自家製ワイン作り
「うふふ、ぷにっと、足の裏に伝わる感覚が楽しいですね~」
「少しくすぐったいですよ~」
≪小学校で田植えをしましたが、その感覚に似ている気がします≫
「ほら、真面目に潰しなさい! 潰し残しがあるともったいないから一粒も残さず潰すのよ~」
一行は先日収穫した葡萄を桶に入れ素足で皮ごと潰してキャッキャと声を上げている。
ワインを作っているのだ。
酒を販売するのには免許が必要だが、田舎では各家庭で葡萄を育てワインを手作りしているのが殆どである。
「素足で潰したワインとか……歴史の教科書に載っていたな……」
「去年まではビスチェと二人だけで潰していたけど、今年はみんなが居てくれて大助かりだよ~ワイン作りもみんなでやれば楽しいものだね~」
クロとエルフェリーンは桶に入り葡萄を素足で潰す四人を見ながら、葡萄の選別や茎から身を外す作業をしていた。
「完全に潰れたら声を掛けろよ~新しい葡萄を追加するからな~」
「二十樽はできそうだぜ~」
「飲み放題ですね!」
エルフェリーンの言葉にルビーが目を輝かせるが、赤ワインはあまり飲まないだろうと思うクロ。事実、ルビーとエルフェリーンはクロが魔力創造で作り出したウイスキーを飲むのが殆どである。
「楽しそうな事をしているのだ!」
「キュウキュウ~」
屋敷でお昼寝をしていたキャロットと白亜が中庭で作業している事に気が付き興味を持ったのか現れる。
「これはワイン作りだな。二人も参加するか?」
「やりたいのだ!」
「キュウキュウ~」
即答する二人にアイリーンから浄化魔法の光が注ぎ親指を立て微笑む。
「浄化魔法が掛かったが、靴を脱いでからももう一発頼むな~二人はこっちのブルーシートの上に来て靴と靴下を脱いでくれ。白亜の足は一度洗おうな~」
「キュウキュウ~」
クロの胸に飛び込んで来る白亜を抱き留めると新たな桶を出して足を丁寧に洗うクロ。その後ろで素足のキャロットが覗き込む。
「白亜さまが気持ち良さそうなのだ!」
「キャロットは洗いたいなら自分で洗えよ~流石に成人した女性の足を洗う趣味はないからな~」
「ずるいのだ! 白亜さまだけ足を洗うのはずるいのだ!」
「いやいや、ダメだろ……人として、いや、女性として自分で洗えよな……」
尻尾をピンと立てて声を荒げるキャロットに呆れたように口にするクロ。白亜の足はきれいに洗い終わり新たな浄化魔法が降り注ぐ。
≪洗わなくても私の浄化魔法で綺麗ですよ~ささ、キャロットさんはそちらの樽に入れた葡萄を潰して下さい≫
キャロットの目の前の文字にコクリと頷き葡萄の入れた樽に入るキャロット。
「白亜はこっちだぞ~この桶に葡萄を入れるから踏んでくれ。白夜さんが迎えに来たら飲んでもらうか!」
「キュウキュウ!」
嬉しそうに声を上げる白亜は白亜がすっぽりと収まる少し小さな桶に入れられ、自分で作ったワインを親に飲ませるという提案に喜んでいるのだろう。
「キャロットと白亜は足に神経を集中させなさい! 足の感覚を頼りに一粒も逃さず潰すのよ!」
「解ったのだ!」
「キュウ!」
ビスチェの言葉に元気に応える一人と一匹。
「やっ!」
「キュウ!」
掛け声と共に足に力を入れ踏み始める二人。キャロットの足の一撃により生み出された衝撃波は周囲のブドウを吹き飛ばし、近くにいたアイリーンとクロはその被害に遭い葡萄の果汁と粒塗れとなる。
桶の底が抜け「抜けたのだ!」と叫ぶキャロット。白亜はそこまでの足の力はないようでホッと息を漏らすが目を吊り上げるビスチェ。
「キャロット! 何てもったいない事を! 貴方はクロと一緒に葡萄の選別作業! 白亜も注意しなさいよ!」
「キュ、キュウ……」
あまりの迫力に怯える白亜が後退ろうとするが、すっぽりと嵌った体が後退れば桶は倒れ……
「危なっ! 白亜、落ち着け。ゆっくりと足を動かして葡萄を潰そうな」
「キュウ……」
「美味しいワインを作って白夜さんに飲ませるんだろ?」
「キュウ!? キュウキュウ~」
