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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第七章 収穫祭
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天界とシャロンの姉妹



「あまり美味しくないわね……」


 天界では異世界初の日本酒を口にした女神ベステルが感想を漏らし、頷くまわりの女神たち。


「やはり精米の段階から見直すべきだな……大吟醸なる酒は白米を半分ほど削り出した中身を使うという……寝かせ保管していた樽にも工夫が必要だな……いっその事、陶器を使った保存法に変えれば匂い移りは……」


 酒を口にしてぶつぶつと呟く酒の神イストールは、クロが以前奉納した日本酒とどぶろくを飲み比べながら失敗した原因を考察する。


「後味に雑味が残るな……」


「スッキリとした後味ではないですしぃ、アルコール度も高い気がしますぅ」


 叡智の神ウィキールと愛の女神フウリンの口にも合わなかったのか感想を述べると、クロから奉納された缶ビールやカクテルを開け口にする。


「違いはあるが、それほど悪くないわ。洗練された味ではないけど、これはこれで日本酒ですわ。大事なのは次に良い物を作るという事ではなくて?」


 武具の女神フランベルジュの言葉に呟いていた酒の神イストールが顔を上げる。


「その通りだな……」


「私の白薔薇の庭園も進化し続けるわ。新たに打った白薔薇の庭園改は砂鉄ではなくミスリルとアマダンタイトと合金で作り、総重量が五十キロを越えますが刃こぼれなく鉄をも切り裂く切れ味を可能にしましたもの! 試行錯誤を続ける事で少しでも次に繋げる努力をするのですわ!」


 言いたい事を言った女神フランベルジュは異世界初の日本酒を一気に飲み干すと、白ワインの封を開けワイングラスに注ぎ口を付ける。


「確かにそうだな……次だな……」


 腕組みをしながらグラスに入れた異世界初の日本酒を見つめ改善点を思案する酒の神イストール。


「ほらほら、辛気臭い顔してないで料理も食べなさい! 今日はワニの唐揚げにアイスも送ってくれたのよ! クロに催促した私に感謝して食べるといいわ!」


「添えられた果実はぁ工房の近くに植えられた果実ですねぇ」


「先日皆で採取していたものだな」


「バニラアイスによく合ってぇ美味しいですぅ」


「唐揚げもサクサクで肉汁が迸るわね!」


 各々好きな酒を口にしながらクロから送られてきたおつまみを口にする。


「下界ではそろそろ収穫祭ですねぇ」


「どっかの神の影響で小麦畑が荒らされなくて良かったですわ」


「まったくだな……あのイナゴがそのまま西へ進めば大飢饉が発生していた……エルフェリーンが止めたからいいものの、オークの国から連邦にターベスト王国と西にへ進み山を越え、ドラゴニュートの里までも食い尽くしただろうな……」


「人族はもちろんのこと、ゴブリン、エルフ、オーガ、ドラゴニュート、ラミア、妖精、ケンタウロス……大飢饉でどれだけの数が息絶える事になったか……」


 指折り数える叡智の神ウィキール。他の神たちも頷き合い事の深刻さが伺える。


「近隣でもサキュバニア帝国だけは寒冷地にあるから問題なかったけど……そうそう、サキュバニア帝国の王子は面白いわね!」


「シャロンくんですねぇ! 彼には可能性を感じますぅ! 禁忌と言われがちですがぁ私は断然アリだと思いますぅ! この世界にも薄い本の文化を流行らせるべきですよぉ!」


 拳を握りBLは文化だと言い張る愛の女神フウリンに、まわりは苦笑いを浮かべる。


「いや、そうじゃなくてね。インキュバスでありながら男へ恋愛感情を抱いた事とか、女装をしていた事なのだけど……」


 苦笑いを浮かべ話す女神ベステルに愛の女神フウリンは立ち上がり口を開く。


「ぬわぁ~にを言っているのですか! BLは文化であり、文学であり、芸術なのです! この崇高で一途な思いがなぜ解らないっ! シャロンくんがクロさんを思うのは自由であり――――」


 熱く語る愛の女神フウリンの声が天界に木霊し、酒の神イストールはこっそりと席を立ち女神ベステルの私室から姿を消し、叡智の神ウィキールもそれに続き、この部屋の主である女神ベステルが席を立つが飲みかけの日本酒の瓶に左手がぶつかり高い音を立てて転がると、力説していた愛の女神フウリンの言葉が途切れ目が合う二柱。


