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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第七章 収穫祭
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異世界初の



 クロが指揮を執りアイリーンとルビーにメリリが手伝い、ロザリアとラルフのお別れ会、兼収穫祭の料理が次々と完成して行く。


 サッと茹でた葉野菜とモヤシに市販の胡麻ドレッシングを和え、炒ったナッツを振りかけたサラダ。

 みんな大好きギガアリゲーターの唐揚げに、ビスチェが育てている菜園のナスに似た野菜は素揚げにしてから麺つゆに浸して煮浸しへ。

 ツリーエルクの肉は下味を付け表面を焼き、ビニール袋に入れてから湯煎した鍋に入れて蓋をしてとろ火で放置。三十分ほど置いてからカットして火の通りを確認すればローストビーフならぬローストツリーエルクが完成しており、それに合わせるソースはスライスした玉ねぎと和風ドレッシング。

キャロットと白亜が屋敷の裏で採ってきたキノコは先日襲ってきたワイバーンの肉と合わせバターソテーへと変わる。

 採ってきた果実は皮を剥き市販のバニラアイスを皿に乗せ横に添え、荒く切った葡萄を蜂蜜と煮詰めソースにし、溶けないようアイテムボックスに入れてある。


「デザートもあるから食べ過ぎと飲み過ぎに注意な~」


 クロが声を掛けるとロザリアとラルフの手には白ワインとウイスキーが注がれたグラスがありキッチンに向け掲げる。


「豪華な料理を感謝するのじゃ」


「これは一生の思い出になりそうですな」


「ほらほら、乾杯するよ~クロもグラスを持ったかい」


 エルフェリーンに声を掛けられ手元に用意していた白ワインを入れたグラスを慌てて持つクロは、ダイニングに向けて皆の「乾杯」に合わせる。


「唐揚げなのだ!」


「キュウキュウ~」


 キャロットと白亜は真っ先に山盛りのギガアリゲーターの唐揚げに手を伸ばし口へ運ぶ。エルフェリーンとビスチェは初めて見るサラダに興味を持ったのか取り分け、アイリーンはツリーエルクのローストビーフ風を選び取り分け、ロザリアとラルフに進める。


「薄ピンク色をしておるが火が入っているのかの?」


≪問題ないですよ~低温調理という奴ですね~≫


 先に口に入れたアイリーンの頬を押さえて蕩ける表情にロザリアとラルフも口に入れる。


「これは何と柔らかい……」


「うむ……今まで食べた肉が嘘のように感じるのじゃ……」


「このキノコとお肉の炒めた料理も美味しいです!」


 裏庭で取れたキノコとワイバーンのバター炒めを口に入れたメリリがレモンハイ片手に感想を言うと、自身で採ってきた事もありキャロットが手を伸ばし口に入れる。


「美味いのだ! キノコがコリコリでお肉がパリじゅわなのだ! 白亜さまも食べるのだ!」


 白亜に取り分けると少し表情を硬くするが口に入れた途端に尻尾がメトロノームのように振られ「キュウ~~~~」と鳴き声を上げる。


「キャロットと白亜が採ってきたキノコとこの前のワイバーンを使ったからな~ロザリアさんが食べているのはさっきのツリーエルクです。口に合いましたか?」


 白亜とキャロットはリアクションが大きく美味しいと一目でわかるが、あまり表情を崩さないロザリアとラルフは二切れ食べ目を閉じ咀嚼しており判断に困る。


「うむ、これは絶品なのじゃ……これほど柔らかく肉汁があふれ出るのに、火が入っておる事に驚くのじゃ」


「よく煮た肉が柔らかいのは知っていましたが、生の様な加減なのに柔らかく味付けも癖になりますな。肉臭さが付け合わせの野菜で全く感じませんし、シャキシャキとした食感で肉の柔らかさが引き立ちます……やはりクロ殿の料理は美味い!」