クロの言葉にやる気を取り戻した白亜はその場で足踏みを繰り返し葡萄を潰す。
「ううう、ビスチェに怒られたのだ……婆ちゃんよりも怖いのだ……」
葡萄をぶちまけたキャロットはクロを盾にするように隠れるが、身長の高い事と白亜に付き樽を押さえしゃがんでいるクロの後ろには隠れる事が出来ず、そっとビスチェの様子を窺うとまだ目を吊り上げておりエルフェリーンの横に並び葡萄の選別を始める。
「いい、ワイン作りは真剣勝負よ! これは来年まで飲み続けるから絶対に美味しいワインを作らないといけないの! ずっと不味いワインを飲み続けるのは地獄なんだからね!」
ビスチェの言葉に元気よく返事を返したのはルビー。ここで≪クロ先輩のお酒を飲めばいいのでは?≫と文字を飛ばそうとしたが空気を読み飛ばすことはなかったが、メリリが口を開く。
「失敗した時はクロさんのお酒を飲むという手もありますよ」
笑顔でビスチェに向け声を掛けるメリリ。
「それは……でも、伝統として伝統として、作り続ける物なのよ! 私もクロの白ワインが好きだからあまり強くは言えないけど……それでも作り続ける事が大事なのよ!」
自分に言い聞かせるように声を上げるビスチェ。
「俺は楽しみにしているからな~」
クロなりにフォローの心算で口を開いたが、顔を赤く染めるビスチェ。
「ななな、私の様な美少女が素足で踏んだワインが楽しみって!? クロの馬鹿! アホ! ド変態!」
両手で真っ赤な顔を隠し叫ぶビスチェに、そんな趣味はないないのになぁ……と思うクロ。
「クロは変態なのだ!」
「キュウキュウ!」
「改めて思うと素足で踏んだものを飲むというのは、少し恥ずかしいですね……」
キャロットと白亜は子供のように囃し立て、ルビーは若干だが頬を染める。
≪前々から思っていましたがビスチェさんは妄想力が高いと思います!≫
目の前に飛んできた文字を見て確かにと思うクロ。そのお陰で言われない罵倒を何度も受けているのだ。
「それよりも、葡萄を追加するぞ~」
特に気にした様子もなく選別した葡萄を持ち踏み潰している桶へ視線を向けるクロは一番潰れているビスチェの前へ行くと、一瞬逃げる素振りを見せるが桶に入っている事とワインを作るという使命がそれを許さず、プルプルと震えながら顔を隠しクロが葡萄を補充するのを待つ。
「これでよし!」
「は、早く離れなさいよ!」
「はいはい、離れるよ」
叫ぶビスチェにクロは立ち上がり離れようとするが、足を滑らせたビスチェが悲鳴を上げる。
「キャッ!?」
短い悲鳴に振り向いたクロの前にはビスチェのドアップがあり、両手はどこかを掴もうと空を切る。
「おわっ!?」
クロも悲鳴を上げまわりの乙女たちから注目を集め、飛沫を上げる葡萄の果汁。
「ご、ごめん……大丈夫……」
ビスチェが掴んだのはクロの頭でそれを手にしてビスチェ自身は転倒を免れるが、クロは顔面から葡萄の果汁が溜まる桶へ顔から突っ込んだのだ。
「ぶはぁっ!? ぜえぜえぜえ……死ぬかと思った……」
顔を上げた先には頬を赤く染めたビスチェが謝っており、ゆっくりと立ち上がるクロは「大丈夫だよ」と声にするが葡萄の果汁は頭から滴り衣服を赤紫に変える。
≪美少女が潰した果汁に飛び込むとは流石です!≫
「クロが赤くなったのだ!」
「キュウキュウ~」
「あはははは、クロ! 白亜が味を聞いているよ~」
「うふふ、クロさまには申し訳ありませんが、とても楽しいですね!」
何とも言えない気分になるクロだったが、口にした葡萄の果汁は甘く美味しいワインができると一人確信するのだった。
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誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。
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