「ささ、まだまだ続きがありますからぁ~」


 笑顔で肩を組み座らせようとする愛の女神フウリン。片や、座ってなるものかと足に力を入れる女神ベステル。


 二柱の攻防は数時間に亘り続いたという……








 一方、話題に上がったシャロンはサキュバニア帝国の私室で着せ替え人形にされていた。


「カリフェル母さまから聞いて驚いたけど、本当に可愛いわぁ~」


「はい、一輪の百合の花のようです……」


「シャロン兄さま? 姉さま? すっごくきれー!」


 第二皇女であるキュアーゼと第三皇女でありまだ幼いキョルシーにシャロンの専属メイドであるメルフェルンから賛美の声が上がる。中でもキョルシーは笑顔で両手を叩いて喜びを表す。


「ううう、何で母さんばらすかな……はぁ……」


 大きなため息を吐くシャロンはウエディングドレスの様な真っ白いドレスを着させられ煌びやかな宝石や黄金を使ったアクセサリーを装着しており、その姿は容姿の整ったエルフや異性を虜にするサキュバスすらも一歩退く美しさであった。


「次はどのドレスにしましょうか」


「こちらのドレスアーマーなどは如何ですか?」


「こっちのパーティードレスも着させたいわ!」


 メイドのメルフェルンは白地のドレスに金のプレートが眩しいドレスアーマーを手に取り、姉であるキュアーゼは青く胸元がザックリと空き強調されるドレスを手に取り笑顔を浮かべる。


「えぇーこのままがいいです! この服のまま一緒に遊んで下さい!」


 妹であるキョルシーはウエディングドレスの様な今の服装を気に入っているのかシャロンの腰に抱き着く。


「僕ももう着替えは……キョルにこの前の旅とイナゴ退治の時のことを聞かせたいな~」


「うん! 聞きたい!」


 二人は手を繋ぎソファーへと向かい座り、置いて行かれ頬を膨らませるキュアーゼは急ぎシャロンの横に座る。専属メイドであるメルフェルンは喉が渇くだろうと紅茶を入れに動き部屋を退出する。


「錬金工房『草原の若葉』の皆さんは――――」


 シャロンはキョルシーに解りやすいよう工房の者たちについて語り、中でもクロという男について詳しく説明した。


「クロさんの料理はどれも見た事のないもので美味しかったよ。カニを使った料理も美味しかったな~」


「ああ、あれは美味しかったわね! あんなに大きなカニを見たのは初めてだったし、味付けが最高だったわ! 他にもチョコだっけ? あれも美味しかったし、お酒も最高だったわね! 眩しい部屋に閉じ込められた時はアレだったけど、中に食料も多く用意してあってどれも見た事がないものだったわ!」


 早口で捲し立てるキュアーゼにシャロンが言おうとした事を先に言われ眉を顰めるが、妹のキョルシーは目を輝かせ耳を傾ける。


「私もチョコを食べて見たかったです!」


「それならあるわよ! 少しだけど持ってきちゃった」


 女神シールドで囲まれた部屋に避難した時にチョコの袋をアイテムボックスに入れ盗んでいたのだ。


「それって、泥棒……」


「いいのよ! あの時にあったものはどうせ食べちゃっうんだから! 今食べるか、後で食べるかってだけよ!」


「それはそうかもしれませんが……」


 手早く袋を開封しチョコを取り出すとキョルシーの手に乗せ、それを見つめて目を輝かせる。


「早く食べないと溶けてしまうわよ」


「ええっ!? あわわわ、あむあむ……甘いです!」


 満面の笑みを浮かべるキョルシーに満足したキュアーゼは、シャロンにも袋から開封したチョコを口に近づけ「あ~ん」と声に出す。


「あむ……美味しい……です……」


 特に抵抗する事もなく口で迎え入れたシャロンだったが、チョコの味に色々と思い出す事があったらしく次第に涙を溜める。


「シャロン兄さま?」


 突然の涙に気が付いたキョルシーは心配したのかシャロンに抱き着き「大丈夫ですか?」と口にし、キュアーゼはあわあわとしながら取り乱す。


「紅茶をお持ちしたのですが……それ所ではないようですね……」


 素早くティーセットを乗せていたワゴンから涙を流すシャロンに近づきハンカチで優しく涙を拭う専属メイド。


「クロさん……」


 小さく呟くシャロンが国を飛び出したのは、この日の夜であった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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