 ウイスキーを口に入れ余韻を楽しみながら感想を述べるラルフに、クロも「恐縮です」と口にして席に付き料理を口にする。


「おお、思ってたよりも上手くできたな。和風ドレッシングとも相性がいいし、少し酸味遭があると淡白な鹿肉も食べやすいな」


≪まったくです! 鹿料理とか火入れが難しくパサつきがちなのに美味しいです! 前の空鴨の時といいクロ先輩は凄いです!≫


「あの空鴨料理は美味しかったわね! ソバと一緒に食べるとプルプルでいて甘みも感じられて。また食べたいわ!」


「私はこの黒い野菜が美味しいです。味が中まで染みて味が濃くウイスキーに合う気がします!」


≪ナスの煮浸しですね~あむあむ……うわぁ~懐かしい味付けです……≫


 ナスの煮浸しを口にしたアイリーンが日本を思い出し、薄っすら涙が出そうになるのを堪えていると、ビスチェとロザリアが二人合わせて立ち上がる。


「誰か来たわ!」


「強い魔力反応が……ああ、ドラン殿か……」


 外は暗く月が出ていても明るい室内からでは敷地外に誰がいるか確認する事は難しいが、風の精霊が囁き教えるビスチェと特殊な瞳を持つヴァンパイアには確認できたようで玄関へと向かうビスチェ。ロザリアは立ち上がったが座り直し白ワインを口にすると唐揚げを大きな口を開け齧り付く。


「ドランが来たという事は完成したのかもしれないね!」


 飲んでいたグラスをテーブルに置くエルフェリーンはクロへと視線を向けてニッコリと微笑み、ルビーは立ち上がりビスチェの後を追った。


「完成ですか?」


「ああ、神から頼まれこの世界で生まれた新しい酒さ」


 ドヤ顔で疑問をぶつけてきたラルフに答えるエルフェリーン。


「神から……うむ……それは……凄いのじゃ……」


「ドラン殿が新しい酒を……」


「ドランは手伝ったぐらいだと思うけど、酒の神が天使を二人寄こしたからね~クロが作ったどぶろくと創造魔法で出してくれた日本酒にこの世界の日本酒……日本で作ってないから名前はどうしようか? ゴブ酒?」


「名前は後で決めるとしてもどぶろくを取ってきますよ。日本酒もですね」


「うん! 頼むよ~」


「それでしたら私も、」


「メリリさんは食事を続けて下さい。アイテムボックスに入れて持ってきますから手間じゃないですし、歓迎会も手の込んだ料理を出せませんでしたから、ゆっくり食べて下さいね」


 その言葉を残しキッチンから地下室へ向かうクロへ頭を下げるメリリ。


 地下室から簡単に作れることもあり定期的に仕込んでいるどぶろくをアイテムボックスに入れたクロが戻るとドランの姿が見え、その手には大きな樽が抱えられ床へ降ろす所であった。


「クロ! 完成したぞ! 試飲してくれ!」


 ドランが嬉しそうに叫びクロは小走りで向うと、ラルフの手から影が走り蓋を切り裂く。影魔法を使用し蓋を切り裂いたのだ。


「ん? 思ってたよりも少し色があるね。黄色い?」


 エルフェリーンの言葉にドランが無言で頷く。クロが魔力創造で作り出した日本酒は透明度が高く見た目は水と変わらないのだが、ワイン樽のように木製で作られた事もあり木の色や風味が多少なり移っているのだろう。


「まずは口に入れないとね~」


 そう言いながら新しいグラスに汲み上げるとその色はやはり薄い琥珀色をしており、皆が見つめるなかエルフェリーンが口にする。


「ん? 美味しいけど……………………何か違う気がする……」


 首を傾げるエルフェリーンにクロがグラスを受け取り口に含むと雑味が感じられ、アルコール度も若干高いのか日本酒? という味であった。


「試行錯誤を続けて、もっと美味しいお酒にしていきましょう」


 そう言いながらどぶろくと日本酒をアイテムボックスから取り出すクロ。他の者たちも飲み始め試飲会となるリビング。

 どぶろくや日本酒と味を比べながら飲んでいると肩を落とすドラン。


「あれだけ苦労したのに失敗とは……」


「何を言っているのかな~失敗じゃないよ~これは成功へ向けた一歩だし、クロの世界のお酒は一度や二度の失敗で作れるようなものじゃないって事だろ」


≪日本酒の歴史は古いですからね~千年以上前だとか聞いた事がありま……≫


 アイリーンの文字が途切れ察するクロたち。エルフェリーンの年齢は少なくとも二千才以上が確定しており、古いという単語に思う所があったのだろう。


「あははは、そんなに気にしないでくれよ~僕は今この瞬間が楽しいからね~新しいお酒も飲めた事だし、神たちへ奉納はしたのかな?」


「はい、それはしっかりと社を作り奉納させていただきました。酒が消える瞬間が見れ、皆喜んでいましたぞ」


 笑顔へ変わったドランに、クロはテーブルの料理を進めるのだった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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