つ事となった一冊である。
「俺が初めて買った料理の本だな……この本を監修している料理研究家の番組を見て料理に興味を持ったんだよ……懐かしいがちゃんと再現できているな……」
二人に混ざり料理本を確認するクロ。
「これは魔導書かい?」
「何と美しい料理の数々……」
「これが食べたいのだ!」
「キュウキュウ~」
「見た事のない料理ばかりです……」
「うふふ、どれを作るにしても美味しそうですね~」
いつの間にか現れたエルフェリーンをはじめとした仲間たちにクロは、どれを作ろうか悩んでいると袖を引かれる。
≪女子に人気の薄い本を創造してくれませんか?≫
頬を染めたアイリーンからの文字にクロは首を横に振るのだった。
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